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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第一章 死者へ贈る愛
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episode 03 渾身の一撃

 宿に着くなりシャワーを浴び遅い昼食を取ったあと、店主や警備兵に話を聞いて回った。

 店主のほうは幼い頃から立ち入り禁止で何も知らないと言うが、兵士は何か知っている感じがした。


「なんであそこに入っちゃダメなのよ!」


「ダメなものはダメだ。

 王都からの長きに渡る命令だ。

 入るのであれば罪人として捕まえるが?」


「入るなんて言ってないでしょ!?

 なんで入れないか、何があるのか知りたいだけよ!」


「あるのは湖だけだ。

 強いて言うなら……こわ~い魔獣がでるかもな!

 はっはっはっは!」


 人を小馬鹿にしたように笑い、早く立ち去れと言わんばかりの態度にあたしは完全にキレた。


「分かったわ。

 どうも――ありがと!!」


 同時に兵士の(すね)へ渾身の力を込めた蹴りをくれてやる。

 言葉にならない声をあげ座り込む兵士を見下ろし、去り際に一言添えてやった。


「そんなんじゃ街の人達なんて守れないわね!

 人をバカにした報いよ!」


「お、お、お嬢様!?

 それはマズイです」


 慌てふためくミーニャの手を引き人の集まる噴水広場で腰を落ち着けると、先程の怒りが込み上げてきた。


「なんなのよ、アイツは!

 ホンット頭にくるわね!」


「落ち着いて下さいませ、お嬢様」


「まぁ、もぉ過ぎたことだからイイけどさ。

 あんな大人になっちゃダメね」


 さて、これからどうするか。

 広場を行き交う人々を眺め何か知っていそうな人を見つけようとするが、外見だけじゃ判断の付けようがない。


「外見じゃ分からないわね……。

 あっ!

 そうか!!」


「何か分かりましたか?」


「そうよ、外見よ!

 ミーニャ、お爺ちゃんかお婆ちゃんを探して!」


「なるほどですね。

 先程のおじ様が小さい頃からって言ってましたね」


「そういうこと!

 お年寄りなら何かしらの事情を知っているかも知れないわ。

 さすが、あたし!」


 同意したミーニャはその場を離れ、すぐに探しに行ってくれたが程なくして戻ってきた。


「お嬢様、噴水の裏におりましたが行きますか?」


「行く行く。

 すぐ見つかって良かったわ」


 ミーニャの話の通り、あたし達が座っていた真裏にお婆ちゃんが二人で話し込んでいた。


「こんにちは、お婆様方」


「あら、こんにちは。

 お嬢さん」


 丁寧な言葉と笑顔に気をつけ話しかけると、手応えが有りそうな満面の笑みで応えてくれた。


「良いお天気ですね。

 それに、この国もこの街もとても綺麗ですよね。

 勿論、お婆様方もとてもお綺麗で」


「あらまぁ、お若いのに御世辞がとてもお上手なのね」


「いえいえ、御世辞なんてとんでもない。

 美しい花達に囲まれていると、いつまでも若く美しくいらっしゃれるのですね」


 これでもかと言うくらいの世間話を押し出し、警戒心を取り払おうと試みると上手い具合に会話が弾んだ。


「お嬢さんはどこから来たんだい?」


「あたし達はずっと西の国から来たの、地図を頼りに。

 そしたらこの綺麗な国の中に湖もあるみたいでこの街に寄ってみたんです」


「そうだったのかね。

 それは残念じゃな、なぁ婆さん」


 印象が悪いであろう帝国の名はあえて伏せ、事実と変わらないように話すと急に困ったような表情に変わり隣のお婆ちゃんに同意を求めだした。


「それはどういったことなの?」


「いやね、あそこにはもう入れないんじゃよ。

 いつの頃だったかのぉ?

 わしらがまだ若い時だったと思うが……」


「何かあったんですか、そこで」


「聞きたいのかい?

 少し残酷な話になるんじゃが、大丈夫かい?」


 あたし達のことを思ってなのか、心配そうな瞳で顔を覗き込んでくる。それに応えるべく迷いはないと目で訴えかけた。


「あれはまだ湖ではしゃぐ子供達が沢山といた頃。

 透き通る水に皆が皆、遊んでおったわ。

 そんなとき、三人の黒いローブを羽織った者達が馬に乗り突如として現れた。

 何事かと気づいた人達は遊ぶのを止め場違いな者達を注視していると、一人の騎士と二人の兵士も追って現れたんじゃ。

 彼等は皆に湖を離れるよう催促すると剣を構え言い放った。

『この国の為に貴様らを許す訳にはいかない、この命尽きようとも』とな。

 その後、湖の畔には焼けただれた兵士と無惨な姿になった騎士、一人の女性が倒れていたそうな」


「誰かが見に戻ったってこと?」


「そうじゃ、わしらの友人がな。

 そんなことがあって、あそこには今も立ち入ってはならなくなったのじゃ」


「でも、それで今もって何故かしら。

 国に仕える者が亡くなったのだから、一時的な封鎖なら分かるけど」


 どう考えても納得出来る理由ではない。

 おそらく民もそうなのだろうが、国が決めたことに異を唱えずここまで来てしまったのだろう。


「確かにそうじゃがね。

 わしらもそうは思っておったが、その後に帝国とのいざこざもあってそんなことを気にする者はいなくなってしまったのじゃよ」


「ちなみに、そのご友人はどちらにいらっしゃるのですか?」


「街の外れにひっそりと住んでおるが、どうかのぉ。

 ずっと人目を避けておるから合うことは難しいと思うが」


「そうでしたか。

 湖に行けなくて残念です。

 ありがとうございます、お婆様方」


「いやいや。

 わしらも若い者と話せて少し若返った気分じゃよ。

 気をつけて行くんじゃよ」


 真相まで辿り着くことは出来なかったが、やはり国自体が何か隠しているのは違いなさそうだ。


 広場から離れ少し静かな場所まで行くと塀にもたれ、ミーニャに向き直った。


「どうする? この後。

 結局のところ分からず終いだったわね」


「そうですね、ロジエに戻って偉い方にでも聞かないと分からないかも知れませんね」


 ミーニャの考えは最もだと思う。

 だが、少しの望みも捨てたくないのは事実だ。


「行ってみない?

 お婆ちゃんの友人って人の所にさ」


「え?

 けれど、先程の話ですと――」


 突然あたし達の周りに兵士達が押し寄せると一瞬にして辺りを囲んだ。何事かと見回すが、どうやらあたし達に用があるみたいだった。


「最早逃げることは出来ないぞ、小娘」


 逃げるとは何だと巡らせると心当たりが一つ、湖に行ったことがバレたかと肝を冷やした。が、どうやらそうではないようだった。

 兵士を押し退け声の主が姿を現すとそれは見知った顔だった。


「逃げるも何も、あたし達が何をしたってのよ!」


「‘達’ではなく貴様だ小娘。

 先程はよくもやってくれたな」


 あ、確かにあたしだけが脛を蹴った。

 しかし、先にバカにしたのは彼の方であたしに落ち度はないと思っている。


「あんたが先にしたことでしょ!

 あたしの何が悪いってのよ!!」


「国の安全を守る我らに手を出すのは、国に対する反逆と同じ。

 こいつらを引っ捕らえろ!」


 完全に油断していた。

 言い訳をする間も与えられず、号令と共に詰め寄る兵士達に成す術もなくあらゆる場所を掴まれた。


「ちょっ!

 ちょっと待ちなさいよ!!

 あんた達、それは――あっ!

 こら、どこ触ってのよ!!

 イヤっ、ちょっとちょっと!」


 どさくさに紛れ胸やら太股、腰にまで手を廻してくる。

 変な気分にもなりそうだが、もがくと後ろ手にさせられ肩や手首に痛みが走った。


「痛い痛い痛い!

 分かった分かった、抵抗しないから止めてってば!」


「本当だな?

 おい、少し手を緩めてやれ。

 連れて行くぞ!」


 威勢の良い返事の後、後ろ手にされたまま歩かされる。

 内心は怒り狂ってしまいそうだがこの人数相手にこれ以上の騒ぎはごめんだった。


「お嬢様、お嬢様?

 大丈夫でいらっしゃいますか?」


 後ろからミーニャの呼ぶ声が聞こえ振り返ると、彼女には乱暴をしなかったのか背中に手を添える兵士が一人着いているだけだった。


「うん、平気よ。

大丈夫、心配しないで」


 ほっとしたのも束の間、この後どうしてくれようかと画策していると大きな屋敷の隣に立つ小さな小屋へと連れて行かれた。


「え?

 なんで!

 ミーニャは関係ないでしょ!?

 痛い痛い!」


「関係ないなんてことが通じる間柄でもあるまい。

 衛兵、あとは頼んだぞ。

 お前達のことはこれから検討する。

 一晩ここで頭を冷やしておくんだな」


 小屋に入って降りた地下に待っていたのは、冷たく無慈悲な鉄の檻だった。


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