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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第二章 王への道
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episode 07 いざ王都へ

 剣闘技祭当日を迎えた朝はよく晴れていた。


「よし! これでいいわ。

 ミーニャ、行けるわね?」


 着替えも終わり気合いも充分。

 今は自信と確信が心を満たしている。


「は、はい!

 私も準備は終わりました」


「よし、行くわよ!!」


 ミーニャを従え屋敷を出ると、グランフォートが馬車を準備し待っていてくれた。


「良い表情ですね。

 早速ロジエへ向かうと致しましょうか」


「グランフォートも行くの?」


「えぇ、もちろん。

 国を挙げての祭りですので、各領主も開会宣言に出なければなりません。

 それに、アテナを推薦した身分でもありますしね」


「そんなことまでしてくれたの?

 って、何か違うの?」


 誰しも参加でき勝ち進むだけで騎士になれたり女王と婚約出来るのに、何か良いことでもあるのだろうか。


「特には無いですが、紹介される時に目立つことは間違いないですよ」


「中々良いじゃない。

 婚約者がいるんじゃこっちだって目立たなきゃ注目されないわ」


「その通りだと思いますよ。

 さぁ、乗って下さい。そろそろ行きましょう」


 ミーニャから順に乗り込むと、馬車は首都ロジエにゆっくりと動きだした。


「ちなみにさ、婚約者ってどんなヤツか知ってる?」


「えぇ、会ってきましたよ。

 貴女達より僅かに年上に感じましたが、しっかりしている印象を受けましたね。

 そうそう、婚約者の方も参加しますし、彼が騎士叙勲対象者に選ばれなければ婚約破棄になるそうです。

 もしかしたら対戦することになるかも知れませんね」


「ホント!?

 そうなれば願ったり叶ったりじゃない!」


「彼は城に滞在しているとのことで、紋章の入った服を着ていますよ。

 会ったら挨拶でもしてみたらいかがですか?」


「挨拶するわよ。

 宣戦布告のね」


「お嬢様、そこはしっかりと挨拶なさっておくべきかと」


「婚約者だから?

 あたしだって王になるかもなのよ。

 立場は一緒じゃない。

 それにお祭りだって言っても未来が決まるかも知れない闘いなの。

 生半可ではやれないわ」


 確かに女王の見定めた人物であるが故、敬意を払うべきなのかも知れない。

 しかし、それはこの国に住む者と一介の旅人では立場が違うのではとも思っている。


「アテナの言っていることもあながち間違いとは言えませんね。

 婚約者という肩書きだけで、今日でそれも無くなる可能性を否定できませんし。

 ただし、穏便に済ませて下さいね。

 推薦した私の立場というのもありますから」


「そ、そうね、そうだったわね。

 なるべく手は出さないように心がけるわ」


「お嬢様、それだけは絶対に!

 絶対に止めて下さい!」


「分かってるわよ。

 冗談よ、冗談」


 ミーニャは本気で思っていたらしく、冗談だと分かると深い溜め息をこれでもかと吐き出した。

 これにはあたしもグランフォートも大笑いし心も軽く道中を過ごせた。


「さて、着いたようですね」


 馬車を降りるとそこは城門を越えた中庭だった。


「スゴいわね!

 ミーニャあれ見て」


「花のアーチがこんなにもあるのですね。

 色とりどりの花がこんなにも」


 流石は華の国と言われるだけのことはある。


「さぁ、お二人ともこちらへどうぞ」


 グランフォートの後に続いて城の中を進むと大きな広間へと辿り着いた。

 そこには五十人くらいだろうか、各々の武器を携え張り詰めた空気を醸し出している。


「アテナ、ここが参加者の控え場所になります。

 ミーニャと私は来賓席に行きますので、ここからは一人ですが頑張って下さい」


「お嬢様、くれぐれも気をつけて下さい。

 大怪我だけはなさらないように」


「何言ってんのよ。

 あたしがそんなヘマするとでも思ってるの?

 相手だって失格にはなりたくないだろうけど、まぁ気をつけるわ」


 この祭りの決まりだと多少の傷なら良いが、致命傷に成りうるようなことは失格の対象だと聞いた。

 相手への寸止めや武器を突きつけることで勝ち名乗りが出来る仕組みらしい。


「それじゃ、しっかり見ておいてね。

 あたしの勇姿ってやつを」


 手を振り二人と別れると改めて大広間を見回す。

 話している間にいつの間にか参加者が増えていたらしく、ざっと見ても倍近くに膨れ上がっていた。


「こんなに居るんじゃ誰から話しかければ良いのか分からないわね」


 グランフォートとの稽古でもらったアドバイスの一つ『話すことで外見と違う面を見つけ出す』を実践したかったのだが、これだけの人数となるとどうにも躊躇してしまう。

 だが、そこで目に映ったのはあたしとさほど変わらないくらいの年の子だった。


「ねぇねぇ、君も出るの?

 あたしはアテナ。よろしくね」


「え?

 あ、うん。

 僕はスティレットス」


 差し出した手を握りかえす男の子の手は、普通の子供より硬い感じがした。


「まさか僕と同じ子供がいるとは思わなかったよ。

 アテナはどうして参加するの?」


「あたし?

 そりゃあ女王と婚約して王になるからに決まってるでしょ?

 スティレットスは違うの?

 かなり剣の稽古をしてるみたいだけど」


「僕もそう、そうだよ。

 その為にいっぱい練習してるからね」


「やっぱりそうなんだね。

 何かあたしよりも強そうな感じがするもの。

 もし対戦することになったらお手柔らかに頼むね」


「対戦することはないと思うけどね、アテナの運次第ってとこかな。

 その時は手加減させてもらうよ。

 じゃあね」


 最後の最後に不敵な笑みを浮かべ、スティレットスは立ち去った。

 あんな笑みは大人が何か企んでいる時にしか見たことがない。

 グランフォートの言っていた通り話しかけて見てよかったと思う。

 ただの予感でしかないがあの子は危ない気がする。


 さて、と周りを見回し次の相手を探すと、目に飛び込んできたのはあたしの会いたい女性にそっくりな後ろ姿だった。


「アリシア!? アリシアお姉さま!」


 もし本当にお姉さまなら。

 やっと会えたかも知れない喜びを抑え人を掻き分け近づこうとするも、一人男性が行く手を阻む形で立っていた。 


「ねぇ、ちょっと。

 あんたそこどきなさいよ!」


 入口近くでただ立ち尽くす男性に苛立ち、つい声を荒げてしまった。


「え?

 あぁ、すまない。君も参加するのかい?」

「はぁ?

 当たり前でしょ?

 だから、どきなさいって言ってんのよ!」


 悪い人じゃなさそうだが、当たり前過ぎる問いに輪をかけて苛立ちが募っていく。


「あ、あぁ。

 そうだな。

 そうだよな」


 あたしの態度に気分を害することもなく、申し訳なさそうにするほど人が良いことを不思議に感じると、無意識に男性を観察していた。

 すると、胸元に付く装飾がこの国の紋章だと気づいた。


「あっ!

 あんた!

 もしかしてメイル女王と婚約してる人でしょ!?」


「ま、まぁ、そうだが。

 よく知ってるな」


 やはりそうだ。

 しっかりしているかはさておき、あたしよりも少し年上な感じで紋章の入った服となれば。


「ふんっ!

 まぁね。

 けど、簡単にいくと思わないことね。

 あたしと闘うことになったら覚悟しなさい。

 あんたのその権利、奪ってやるんだから」


「ん?

 婚約の権利か?

 オレじゃ相応しくないとでも?」


「そりゃあそうよ。

 あんたなんかじゃ全っ然!

 あたしの方がお似合いなんだから!」


「君――だって、女の子だろ?」


「女で悪かったわね!

 それとも何?

 同性じゃダメだっての?

 愛があればね、そんなもの軽く越えられるのよ!

 それじゃあ覚悟しておくことね。

 あたしはあんたに構ってるほど暇じゃないの。

 じゃあね」

 

 この人も見た目や形に囚われているのかと思うと、一層あたしの方が相応しいのではと思う。

 それはそうと、お姉さまに似た人が居た場所まで来たものの姿形はまるで無く、全くもって見失ってしまった。


「出て行っちゃったのかしら……」


「いかがなされましたか?」


 辺りを見回している様子を不思議に思ったのか、入口に立つ兵士があたしに近寄って来た。


「ここにさ、今まで赤髪の女性がいたと思うんだけど、どこに行ったのかしらと思ってね」


「それでしたら出て行かれましたよ。

 あの方は参加される方ではないので」


「どこに行ったか知らない!?」


「どこと言われましても……城の中には居ると思いますが」


「そうなの!?

 ありがと!」


 とだけ言い残し、大広間を出ようとした瞬間だった。


「これより対戦相手の抽選を行います。

 呼ばれた方から中庭へお進み下さい」


 大広間に響き渡る声に、もしかしたらの希望が一瞬で打ち消されてしまった。


「あぁ~、もうっ!」


 捜しに行きたい想いは、あたしが受け止めた想いに負けてしまった。

 しかし祭りが終わるまでは居てくれることを期待し、名前を呼ばれたので中庭へと足を踏み入れる。


「お嬢さん、君はここだ」


 抽選した結果、あたしの名前は早めの位置に書き出された。


「え~っと、十番目くらいか。

 すぐといえばすぐの所ね。」


 あたしの相手はまだ決まってはいなかったが、誰が相手だろうとやるべきことは決まっている。

 少しだけでも間があるので誰かに話をしてみようと見回すと、抽選が終わったであろう屈強な女剣士を見つけた。


挿絵(By みてみん)


「あのぉ、あなたも女王と婚約する為に参加を?」


 あたしよりも頭が三つほど高い女性を見上げ、失礼のないように問いかけてみた。


「ん?

 なんだい、お嬢ちゃん。

 あたいが婚約だって?

 あっはっはっはっ!

 面白いこと言うねぇ。

 別に女同士だって構いやしないが、あたいがそんな柄に見えるかい?」


「はっきり言って見えないわ。

 けれど、どんな人にも色々な可能性があってこの場所ではそれが一番の可能性だから」


「はっはっはっはっ!

 いいねぇ、お嬢ちゃん。

 あたいはそういう素直なヤツが好きさ。

 お嬢ちゃん、名前はなんて言うんだい?

 あたいは、レイディ・ハーパー。

 皆はレディと呼んでくれるさ」


 見た目の威圧感に比べ性格は大分気さくなようだ。


「あたしはアテナ。

 よろしくね、レディ」


 差し出した手を握るレディの手はまさに男勝りと言えるだけの硬さだった。


「アテナか、中々強くなりそうな名前だな。

 それで?

 アテナの目的ってのはなんだい?」


「そりゃあモチロン!

 女王との婚約よ!!」


「あっはっはっはっ!

 女性同士でも愛が通じ合えばってね。

 ただ、本当に欲しいのは権力なんじゃないのかい?」


 最後の言葉になると表情が変わり、殺気立っているように感じる。

 しかし、あたしはそれに怖じ気づくことなく話すことが出来た。


「権力?

 それが無ければあたしのすべきことが出来ないわ。

 けどね、あたしが一番欲しているのは何物にも代えがたい愛なのよ!」


「権力は二の次ってわけかい。

 アテナ、あんたイイよ!

 良かったら、そのすべきことっての教えてくれないか?」


「いいわよ。

 あたしの憧れ、アリシアお姉さまを捜すこと。

 それと、死者の願いを叶えてあげることよ」


 そこまで話すと何か思いがあるのか考えている。


「アリシア……。

 どこかで聞いた名だな」


「ホント!?

 長い赤髪で整った顔立ちに凄く礼儀正しくて。

 でも優しい人よ!」


「あぁ、あのアリシアか!」


「知ってるの!?」


「彼女とは少しの間だが旅をしたよ。

 あたいは傭兵だから、人柄と金の条件さえ満たせば雇われる身だからね。

 確かに、彼女はアテナの言う通り聡明な人だったね。

 彼女との旅は楽しかったが、何やら密命を受けての旅だったからね。

 だからこうして一人旅に戻ったのさ」


 やはりお姉さまは単なる旅をしているのではなかった。


「さっきお姉さまに似た人を見たけど、ここに来ているとか知らない?」


「さぁね、別れてから随分と経つから。

 まぁ、この国に来てたとしても闘技祭には参加しないさ。

 彼女は権力や腕試しにはまるで興味がないからね」


 確かにそうかも知れない。

 お姉さまの行動は強い意志を感じ、かと言って自分が全てとも思ってはいなかった。


「そうよね、そう考えるとここには居ないかも知れないわね。

 さっきのは似た人、かな……。

 レディ、呼ばれてない?」


 話の途中だがレイディ・ハーパーの名を呼ぶ声が大広間に木霊(こだま)していた。


「おっと、あたいの出番が来たようだね。

 良かったらあたいの試合応援してくれよな。

 行ってくるよ!」


 あたしとレディは拳をぶつけ合い健闘することを誓った。

 その場で見送った後、あたしの順番が気になり対戦表の確認へと向かうと、レディはあたしの三つ前に名前が書かれていた。

 こうなると試合が気になり大広間から観覧席へと続く階段を駆け上がると、そこからは闘技場が一望出来るようになっていた。

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