《レベルアップの指標とモチベーション》
というワケで、今回は作家にとっての『経験値』について考えてみたいと思います。前回の小咄に関しては忘れて下さい。
こんなタイトルのエッセイを読んでいるという事は、あなたは小説を書いている、もしくはこれから書こうと思っているのでしょう。もしも違うのであれば、これを読む時間を使って他の作品を読んだほうが時間を有効に使えるかと思います。
『経験値』や『レベル』なんて単語はいかにもゲーム的ですが、ある程度作家として活動してきた方ならば、プロアマ問わず、何らかのレベルアップを実感した経験があるのではないでしょうか?
小説を書き始めた頃にはまるで意識していなかった一人称と三人称の使い分けが出来るようになったり、情景の描写が単なる事実説明ではなくなったり、文章のリズム感を意識出来るようになったり、などです。
もちろんゲームと違ってファンファーレが鳴ったり、ステータスアップのテキストが表示されたりはしませんが、気付いたら上達していた、すなわちレベルアップに気付いたことはあるのではないでしょうか?
レベルアップに気付いたあなたは自信を付け、更なる作品作りへのモチベーションを得ることが出来た筈です。
ですが、一つ問題があります。
小説というのは世にある様々な文化やスポーツなどの中でも、とりわけレベルの上昇が分かりにくい分野なのです。
スポーツであれば上達ははっきりと数字に表れます。足が速くなっただとか、フォームから無駄がなくなった、みたいな事であれば一目瞭然です。
漫画やイラストならば、絵の上達という分かりやすい指標があります。話の内容に関してはさておき、これも上達は見て分かりやすい分野でしょう。
他にも料理の上達は味の向上として実感できますし、英会話ならテストの得点や会話の理解度などで上達を感じることができます。
しかし、小説に関しては、パッと見では上達する前もした後も違いが分かり難いのです。
見てすぐに分かるのは文字の綺麗さくらいですが、そもそも今どきはPCやスマホで書く人が大半ですし、そもそも内容の面白さと文字の美しさには何の関係もありません(もしその二つが相関関係にあったなら、多くの小説家は決して書道家に小説で勝てないでしょう)。
書籍として出版された作品ならば売上を比較できますし、『小説家になろう』でもポイントやブックマークによる比較はある程度可能です。しかし、万人にとって百万部売れた作品が必ずしも十万部の作品より面白いかといえばそんな事はありませんよね。『面白さ』そのものの価値は、具体的な評価が難しいことが分かります。
他の上達の指標に関して例を挙げていくと、
『読みやすさ』『文章力』『言葉選びのセンス』『話の展開の上手さ』『リズム感』『執筆速度』
他にも挙げていけばキリがありませんが、パッと思い付いたものだけでもこんなにあります。ですが、お気づきでしょうか?
上記の指標は『執筆速度』以外はどれも具体的な数値にしにくい種類のものばかりです。評価の基準が主観に頼る部分が多いのは絵と一緒ですが、一目見ればある程度の好みや技術が把握できる絵と違い、小説に関しては多少の時間をかけて読み込まなくてはならず、その割に具体的な評価が難しいのです。
具体的な評価が難しいとどういう問題が起きるのでしょうか?
他者からは元より、自分自身でもだんだんと上達が実感できなくなっていってしまうのです。最初のうちは書けば書くだけ上達を感じられていた人も、ある程度のレベルに達すると途端にそれから先の成長が感じられなくなる。そんな経験はないでしょうか?
これは小説に限りませんが、何かの趣味や稽古事を楽しみながら続ける為の動機には、『上達の実感』が大きな要因を占めます。スポーツでも芸術でも初心者の時はメキメキと成長しますが、それが中級者、上級者となるにつれて成長の速度は遅くなり、ついにはまるで上達を感じられなくなる。いわゆる「壁にぶつかった」という状態になる事があります。
上達を実感できなくなった者がどうやってモチベーションを保つのかは様々ですが、作家の場合に多いのは他者の評価でしょうか。『小説家になろう』や『カクヨム』などに投稿した作品にはポイントや感想を付ける機能がありますし、そういう評価を受けやすい環境ではあると思います。
とはいえ、なろう読者の場合はポイントや感想を入れる人は読者全体の一割にも満たない数字です。作者の側からポイントを入れろと強要するのは論外ですし、それは規約でも禁じられています。そうなると、モチベーションを維持するのに必要なだけの評価を得られない人が少なからず出てきてしまいます。
自分自身の中からも、他者から得られる評価からも、書く意欲を失った人がどうなるか?
楽しかったはずの執筆自体が苦痛になってきて、最後は筆を置く事になってしまうのは想像に難くありません。
何年もなろう界隈にいる人ならば『とても面白かった作品の更新頻度が次第に落ち、最後にはエタってしまった』そんな光景を見たことが一度や二度はあるのではないでしょうか?