第8話:幼馴染は魔法少女
ピーー!!ピーー!!ピーー!!
「う……うう……」
腕時計型のウィング操作デバイスのブザーが激しく鳴り、蒼の意識を覚醒させる。
蒼のエネルギーが貫通され、溶かされた肉体を修復し、既にその体は完全に治癒していた。
どれほど意識を失っていたのだろうか、朦朧とする意識で辺りを見渡すと、青い粒子は未だ消えていなかった。
「危ない!!」
まだ敵と魔法少女が戦っている!
蒼が身構えるより前に強い衝撃が彼を襲った。
「がっ!!」
強烈な蹴りが入り、壁に叩きつけられ、呻き声が漏れる。
その真横を猛毒の水流が掠め過ぎていった。
直撃したコンクリートの壁が鋭く切り裂かれ、その切り口がドロドロと溶け落ちる。
「その音早く止めなさい!! こいつの意識がアンタに向くでしょ!」
慌ててデバイスのブザーを切る蒼。
「シュトライフリヒト!!」
青いエネルギー場を纏う魔法少女の掌から放たれた一条の閃光がビネガロンゼルロイドに直撃する。
よく見れば既に爪の片方が折れ、足も幾つかが捥げ落ち、かなりのダメージを負っているようだ。
あの恐るべき尾は健在で、魔法少女を狙ってクルクルと旋回しているが、矢継ぎ早に繰り出される彼女の攻撃が発射のタイミングを阻害し、どうにも攻めあぐねている様子である。
「青の魔法少女……。やっぱり光線技が主体か……」
短剣型の武器を使い、持ち前の高速を生かした接近戦が得意な詩織とは違い、青い魔法少女は高威力の光線を主体とした中、長距離戦型だ。
詩織も中距離戦用の攻撃を持っているが、それとは威力が段違いに高い、ゼルロイドの甲殻を破壊し、確実にダメージを与えている。
「はああああ!! シュトライフリヒト!!」
再び放たれた光線がゼルロイドの尾部に命中し、あの尾を粉々に粉砕する。
急所を破壊されたのか、ゼルロイドはゆっくりと倒れ、煌々と輝いていた複眼が光を失い、動かなくなった。
工場の隅で倒れていた蒼の元にゆっくりと降りてくる青い魔法少女。
詩織の元気な可愛らしさとは違い、少しクールな雰囲気の美しさを持った少女であった。
その凛々しい表情を思わず凝視してしまう蒼。
「君、大丈夫? ヒーローごっこもいいけど、危ないからゼルロイドに近付いたら駄目よ?」
「あ……いや……その……」
「私は魔法少女アクエリアス。この街の守護者よ。じゃあね♪」
蒼に背を向け、飛び去ろうとする魔法少女アクエリアス。
「いや、お前笠原だろ?何言ってんの?」
「え!? 嘘!? うわああああ!!」
蒼のその一言にクールビューティーの皮を剥がれた魔法少女アクエリアスは空中でバランスを崩し、盛大に顔面からスライディングを決めて見せた。
「な…何で!?」
およそ先ほどまでの表情とはかけ離れた間抜けな顔で振り返る魔法少女アクエリアス。
「何ではこっちのセリフだコノヤロー!!」
魔法少女アクエリアスこと、「笠原 香子」 に掴みかかる蒼。
「人が魔法少女部作ったとき散々コケにしやがってー!!魔法少女だったら言えよ!入れよ!!」
「はっ……入れるわけないでしょあんな訳のわかんない部活! 何が悲しくてアンタと仲良く奇人変人扱いされなきゃいけないのよ!」
「お前いつから俺に隠してた! 小学校からか!? 中学からか!? 言え~!!」
「ちゅ……中学1年のころから……」
「コノヤロー!!」
蒼の怒りのボルテージはいよいよ最高潮に達し、香子の襟首をつかみながらグワングワンと前後に揺する。
「ちょ……!! やめ……! ……やめなさいよー!! この魔法少女狂!!」
香子も負けじと反撃し、蒼の顔に張り手を飛ばす。
「俺との友情は嘘だったのかてめー!!」
「嘘だったら助けてないわよ馬鹿!! ていうかアンタどんな生命力してんのよ!!」
取っ組み合いながらお互い上になり、下になり、ポカポカと叩き合う蒼と香子。
遅れて到着した詩織がその光景をポカンと眺めていた。





