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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第59話:恐怖の肉塊キメラ




「大城市上空の異次元にエネルギートンネル反応。現在8階層ほど離れています」



 SST本部のオペレーションルームにブザー音が鳴り、オペレーターが冷静に事態を報告する。

 この世界が存在する次元と、ウボームが根城とする次元は、地層のように折り重なった階層によって隔てられている。

 その階層を超次元レーダーが探知し、ウボーム襲撃を予知するのがこのシステムだ。



「来ましたか……。到達予定時刻はいつですか?」


「現時点では36時間後と出ています」



以前のブレイブウィングによる調査により、エネルギートンネルの出力規模、そして階層の厚みは判明している。

 そのデータをもとに、おおよその到達時刻が割り出されるのだ。

 無論、毎回全く同じサイズのエネルギートンネルとは限らない。

 広くなればエネルギー圧が拡散されて到達時刻は遅くなるし、狭ければ早くなる。

 残念ながら、その変動幅までは予測できないのが現状だ。



「分かりました、ひとまずはそれを基準に超次元対空戦闘を予定しましょう」



 そう言いながら宮野が指令席につき、盤面に光る大城市のマップへと目を落とす。

 そこには現在、各地で極めて小さなゼルロイドの反応と、強力な魔法少女の反応がいくつか表示されていた。


 天色、緋色、黄緑の点が中心街、駅前アーケード、旧繁華街エリアで点滅している。

 体育祭のために出撃出来ない蒼達に代わり、街の魔法少女達が雑魚ゼルロイドと戦っているのだ。

 状況としては、至って平和な、いつもの大城市である。

 よほどのイレギュラーがなければ、十分な余裕をもって迎え撃つことができるだろう。



「第4階層まで来たら市内全域に警報を出してください」



 関係各所に連絡を行いつつ、宮野がコーヒーでもと席を立った瞬間、オペレーターの悲鳴のような叫び声が響き渡った。



「エネルギートンネル既に第3階層です!! 第2階層……エネルギーゲート開きます! 光風高校直上!!」


「なっ!? 警報発令! 超次元対空戦闘開始!」



 宮野が手に持った紙コップのコーヒーを握りつぶしつつ、非常ボタンを叩き割る。

 それと全く同じタイミングで、大城市のマップ上にダークフィールドの光点が出現した。




/////////////////




「んー! 歯痒い! 歯痒いぞお前ら!」



 夕闇迫るグラウンドの隅、魔法少女部の給水テント後片付けをしつつ、響が愚痴を吐いていた。

 というのも、あの騎馬戦の後、魔法少女部の戦績は燦々たる有様なのだ。

 部活動対抗障害物リレーでは、香子と蒼が盛大に足を引っ張り、数学問題早解きクイズダービーでは、詩織とティナが部内平均を盛大に下げ、騎馬戦の大活躍は見る影も無い。

 たった一人、響が全種目で個人最高得点をマークするなど大奮戦したが、それだけでは部の勝利には繋がらない。



「たはは……また明日頑張りましょう」



 詩織がパイプ椅子を畳みながら苦笑する。

 蒼と香子は部室で売り上げの集計中だ。



「でもわたし、すっごく楽しかったですよ! 明日が楽しみです!」



 ティナも給水タンクを洗いつつ、楽しそうに笑った。

 それに釣られ、響も頬を緩ませ、「そうだな! 明日も頑張ろうぜ!」と、ティナの緑髪をワシワシと撫でた。



 まさにその時である。

 「ド―――ン!」という轟音と共に、校庭のど真ん中へ黒い塊が落ちてきたのだ。

 それはやがて、形容しがたいおぞましい肉塊のような姿に代わり、金切り声のような鳴き声を発し始めた。

 そして、空を染める漆黒のエネルギードーム。



「ダークフィールド!? へ……変……」


「待て! この場で変身する奴があるか! せめて物陰に隠れろ!」



 咄嗟に変身し、飛び出していこうとする詩織の肩を響が掴み、人気のない物置の裏に走っていく。

 校庭に現れた化け物に生徒、来客皆が気を取られている背後で激しい変身の光が走ったかと思うと、そこから二人の魔法少女が飛び立った。

 赤と黄色の光が校庭に舞い降り、異形の怪物と対峙する。


 魔法少女と化け物が! と、色めき立つグラウンド。

 人々は逃げる素振りもなく、校庭に目を向ける。



「みんな! 立ち止まらないで! 早く避難を!」



 御崎を始め、教員や生徒会の役員たちが声を張り上げているが、多くの人々は動こうとしない。

 魔法少女によりあっさり撃破される化け物の光景に慣れてしまった大城市の人々の平和ボケが完全に裏目に出た形である。

 そして不思議なことに、このダークフィールドはマイナスエネルギー濃度が異様に低く、人々の恐怖心や不安を殆ど刺激しないのだ。

 無論、ティナも獣化の影響を受けていない。



「マズいぜこりゃ……」


「迂闊に攻撃も出来ないじゃないですか……!」



 魔法少女二人とウボームのキメラゼルロイドが戦うには、この校庭は狭すぎる。

 少し手元が狂えば、見ている人たちに危害が及ぶかもしれないのだ。

 二人が攻めあぐねている間に、肉塊型のゼルロイドはウニョウニョと移動を始めていた。

 その先は、校舎が立ち並び、観客が密集している方向。



「やべぇ!」



 響がキメラゼルロイドの前に立ちはだかり、両手で進行を止めた。

 5mほどの大きさの割に力は大したことがないようで、響との力比べにアッサリと負け、校庭の中心へ押し戻されていくキメラゼルロイド。

 触手のような器官を響の腕に巻き付けてきたが、彼女はそれを手刀で薙ぎ払った。



「キャアアアアアアア!!」



 触手を切断されたことで苦痛を感じたのか、その肉塊は人の悲鳴のようなくぐもった声を上げて脈動する。



「何だコイツ……! 気色悪いんだよっ!!」



 響の拳が肉塊型キメラゼルロイドに叩き込まれる。



「キャアアアアアアア!!」



 その一撃で、キメラゼルロイドの表面を覆っていた肉塊がボロボロと裂け、校庭の隅へ転がっていった。

 その迫力ある光景に、観客達から歓声が上がる。

 響は人の気も知れずに騒ぎ立てる群衆に「チッ……」と舌打ちをしつつ、両腕に力を込めていく。

 フルパワーなど使えない。

 威力を最小限に抑えつつも、確実に相手を修復不能まで追い込むダメージを与えなければならないのだ。



「良く分かんねぇけど……さっさと終わらせてやるよ!」



 淡く光る拳を構え、響が肉塊に飛びかかった。

 誰もが赤の魔法少女の勝利を確信する。

しかし、響は突然空中でエネルギーを解除し、バランスを崩しつつ肉塊の上に落下した。

 彼女を捕獲せんとばかりに脈動を始めた肉塊から、慌てて飛び退く響。



「響先輩! どうしたんですか!」



 駆け寄る詩織。



「どうもこうもねぇ! あいつ……中に人取り込んでやがる!!」


「え!? あっ……!? うそ……!」



 詩織がウネウネと蠢く肉塊の裂け目を見ると、おどろおどろしい色の肉の中に、淡い肌色の人型が覗いている。

 目を凝らせば、黒と紫の混じった髪を持つ、色白の少女であった。

 動揺する魔法少女の2人の様子を伺うかのように、肉塊が変形を始める。

 ゆっくり、ゆっくりと身体を捻り、内側に格納されていた少女を体表面に浮き上がらせ始めたのだ。



「きゃああああああ!!」



 肉壁が脈動する度に、絶叫する少女。

 これまであの化け物が吐いていた金切り声は、あの少女の悲鳴だったのである。

 観客の反応は一変。

 おぞましい敵を前に、辺りが静まりかえる。

 誰もが唾をのみ、魔法少女達が如何なる手を打つのか見守っている様子だ。

そんな沈黙を切り裂いて、誰かが叫んだ。



「か……会長!!」


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