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ちゃぷちゃぷという水の音。
次に、何か軽い物が額の上に置かれた。
全身が燃えるように熱い中、そこだけがひんやりと心地いい。
健太は重たいまぶたを開けた。
ぼんやりと霞む視界に人影が映った。
「母さん……」
次の瞬間、みぞおちに強烈な痛みが走った。
「誰が母さんだッ!お前のような人間を産んだ覚えはないッ!」
咳き込んで涙目となった健太は、みぞおちに肘鉄を決める少女を見た。
少女は小学生低学年くらいの背丈、服は襟元がのびきったよれよれな半袖シャツ一枚だけ。髪はかなりのロング。そして、それは、薄暗い部屋の中でもはっきりと分かるくらいに紅かった。
「ま、意識を取り戻したみてえで安心したぜ、人間。朝になっても起きねえから、正直、やべーなと思ったが、これもオレの手厚い看病のおかげだぜ。有り難く感謝しろよ、人間」
「お前……、誰だ……」
「あ?オレか?オレは――あー、まだ正式な名前はねえんだった。とりあえずは、ライノって呼んどけ」
「ライノ……?」
「ああん?お前、ライノウイルスも知らねえのかよ。ジョーシキねーなー。ライノウイルスっていや、風邪、風邪っていや、ライノウイルスってぐれえ有名だろうが」
「ライノ、ウイルス……」
健太は唐突に毛布をはいで起き上がった。
彼の腹の上にのっていた少女、ライノはそれによってベッドから転がり落ちる。
「いってー。おい、どこに行く気だ人間」
健太は壁際のラックからリ○ッシュのボトルを持ち上げると、発射口を、きょとんとするライノへ向けた。――噴射する。
「ぺっぺっ!何しやがるッ、人間ッ!」
「ウイルスなら、除菌しないと……」
「お前、除菌っつってんだろうが!オレはウイルス!あんな下等バクテリア共と一緒にす――ぺっぺっ!おい、オレの話を――ぺっぺっ!やめっ――ぺっぺっ!ぐぁああああああああッ!上等だっ、ごらァッ!」
ライノはカッと赤い目を見開いて片手を上げた。
何かを握るかのように、小指から中指を折り曲げた。
口を大きく開く――が、ふらふらと焦点が定まらない健太の様子を見て、はぁ~と盛大にため息をつくと、赤髪をくしゃくしゃと掻きむしった。
ライノは健太の手からリ○ッシュを奪い取った。
背中を押す。
彼は勢いのままベッドに倒れ込んだ。
「人間、そこで大人しく寝ていやがれ。なあ、人間、腹減ってねえか?減ってるよなあ?減ってるに決まってるよなあ?オレが、今、とびっきりの飯を持ってきてやるぜ。待ってな」




