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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第三章 希望を胸に
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episode 24 意気投合

「それにしてもスゴイわね。

 神秘力(カムナ)って言ったっけ?

 何でも出来るのね」


 地中への階段を降りると術で入り口を閉じ、それと同時に通路に明かりが灯った。


「正しくは、神秘力を使った神秘術(カムイ)ですね。

 何でもは出来ませんよ?

 癒したり身を守る為だったりと、神が私達に与えて下さった保身の(すべ)ですので。

 それに、穴は神秘術で掘ったわけではありませんし」


 人が二人並んで歩ける程の土の通路に不思議と光る石による灯りのおかげで、ミューの柔らかな笑顔を見ることが出来た。


「うむ。

 この作り、我が土遁の術にも似ているな」


「へ?

 あんた、こんなことも出来るの?」


「我は闇に生きる者だ。

 この位出来ねば闇になど紛れることは出来ない」


「ふ~ん……」


 決して『真っ昼間に行動してるくせに』だとか『闇じゃなく地面に紛れてるんだ』とかは言わない、面倒くさいから。


「で、みんなは?」


「恐らくですが、もっと先にある少し広くなっている場所で休んでいるでしょう。

 何せ隠れ家ではなく、ただの逃げ道ですからね」


「逃げ道?

 隠し通路ってこと?

 ってことはまさか……」


「ご想像通りだと思いますよ。

 私達はあの場所に隠れる様に生活してきました。

 隠れ家が脅かされたのであればその場から離れ、新たな隠れ家を探すしかないのです」


 階段を下りてから少し行くと、僅かな下り坂を右往左往しながら大分歩いている。

 それが意味するところは崖の真下に繋がっているとしか思えなかった。


「それだけ安住出来る場所がなかったのね……まあ、崖を飛び下りるとか、そういうのがなかっただけ良かったわ」


 それは冗談だとして、人間達から身を隠すのに必死だったことが狭い洞窟から伝わってくる。


「だな、姉御」


「あんたってば、こういうことには無頓着よね。

 何も考えてないバカとはこのことだわ」


「えっ?

 えぇぇ!?

 姉御が言ったんじゃないかよ」


「あぁ?

 知らないわよっ」


「ほら、喧嘩なさらずに。

 もうすぐ着きますよ?

 声も聞こえてきましたし」


 あたしとレイブンのやりとりに割って入ったミューの言う通り、口を閉ざすと話し声が聞こえてきた。


「結構歩いたわね。

 どれくらい下りてきたの?」


「そうですね、地上まで飛び下りるにはまだ少し高いといったくらいでしょうか。

 なので、本当にもう少し歩けば地上に出ることが出来ますよ」


 正直もう疲れきり休みたいと思っているのが本音で、ミューの言葉でもう少し頑張れそうな気になった。


「さあ、着きましたよ」


 緩やかな曲がり道を曲がったところでかなり広くなった穴に辿り着くと、そこは目を見張る光景だった。


「ワ、人羊(ワーシープ)がいっぱいね……。

 ぎゅうぎゅうだわ……暖かそうだけど」


 一言感想を漏らすと広間の前に立つ男があたし達を出迎え、大きな声でミューが戻って来た旨を告げる。

 すると、人羊達は(おさ)の元へ繋がるようにそそくさと道を開けた。


「リューラ、心配したぞ。

 さぁ、皆とゆっくり休むが良い」


 しゃがんで目線を合わせると優しく声をかけ、頭を撫でながら笑顔で輪の中へ導いた。

 リューラをしっかり見送った長はあたし達へ向き直ると、険しい表情へと一変する。


「ミュー、そしてアテナ達。

 無事で何よりだ。

 魔者どもはどうした?」


「それなら心配する必要はないわ。

 ここに来る前にちゃんと撒いてきたからね」


「やはり、排除することは出来なかったか……」


 長も少しは期待していたのだろう、元の住み()に戻れることを。


「まず無理だわね、残念だけど。

 あたしだって本音を言うと醜悪魔(オーク)ごとき蹴散らしてやりたかったわ」


「やりゃあ良かったのに、姉御ならその気になれば――ぐっ」


 斜め後ろにいたのが幸いし、取り敢えず口を塞ぐ為にみぞおちへと肘鉄を食らわせておいた。


「まあ諦めた方が良いと思うわ。

 魔者が近くにいる以上、遅かれ早かれここに来る羽目になってたわよ。

 それよりも未来!

 でしょ?

 こんな窮屈な場所に居たって仕方ないんだから」


「……うむ。

 そうだな。

 ひとまずは地上への出口を開け、それから我らの道を見つけるとしよう」


 額を地に付け地中へ呻き声を聞かせているレイブンを尻目に、長と共に出口へと向かった。

 神秘術(カムイ)によって開かれた出口は、滝のすぐ傍にある蔦に覆われた場所だった。


「上手く隠してたもんだわ。

 これを覗いたところでただの岩肌なんだものね。

 苦労して登ったすぐ傍に道があったなんてちょっと複雑な気分だけど」


「我らとて、この道を使う日が来なければと願っていたのだ。

 有って無いものだと思ってくれ」


 木々の影から夕陽が射し込み、泉が宝石を纏っているかのように輝いている。

 あたしはそれを両手で(すく)い上げると一気に喉を潤した。


「あたし達もここで一晩休むわ。

 これ以上は動けないし、ここも安全とは限らないからね。

 蓮も良いわよね?」


「ああ。

 我はアテナと共にある。

 それに、この男を放っておくわけにもいかないしな」


「はんっ!

 オレがどこに行こうが、何をしようがあんたにゃ関係ないだろ。

 それよりも、こんなところで寝たりしたら誰かに寝首を――」


「はいはい!

 終わりよ、あんたらのケンカは。

 言ったでしょ?

 あたしは興味がないって。

 でも、レンはあたしと一緒にいる。

 あんたはレンと一緒に居たい。

 だったらあんたもあたしと一緒に居るのよ。

 そんで、あたしは二人の関係に興味がないときたら……。

 分かるわよね、二人とも!!」


 身振り手振りを交えこの上なく丁寧に説明してあげたのだ、これで異論があった日にはどうなるか。


「あ、あ、あぁ。

 充分に理解した……」


 レイブンは直ぐに反応したので今度は横目で蓮を睨むと、居直り体を小さく丸めている。


「よろしい。

 分かったんだったらあんた達も少し休みなよ。

 また少し動いてもらわなきゃならないんだからね」


 二人には食料の調達と、周囲の安全をしてもらう必要があった。

 人羊(ワーシープ)達にも出来るだろうが、この二人の能力があればここでも少し落ち着くことが出来るだろうと考えている。


「お疲れ様でした、アテナ。

 私達の為に手を尽くしてくださり、ありがとうございました」


 あたしの隣に腰を下ろしたミューは満面の笑みを見せてくれた。


「そんないいのよ。

 命は一つしかないんだもの。

 危機に晒されていたらそれが人間でも亜人でも助けないわけにはいかないわ。

 ましてや相手は魔者だもの」


「そうですね、魔者は私達にとっても人間達にとっても脅威ですからね。

 亜人界に戻れる手段さえあれば、こんなことにはならなかったのですが」


 笑みに少し陰りを見せたミューだが、あたしの気持ちは真逆の位置にあった。


「それはそうだけど、あたしは良かったわよ。

 ミュー達が亜人界に帰っていたらこうして知り合って話すことも、笑い合えることもなかったんだし。

 まぁ、力を貸して貰えるってこともそうなんだけど、普通に過ごしていたら出会うことのない出会いなんだから、あたしは嬉しかったわ」


「そう感じてもらえているのは嬉しいですね。

 皆がアテナのようでしてたら仲良く過ごせるのですが」


 あたしの正直な想いにはにかみながらも望む未来を語ってくれた。


「ホント、それよね。

 魔者ほど野蛮じゃないのに、すぐ国同士で争って他を受け入れようとしない。

 いっそのこと亜人界なんて無かったら、見慣れちゃって興味なんて湧かないし隠れ住むこともなかったのにね。

 言うなれば、服を着てるから裸を見たくなる。

 それと一緒よね」


 いつもながらに上手く例えられたが、大体ここで野次が飛んでくる。


「その通りだと思います。

 隠れているものには興味が湧きますものね」


「えっ?

 ミュー、あんた良いわね!

 あたしに同意してくれるなんて滅多にいないわよ。

 あたしって亜人と気が合うのかしら」


 いつもならミーニャが否定したり、今なら蓮やレイブンが口を挟んで来るだろう。

 それがなんとミューは、ミューだけは笑顔で頷いてくれた。

 それに気分が良くなり自然と笑みがこぼれると、ミューも釣られて笑い出した。


「ホント良いわね!

 この調子でいくわよ。

 レン!

 そろそろ食料の調達に行って!

 それと、レイブンは見廻りお願ぁい!」


 日の光りも陰りを見せてきたので近くで休んでいる二人に声をかけると、顔を見合せつつ重い腰を上げ出す。


「では、我々も蓮と一緒に食料を探しに。

 アテナは私と下準備でも致しましょう」


 ミューは蓮と人羊の男性達を呼び寄せると簡単に指示を出し、未だ座ったままのあたしに手を差し伸べた。


「色々教えてちょうだいね、あなた達のやり方。

 お手柔らかによっ」


「えぇ、お任せ下さい」


 色々あった一日もようやく終わりを迎えようとしている。

 約束の日までは余裕もあるが、人羊達のことも考えなければならないとなると、ゆとりはさほど無いようにも思う。

 もうこれ以上何も無ければどうにかなりそうではあるのだが。

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