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巫女様と神官長

作者: 咲夜

さらっと読んで下さると嬉しいです。

連載にしようか悩み中。

例えば、ある日突然異世界に飛ばされたとして。

何処からともなく現れた私に全く驚く事なく、超絶麗しい人がこれまた美しい笑みで「貴女は巫女様です。女神様に祈りを捧げ、世界を平和に導いてはいただけませんか?」と言われたら、皆は何て返事をするんだろう。

私、高原梓たかはらあずさは困乱する頭で一生懸命考えて、そしてきっと最も言ってはならない答えを口にした。


「私が仕える神は他にいますので無理です!」







「…あの時は本当にやらかしたと思ったね」


ほんの半年前の出来事の筈だが、もう何十年も昔の事のように話し、私はティルという日本茶の様な飲み物をずずーっと啜った。

気分は縁側に腰かけるお祖母ちゃんだ。


「何が“思った”ですか。実際にやらかしているでしょう。あの後、異教徒!と騒ぐ神官達を宥めるのに私がどれだけ苦労したと思っているんですか」


当時の苦労を思い出したのか、麗しい神官長がこめかみを押さえてマリアナ海溝よりも深いため息をついた。

アンニュイな感じがまた色気を滲ませてヤバイ。

私がこれをしたら色気どころか辛気くさいと嫌がられるだろうに…、本当に美人とは凄い。

そんな顔しても麗しいなんて罪ですね、とつい溢したら心底嫌そうな顔をされた。

白銀の真っ直ぐな髪をポニーテールして、アーモンドアイってこういうのなんだと納得する切れ長の藍色の瞳。

作り物みたいで感情に乏しいんだろうなと思ったら意外と表情豊かで、誰よりも早く私に突っ込みをいれる彼は、齢二十四にして神官を束ねる長であり私の教育係だ。


「まぁ、実際私は風早見神かぜはやみのかみに仕える巫女だからねぇ」


まさか他所様の神に喚ばれるとは露程にも思わなかった。

しかも、お神楽を奉納中に喚ばれたもんだから、きっとあちらでは神隠しだなんだと大騒ぎだろう。

…うん、帰りたい気持ちが極度に減ったわ。


「そもそも異世界から喚んだんだから、違う宗教なのは当たり前だろうにね」


「それはそうですが…、女神スィーリヤが選んだ巫女がまさか異世界人で違う神の巫女とは誰も思わないでしょう?」


確かに…、おんなじせかいからえらんだったと思うわなぁ。実際違うけど。


「だけど、なんでわざわざ異世界なんて面倒くさい所から喚んだかねぇ」


「それは私にもサッパリ…。通例であれば同世界で女神が選んだ女性が現れる筈だったのですが……」


そもそも、なんで異世界の私を選んだのかがわからない。

どこで知った、私の事。

二人して首を傾げてうーんと考えていると、不意に澄んだ声音が響いた。


『風早見神から聞いたからよ』


次いで淡い光が現れて、その中から超絶麗しいボンッキュッボンなお姉さん…いや、お姉様が出てきた。

足首まで届く長い髪は黄金の滝の様に波打ち、影ができる程の長い睫毛に縁取られた美しい瞳は極上のアメジスト。

抜群のプロポーションの中でも、純白のロングドレスのスリットから覗く美しいおみ足は眼福ものだ。

やだ、ヨダレでそう…。

慌てて手の甲で口元を拭うと、向かいに腰かけていた神官長が険しい目でこちらを見ていた。

M属性の人ならご褒美になること請け合いの冷たい視線に、私はにやけ…ゲフンゲフンッ!顔を引き締めて女性に向き直った。


「ご機嫌麗しゅう、女神スィーリヤ様。本日は如何なさいましたか?」


某所のアルバイトで鍛えた0円スマイルを貼り付けて、私は恭しくこうべを垂れた。

それにならい、神官長も頭を下げる。

ちらっと見ると、やはり眉間に皺が寄っていた。

後から腰が曲がっているやら角度が違うやら、なんやかんやと言われるだろう。

本当に彼は小姑だ。どんなに美しくても、小姑だ。

部屋掃除の時、リアルに窓の縁をなぞって「埃が残ってますよ」と言われた時には、冗談抜きで戦慄いた。

この人の奥さんになる人はきっと大変だろう。

何せ姑が二人もいるのだから。


『二人とも顔をあげて。畏まる必要はないわ。楽しそうだったから、つい出てきてしまっただけなの』


お許しが出たところでゆっくりと上体を起こすと、花が恥じらうどころか裸足で逃げ出すほどの可憐な微笑みに、眩しくて目が潰れるかと思った。

けれど、全く気に止める事もなく顔を上げた神官長が口を開いた。


「そうでしたか。ところで、先程の話なのですが巫女様の神に聞いたとは、いったい…」


まさに聞こうと思っていた事を先に言われ、私は開きかけていた口を閉じた。

何故だろう。物凄く出し抜かれた感がある。

出鼻挫かれたって、こう言う事なんだろうか。


『言葉通りよ。異界の神との会議の後、少し彼と話したのだけれど、その時に梓の事を聞いて興味を持ったから喚んだのよ』


エヘッと茶目っ気たっぷりに笑う女神に、私は目の前が真っ暗になった。

…って事はあれか。

私が今ここに居るのは風速見神のせいなのか。

そもそも、私の話って一体なんだ。

噂されるような事はした覚えないんだけど!

頭を抱えて悶えていると、慰める様にポンポンッと背中を叩かれた。

あぁ、その優しさが胸に沁みる…。

目に溜まった涙を溢さぬ様に堪え、私は神官長を仰ぎ見た。


「ありがとうございます、しんかんちょ~」


「…っ!そんな情けない声を出すんじゃありません!ほらっ、顔も拭いて!」


「うわっぷっ!」


何処からともなく取り出されたハンカチで顔を拭われ、私は思わず目を瞑った。

その拍子にポロリと涙が零れたが、真っ白なハンカチに吸い込まれた。

というか、ちょっと待って!


「い、痛いっ!痛いですっ!もっと優しく~!」


「静かになさい!女神の御前ですよ!」


「だったら、ゴシゴシ擦るの止めてください~!」


強い力で容赦なく擦られ、今度は物理的な痛さで涙が滲んだ。

嫌がらせか!?嫌がらせなのか!こんにゃろ~っ!

彼の手を何とかして止めようとしたら、何故か取っ組み合いになって、気がついたらお互いボロボロになっていた。

ちょっ、女神様。そこで一人笑って見てないで止めて下さいよ。



















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