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自称!!美少女剣士の異世界探求  作者: 七海玲也
第二章 王への道
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episode 14 弱気なアテナ

 結局のところ、勝ち残ったのはあたしを含め八名。

 その中で騎士隊長に勝ったのは、レディとエリーザ、それにグリフレットだけだった。


「もお!!

 何であんなに強いのよ!」


「そりゃあだって……。

 なあ?」


「私の足元にも及ばなかったのですが、アテナも頑張ったのです」


 二人の言いたいことは分かる。

 だとしても、あんなのに勝つのは並大抵の剣技じゃ無理だ。


「あぁ~!!

 悔しいし腹立たしいわ!」


「分からないでもないけど、アテナは力試しでもないんだから勝つのが目的じゃないだろ?」


「そうだけど!」


 レディの言わんとすることは、候補者へ確実になった訳で目的自体は達せられた、そういうことだろう。


「あんなんじゃ誰の目にも止まらないわよ!

 ましてや、第一候補より魅力的だって伝えなきゃならないのに!?」


「いや、まぁそうかも知れないけどさ、何かしらは伝わってると思うよ。

 あの大観衆がアテナを応援してたんだからさ」


 大観衆の歓声と嘆息は確かに聞こえていた。

 しかしだ!

 防戦一方の末、相手の手加減すら見えていた中であたしは足がもつれ尻餅をつくと目の前に光り輝く剣があった。

 そんな負け方をして戻ってきたのだ、イライラが収まることはなかった。


「それは分かってる!

 けどよ!!」


「それはアテナの実力がなかったので、仕方ないのです。

 そんなにいきり立っても結果は結果で何も変わらないのです」


 エリーザの見せた笑顔は自然に出たものだろが、あたしには挑発にしか受け取れなかった。


「そりゃあエリーザは勝ち残って誰の目にも記憶にも残ったでしょうよ!

 だからってね、簡単には世界征服なんて出来やしないの!!」


「そんなこともないのです。

 ここまで来れば後は少し、これが実力の差というものなのかもです」


「な、なんですってぇ!!」


 あたしの中で何かが弾けた。

 一歩踏み出しエリーザに詰め寄るところをレディが向かいに立ちはだかる。


「止めなってアテナ」


「エリーザが挑発してきたのよ!」


 レディの脇から手を伸ばし掴みかかろうとしたが、誰かがあたしの体に手を回してそれは叶わなかった。


「お待ち下さい!

 このような場所で争いは困ります」


「争う気なんて!

 ちょっと!!

 離しなさいよ!」


 力強く引き離そうとするのに半身を翻し抵抗すると、あたしの手の甲に衝撃が走った。


「ぐっぅ!」


 自由になった体で声の正体を確かめると、そこには苦悶に満ちた表情でしゃがみこむ兵士の姿があった。


「いくらグランフォート卿のお連れの方だとしても、それはいけません!」


 今度は遠目からの声に顔を向けると、ゆっくりと険しい表情のグリフレットが向かってきた。


「先程から大きな声でどうしたものかと思っていましたが。

 この場で手をあげる、ましてや兵士になんてもっての他です」


「え?

 だって――この人が離さなかったからでしょ!

 あたしはただ――!」


「振り払っただけだと?

 だとしてもです!

 そもそもが言い争いになってしまったのが原因ではないのですか?

 そうであれば、兵士や国の者が仲裁に入ろうとするのは必然ではありませんか。

 それを偶然に当たったから、ぶつかったからとは理由にならないと思いますが」


「……うっ」


 出そうとした言葉が喉につかえるほどに穏やかにそして威厳に満ちていた。

 そして、反論を許さないほど完璧な言い分に周りはおろか、あたしも聞き入るしか出来なくなっていた。


「本来であれば、城内でこの様なことは何らかの刑に処せられても致し方ないのですが。

 しかし、貴女は前途ある少女、しかも人を導く才もあると見ました。

 ですので、私が全力を持ってして擁護致しましょう」


「擁……護?」


 何を言っているのか不安に駆られていると、槍を持った兵士が二人、グリフレットの後ろから現れるとあたしの首もとで槍を交差させた。


「さぁ行きなさい。

 少し頭を冷やすといいでしょう」


 背中を押され歩くよう仕向けられたあたしの脳裏には、数日前の暗い部屋が在り在りと蘇っていた。


「ちょっと待ってよ!

 またあんなとこに入れられるわけ!?」


また(・・)とかは知りません。

 私達はクリフレッド卿の命のまま従っているまでです」


 段々と暗くなる地下へ下りていくと、中々に広く鉄格子が両側に連なり、幾人もの姿が見えた。

 そして、行き着いた先にも階段が待ち構えている。


「さぁ、進んで下さい」


「ここじゃないのね。

 下には何があるの?」


 足場を確かめながら螺旋を描く石階段を下りると、上の部屋の半分以下の空間に鉄の檻が幾つかあるだけだった。


「上と同じじゃない」


「いえ、こちらは重罪人の牢になっております。

 さぁ、お入り下さい」


「は?

 重罪人って?

 なによそれ!!

 あたしそんなんじゃないでしょ!」


 自分の耳を疑いたくなるほどの予期しない一言に怒りの籠った反論をしてしまったが、手足が出るのだけは精一杯抑えた。


「先程も申し上げましたが、これも全てグリフレット卿の命に従っているだけでして」


「えっ、あっ、ちょっと!」


 押されるがまま牢へと入れられると、そのまま格子扉を閉められた。


「ちょっと待ちなさいよ!

 いくら命令だからって、こんなの理不尽でしょうが!」


 三人の兵士はあたしの声に耳を傾けるでもなくその場を立ち去った。

 掴んだままの鉄の棒は非情なまでに冷たく、何者をも許さない意思を持っているかの様だった。


「何が重罪人よ、何が悪いようにしないよ!

 一体あたしが何をしたってわけ?

 しかもよ、しかも!

 グリフレットは騎士でも何でもないんでしょ。

 それが命令を出して、それに従うなんてどんな国なのよ」


 足の裏で無口な格子を蹴り飛ばし後ろを振り返ると、威圧感漂う無粋な壁に囲まれていた。


「そもそも、こんなとこに入れたがるのがおかしいのよね。

 この数日で二回もよ。

 すぐ出してもらえたと言っても、何でもかんでもぶち込んでおけばいいってもんじゃないでしょうに」


 灯り放つ炎の音だけが響く中、四方を囲まれ孤独感に襲われまいと愚痴をこぼすが、それが輪をかけ孤独であることを知らしめた。

 しばらく牢の中をうろうろし逃げ道はあるかと壁などに触れてはみるが、そんなものがあるはずもなく途方に暮れると怒りはいつの間にか鎮まり、独りでいることへの恐怖が心を蝕んでいく。


「ミーニャ、どうしてるかな……。

 あたし、こんなところで独りだよ。

 ……あたし、どうしたらいいの?

 どうなるの?」


 思わず出た言葉に胸が締め付けられる。

 壁を背に膝を抱え込むと一層辺りが暗く感じ、あたしの周りだけ闇が包み込んでいるように思う。


「あたしは一体……。

 どうしたいんだろ。

 こんなところで、こんなところで……」


 瞳に映る空虚な空間がじんわり滲むと、温かいしずくが一筋頬を濡らしていた。


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