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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第三章 希望を胸に
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episode 23 忍ノ術

 身のこなしが軽い二人は背中合わせになりながら、多数の醜悪魔(オーク)からの攻撃に息を合わせ避けつつ徐々に退いている。

 目の前の敵に気を取られ、あたしへと向かってくることがなかった事が幸いし、心身共に落ち着きを得る事が出来た。

 

「さぁて、どうやって逃げ切ろうかしらね……。

 ん~、あの感じだと倒せないかしら」


 十倍以上いるであろう醜悪魔相手に(さば)いては避け、簡単にやり過ごしているようにも見えていた。


「あんた達!!

 倒せるなら、やっちゃいなさいよー!」


 助けに入れる距離まで近づいたのを見計らい大声で叫ぶと、それまで見向きもしなかった醜悪魔が動きを止め、一斉にあたしに注目し出した。


「は?

 ちょ、ちょっと何よ!?

 待ってよ、そんな一遍にっ!

 な、な、な」


「姉御っ!」


 向かい来る魔者の群れに驚いていると、素早く二人があたしの前に立ちはだかってくれた。


「いくら醜悪魔といえど不用心だ」


「戦うのが専門じゃないオレらには脅威なんですぜ?」


「分かってるわよ!

 二人が軽くあしらってる様に見えたから言っただけ。

 もしかしたらって可能性の話よ」


 顔を見合わせることなく群れを睨み付けたまま言葉を交わすと、醜悪魔も警戒感を覚えたのか様子を伺っている。


「どうなの?

 やれそうなの?」


「無理だな、これだけの数では。

 もう我の手数も少ないしな。

 で、どうするつもりだ?」


「ミューが逃げ道があるみたいなこと言ってたから、どうにか撒いて後を追うのが賢明ね」


「……分かった。

 それくらいならば手はある」


「どうするの?

 レンに従うわよ」


「ならば、二人は我の合図でミュー達がいる方へ走り出せ」


「分かったわ」


「いいぜ」


 下手に動いた瞬間に魔者が襲いかかってくるのは至極当然で、あたし達の連携いかんで未来は変わってくるだろう。


「我が大地に息吹きを与えるもの。

 我らが生命を育むもの。

 優しさを怒りに変え、我の眼前にて猛り狂え……」


 蓮が言葉を並べると徐々に大気が変わり、爽やかだったそよ風が強さを帯びてきた。


「ひい、ふう――みい!」


 …………。

 …………。

 …………。


「どうした!?

 何故動かない!?」


「ど、どこで行くのよ。

 どれが合図なの?」


「『ひいふうみい』と数えただろ」


「知らないわよ!

 そんな数え方!!」


 どこかの国、蓮のいた所での数え方なのだろう、あたしの知りうる限りでは聞いたことはなかった。

 おかげでタイミングを逃したどころか、雰囲気の異常さを察知した醜悪魔がざわめき、ゆっくりと間合いを詰めだした。


「いいから行け!

 今しかない!!」


「分かった!!」 


 返事と共に踵を返すと、醜悪魔の唸り声と混ざり蓮の叫びが木霊した。


風遁(ふうとん)――豪嵐(ごうらん)!」


 走り始めた直後、強風が雄叫びをあげ響き渡るのをあたしは背中で感じた。

 物凄い音にあたしとレイブンが振り返ると蓮を境に草花が舞い、醜悪魔が身動き出来ないほどの風が吹き荒れていた。


「な、何なの、あれ」


「オレも見たことがねぇ。

 魔法に似てるが、あんなのは」


 思わず立ち止まり、その凄まじさを目の当たりにしていると足元に地響きのような衝撃が走った。


「なにっ!?」


 その場を動かなかった蓮がまた何かしたのだろう、強風に舞い上がる土煙に醜悪魔の姿は見えなくなっていた。


「スゴイわ!

 これなら追って来れなさそうね」


「姉御、行きますよ!

 今しかないですぜ」


「そうね!」


 比較的近いところにいたのに魔者の姿が見えなくなっていたのだ、これほどの好機逃すことはないと全速力で駆け抜けた。

 人羊(ワーシープ)の家々を通り抜けようとしたところで蓮がようやく合流すると、一度立ち止まり息を整える。


「スゴイわね、レン!

 やるじゃないのよ」


「あれくらいならば大したことはない。

 足止めする程度の術だからな。

 だから、先を急ぐぞ」


「ダメージは負わせられないってこと?

 だったら言う通り行くしかないわね」


 術の概要は知りたかったが、言葉通りに足止め程度ではこの場を直ぐに立ち去るべきだろう。

 再び走り出したあたし達はミューの背中を見つけることが出来た。


「やっ、やっと追いついたわ」


「良かったです、皆さん無事で。

 魔者はどうされました?」


「多分、撒けたと思うわ。

 今頃は無人の家で獲物を捜してると思う」


 建物には人羊の匂いが残り、更にレイブンの血が落ちているとなればあの一帯に留まることは見ずとも分かる。


「だからってのんびりとはいかないけど。

 案内して」


「分かりました。

 では着いてきて下さい、もうすぐですので。

 リューラ、もうすぐだから頑張って」


 ミューの目指す先にはあたし達が登ってきた崖がある。

 しかし、辿り着く前に方向転換すると小さな木々が立ち並ぶちょっとした林の中に足を運んだ。


「ここ、ちょっと怖いわね」


「すぐ傍が崖になってますからね。

 だから、私の後ろをちゃんと着いてきて下さいね」


 先程までの喧騒がまるで嘘のように静かな林には、微かに滝の音が聞こえている。


「こんな所からどう行くの?」


「どこにも行きませんよ。

 ここで止まって下さい」


「へ?

 ここって何もないじゃないの」


「ええ。

 もう目の前は断崖ですし。

 だからこそ身を隠すにはうってつけの場所なのです」


 ミューの言うことが把握出来ずにいると両手を地面に突き出し、またも流暢に言葉を連ねる。

 すると目先の草花が動き出すと木の扉が姿を現し、地面にぽっかりと口を開けた。


「なっ!?

 こんなことって有るわけ?」


「危険から身を隠す為に代々伝わる術です。

 魔法による封印と同種だと思って下さい」


 それだけ話すと穴の前に立ちあたし達を地中へと導いた。

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