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1-6 助かって早々疑われました

 


 高速に変化していく景色。

 もはやサイクロプスの悲鳴は聞こえず、初めのように静かな森へと戻っていました。

「あの、もう大丈夫ですから……おろしてくれませんか」

 私と吾朗を運んでくれる彼にそう言いました。

 私としては、いつまでも人に抱えられて移動するのはいささか恥ずかしい気分になります。男性ならなおさらです。

 ……それに、その、漏らしている身ですし。

(……ある意味拷問だわ。うぅ、恥ずかしい……)

 よく考えてみたら、しだいに羞恥心が込み上げてきました。穴があったら入りたいとはこういう事を言うんでしょうね。

ふと悩んでいると、自分に加わる振動が止まりました。

どうやら彼が立ち止まったようです。

「ここまで来れば安心だろう。さてと……」

 何やら彼が呟いていましたが、ふと顔をこちらへと向けてきました。

 緑の瞳に赤髪。外国人……とは一言でまとめようにも、私が知っている限り、あり得ない配色のせいで簡単にはできません。

 染めている? カラーコンタクトを付けている?

 可能性として考える限りの理由を頭に浮かべましたが、

「あ、えっ……?」

 唐突に感じた落下感。悲鳴を上げる間もなく、私は地面へと仰向けのまま押し付けられました。

 背中にかかる鈍痛。意識が一瞬飛びかけましたが、保つ事はできました。

 訳もわからぬまま、私の顔に突きつけられたのは……鋭利なナイフの先でした。

「お前は何者だ。ゲルステの者か? それともヴァイツェンか? すぐに答えろ」

「うぇっ!?」

 げるすて? う゛ぁいつぇん? そんな名前の国や地域なんてありましたっけ?

 それより、ナイフなんて銃刀法違反じゃないですか!? いや、外国じゃ違うかも……。

 そもそも、ここがどこだか未だ分からないんですから。彼の質問に答えようがありませんよ。

「ち、違うわ! 私は日本、いえ、ジャパンの出身!!」

 先ほどから相手がちゃんと私の分かる日本語を話している事に気づかず、混乱した頭のまま、自分の出身地について話しました。

「……なんだそこは? 遠方の少数民族が住む土地の名か? 確かに、黒い目で黒髪の人間などこの大陸では見た事がないな。まさか、お前――脱走奴隷か?」

「奴隷って、私は単なる農家の娘よ! 奴隷なんて今の時代にいる訳ないじゃない!」

「奴隷がいない? おかしいな……今でもゲルステは労働力として奴隷を使役する制度がある筈だが?」

「な、何言ってるのよ……」

 先ほどから目の前の彼が話す事が理解できません。

 どうやら、私と彼が知る知識にはたくさんの食い違いがあるようです。

「……奴隷じゃないなら証拠を見せてみろ」

「証拠?」

「決まっている。奴隷には肩と胸の間に奴隷紋を刻まれているからな。ひとまず上着を脱いで見せてみろ」

「ぬ、脱げってアンタ!?」

「早くしろ。俺はグズグズするのが嫌いだ」

 こ、こいつ! 見も知らずの女に向かって普通服を脱げって言うんですか!?

「……どうした、できないのか? なら本当は奴隷なんだろ?」

「だから違うってば!」

「えぇい、面倒だな! すぐに見せればいい事だろうが! いいから早く見せてみろ!!」

「ぎゃー服を引っ張るなー!!」

 彼は強引に私の上着に手をかけて脱がそうとしてきました。

 おまわりさんこっちです! ここに性犯罪者がいます!

 私は必死に抵抗しましたが、力の強い彼によって、数秒とかからず上着のタンクトップをコルク栓が抜かれるように脱がされてしまいました。今の私はブラジャーとハーフパンツだけという姿になっています。

「……奴隷紋がない? まさか、お前本当に……」

「この、見んな! あっちいけ、変態!」

 少しでも露出部位を隠そうと片手で胸辺りを覆い、反対の手で女性の服を強引に剥ぐという暴挙に出た不届き者へと向かって、私は地面にあったそこいらの石を掴んで投げつけました。

「待て、俺が悪かった。だが素直に見せないから強引な手を取らざるを得なかったんだ。所有者がいる奴隷を勝手に匿ったりすると後々厄介な事になるからな」

「そうだとしても少しは紳士的な対応って物を持ちなさいよ!」

「……やけに裸体に関して過敏に反応する女だな。そんな“貧相な”身体を見て喜ぶ男がいるとお前は思っているのか?」

 そろそろ本気で怒ってもいいですか? この男、私に強姦紛いな行為をした上に、プロポーションまでも(とぼ)しめやがりましたよ。

「余計な御世話だあぁぁぁぁーーーーー!!」

 えぇ、確かに私は胸なんてちょっと大きい程度で自慢できませんよ。おまけに身長も低いです。唯一の自慢は田舎暮らしに戻ってからすっきりしたお腹回りだけですとも!

 ……こうして文句を言ってみたら、自分がいかに女としての魅力があまりない事に気づかされて悲しくなりましたね。

「うるさい、騒ぐな、魔物が声につられてやってくるかもしれないぞ?」

「うっ……!?」

「それにお前をあの時助けたのは一体どこのどいつだ? そこを意識しては欲しいんだが?」

「うぐぐっ……!」

 そうでした、彼は“一応”私の命の恩人なんです。

 この事実がある限り、私は上から意見を言う事は許されない状態になっています。

「まぁいい、お前は言っている事で嘘はついていないようだからな。敵じゃないなら別に強くは言わない。だが完全に信頼した訳じゃないが」

「……それどういう意味よ?」

「お前の首は皮一枚で繋がったって事だよ」

 私の事は好き勝手できるとも言いたいんですね。悪いけど、私はそれほど安い女になるつもりはありません。

 今はついていくしかありませんが、隙を見せたら一気に畳みかける算段でも立ててやりましょう。

「……きゅ~ん」

「ぁ、吾朗!?」

 黒い考えを張り巡らせていたところ、弱々しい鳴き声が聞こえました。

 吾朗が目覚めたそうです。私は急いで吾朗の怪我の具合を診てみましたが、骨が折れていたり内出血を起こしてはなさそうでした。

「そういえば、一体なんだその魔物は? お前達少数民族の者達だけが扱う魔物か?」

 彼はまだ勘違いをしている事がありますが、一から説明しているとかなり時間がかかりそうなので止めておきましょう。

 置き捨てられるように地面に放られていたタンクトップを拾ってそそくさと着替え直しました。

「それよりどこかに休む場所はないの? 今すぐにでもこの子を安静にさせてやりたいから」

「だったらちょうどいい場所がある。このまま俺についてこい」

「……信じていいのよね、その言葉?」

 先ほどの印象で私の彼に対する信頼は低い場所に位置していますが、今は藁をも掴む思いです。選択肢なんて無しに等しいのです。

「当たり前だ、なんたって俺の村だからな」

 村――人里というなら好都合です。人が多ければ多いほど手に入る物も多くなりますからね。

「こっちだ、遅れるなよ」

「え、ちょっと……私も歩くの?」

「さっき言ったじゃないか。もう大丈夫なんだろ?」

「いや、このままだと必然的に吾朗を運ぶのって……私?」

「お前の魔物だ。使役者自身が責任をもって守るのが筋だろ?」

「そんな無茶な事を言わないでよ!? この子一体何キロあるか分かって言っているの!? あ、こら、ちょっと待ちなさい!」

 彼は私にこれ以上の有無を言わせずに先へ先へと進み、遠くから私が来るのを待っていました。

 視力が良いからこそ、私は遠くにいる彼の顔が見えたんですが、その顔はうすら笑いを浮かべていました。

「さすがに漏らしている女をそう何度も持つのは俺としても嫌なんだよなぁ……」

「っ~~~~!?」

(こ、こいつ……絶対私の事で遊んでいるわ!?)

 ムカつきました。悔しかったですが、主導権を完全に握っているのはあちらです。

 今は負けを認めておきましょう。ですが、いつか必ずギャフンと言わせる日を楽しみにしていなさい!

「んぎぎ! アンタまた太ったでしょ吾朗! 少しは痩せなさいよまったく!!」

「くぅ~ん」



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