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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第三章 希望を胸に
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episode 20 魔の尖兵

 (おさ)は姿勢を崩すことなくあたしと娘の顔を交互に見ると、両手をテーブルに置いた。


「チェロの恩人である蓮に恩を返す為、本来ならば長である私が手を貸すべきだろう。

 それを踏まえるならば、我が娘にその役目を任せるのも妥当であろうな」


「お父様、宜しいのですか!?」


「蓮、それにアテナ。

 娘を宜しく頼む」


 眉をひそめつつも軽く頭を下げる姿は、手放しで送り出すというものではないと見えた。


「心配しなくても怪我一つさせないわ。

 レンもいることだし、ね」


「あぁ。

 我らの頼みを聞いてくれるのだ、無理をさせることはない」


 蓮の言葉に軽く頭を下げると娘を近くに呼び寄せ立ち上がり、頭を撫でると抱きしめた。


「我が愛しい娘よ。

 何かあったらすぐにでも戻ってくるのだよ」


「ありがとう、お父様。

 でも、そこまで心配されなくても大丈夫ですよ。

 あの方達の目に淀みはありませんもの。

 私は信じています」


 なんとも親子愛に満ちた素晴らしい光景を前にあたしは微笑ましく思うと同時に、少し寂しさも感じた。

 あの日、あたしが旅に出ると義理の両親に告げた時、寂しい顔を見せるも抱きしめてくれることはなかった。

 もしもその時、愛を感じることが出来たならこんな出逢いもなかったのだろうが。


「ありがと、ミュー。

 あなたは見る目があるわ。

 これからの為にもミューのこと、それに亜人達のこと、色々聞かせてくれない?」


「それは私からもお願い致します。

 人間達のことや生活など、知りたいことが沢山ありますので」


「よし、それじゃあ行くのは明日よ。

 今日はゆっくりさせてもらうわね」


 椅子から立ち上がるとミューはあたしの傍に、蓮は長に深々と一礼をすると一緒に建物を出た。


「ようやく!

 ようやく、どうにかなりそうだわ!

 はぁ……今までの疲れがどっと出たわ」


「でしたら、私の部屋でゆっくりとしませんか?

 色々とお話もできますし」


「いいわね、そうさせてもらうわ」


 ミューの心遣いに素直に応じ、歩く間もなく小さな小屋に案内された。

 先程の建物と見た目が変わることは無かったが、一部屋しかない小屋自体がミューの私室であり、少なからず装飾も施されていた。


「あまりおもてなしということは出来ないのですが。

 どうぞ、くつろいで下さい」


「充分よ、ありがと。

 それにしても……草や実で飾り付けてるなんてステキね」


「ありがとうございます。

 草で冠を作ったりして遊ぶのが得意だったもので。

 それに、食べれますし。

 ふふっ」


「……実用的なのね」


 しっかりしたお姉さんの様に感じていたが、少しばかりの茶目っ気も見せるところに好感が持てた。


「さぁ、どうぞ。お口に合うか分かりませんが、私達がいつも口にする果物茶です」


「ありがと。

 ……。

 ……。

 あらっ!

 美味しいじゃない!」


 口に含むと甘味と少しの酸味が広がり、すっきりと喉を潤すと同時に甘い香りが鼻を抜けた。


「気に入ってもらえて何よりです。

 蓮さんもどうぞ、今回はしっかりとお顔を見せて下さいね。

 前のように飲まないなんて、駄目ですから」


「……。

 仕方あるまい。

 ミューとアテナしか居ないのであれば、今は従おう」


 ゆっくりと覆面の結び目をほどく姿はしぶしぶ、といったところであろうが、あたしには全てお見通しだ。


「あんた飲みたいだけでしょ?

 素直に飲みたいから外すって言いなさいよね」


 (あらわ)になった頬は少し赤く、潤ませた瞳であたしを睨みつけた。


「我はそんなことでこれは外さない。

 飲みたいからなど……。

 お、お前達を信頼しているからであって、その……なんだ……」


「分かった分かった。

 まぁ、一口飲んでみなさいなって。

 美味しくて絶句しちゃうわよ」


 よく分からないご託を並べ始めたのを遮り無理矢理口元まで運んでやると、一口だけ喉に流し無言で果物茶を見つめていた。

 すると突然目を見開き、あたしとミューを何度も見る姿に思わず笑ってしまった。


「ね、言ったでしょ?

 絶句するって」


 言葉通りの反応に笑いが止まらず、和やかな雰囲気がこの部屋を包み込んだ。

 それからは人羊(ワーシープ)に合わせあたし達ものんびりと過ごし、寝食を共にすると出発の朝を迎え、ミューの旅支度を待っていた。


「中々楽しかったわ。

 こんなのんびりとした生活も悪くないものね。

 あっ、持っていく物は必要最低限にしてね。

 何かあればレンとあたしで用意してあげるから」


「ありがとうございます。

 では、これくらいでいいですかね。

 頼りきりになってしまうかも知れませんが、どうぞ宜しくお願いします」


「あたしだってミューを頼るんだから、お互い様ってやつよ。

 さあ、行きましょうか」


 と言った矢先、外が騒がしいことに全員が気づき慌ただしく部屋を飛び出した。


「何事!?

 どうしたの?」


 慌てふためき右往左往している人羊の腕を捕まえると、どうしたのか問いただした。


「人間だ!

 向こうから人間が来たぞ!!」


 ここに訪れた人間は蓮が初めてだと聞き、ここと(ふもと)にある村の間には魔者もいるというのに何故。


「あたしが何とかするわ。

 みんな!

 中に入って静かにしてて!!

 あたしとレンで守ってみせるから中に入って!!」


 大声をあげながら走り回ると、それに従って続々と建物に入って行く。そんな中に長だけが最後まで皆を見守り、あたしの隣まで駆け寄った。


「すまないが宜しく頼む。

 我らの存在は知られる訳にはいかないのだ」


「分かってるわよ!

 あたしに任せなさいって。

 さぁ、中に入って待ってなさい。

 行くわよ、レン!」

 

 二人は厳しい目付きで軽く頷くと、長は建物へ、蓮はあたしに付き従い人間が来るであろう場所へ向かった。


「この辺りで待ってましょ」


 どこから姿を見せても対峙出来るように木々からは少し離れ、森の奥へと意識を集中させる。


「何か動いたな」


 蓮の視線の先に体を向け警戒する。


「我が先に行く。

 アテナは後ろに」


 どれだけの人数なのかも定かではなく、武器も持っていないあたしは蓮の後ろを距離を取りつつ着いていく。

 ある程度近づいた頃には、既に小太刀を抜いた蓮が身構えていた。


「出て来い、いるのは分かっている。

 ここに何の用だ」


 森へ向かい話しかけた蓮の言葉に従ったのか、一人ゆっくりと姿を現した。


「ようやく見つけたぜ、蓮!

 あの時の借りを今こそ返してやる」


 小柄で、あたしよりも少しばかり長く生きている威勢の良い男に、あたしは見覚えがある。

 しかし、彼の言葉はあたしにではなく蓮に向けられたものだった。

 彼の名前は……確かレイヴァン、間違っていなければ。

 ちょっとした盗賊で以前に叩きのめしたことがある。


「あんた、こんなとこで何やってんのさ。

 しかもレンを相手に」


 あたしと視線が合わさると、いやらしい顔つきが口をあんぐりと開けた驚きの表情になり、動くことなく固まった。


「あ、あ、姉御!?」


「だからその呼び方は止めてって言ってるでしょ、レイヴァン」


「レイブンだ!!」


「どっちでもいいわよ、そんなの。

 それより何でこんなところに来たのよ。

 さっさと帰って」


「いくら姉御の頼みでもそれは聞けないな。

 オレはそこの蓮に用事があるんだ」


「だそうよ、レン。

 そしたら二人であっち行って解決してきなさいな」


 森の奥を指さすと、二人は困惑したようにあたしを見ていた。


「な、何よ。当然でしょ?

 あたしに関係ないんだから」


「いや、だが、しかし……」


「やっとここまで来たのに、そりゃないぜ姉御」


 二人の因縁か何かには全く興味もないし、ここで長引かされても人羊にも迷惑だった。


「ないも何もあたしには関係ないもの。

 レンは大切な友達だけど、友達だからこそ見放すことも大事なのよ!」


 両手を腰に言い放つと、二人は目配せしながら言葉に詰まっている。


「ほら、黙ってないで行ってきなさい。

 あたしは、ここで……ん?

 あんた、ケガしてんの?」


 左腕が力なく下がっているのは気になっていたが、指先から赤い雫が垂れ落ちているのに気がついた。


「そのようだな。

 レイブンとやら、一時休戦にし、それの手当てをしよう」


「何言ってやがる。

 こんなのケガには入らねぇよ」


「強がりはいいから手当てが先よ、レンが言うくらいなら相当なはず。

 分かったわね――レイブン!!!」


 あたしの怒号に肩をびくつかせ、睨まれた蛙のように固まったレイブンの元へ駆け寄ると、蓮は辺りを見回し始めた。


「どうしたの、レン。

 結構な傷みたいだけど、どうしたらいい?」


「気のせい……ではないようだな。

 そいつの手当てはあと回しだ、アテナ。

 どうやら魔者が来たようだ」


 こんな時にこんな場所で一番最低な存在を耳にすると、あたしの血の気が引いていく。

 凍りつく思いとはこのことかと、一瞬冷静になれたことで気持ちを留めることが出来た。


「あんた!

 魔者と手を組んだの!?

 そこまで落ちぶれた!?」


「オレはそんなことはしねぇよ!

 なんだってあいつらが――逃げ切ったはずなのによ」


「どんな魔者に出会った?

 その傷はそいつらにやられたのか?」


 蓮の問いに首を小さく二回縦に振る。


「あぁ、あいつらにやられた。

 姉御と同じくらいの背丈だが集団で襲って来やがった。

 小さな角が幾つか生えてて、牙も剥き出しで少し小太りな奴らだよ」


「……醜悪魔(オーク)か。

 厄介だな」


 集団で行動する魔の尖兵。

 知能は無いに等しいが、見境のない暴力はとても脅威だと義父の本で読んだことがある。

 蓮ですら厄介だと口にするならば、この状況下で出来ることは只一つだった。


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