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1-15 演説なんて柄じゃありませんよ


「まず初めに、このような場を(もう)けてくださり本当にありがとうございます。偶然とはいえ、この村で滞在中の身ではありますが、少しでも皆さんの力になるべく私も一生懸命お手伝いさせていただきます」

 社交辞令は大切です。物事を円滑に進めるにはここからスタート。

「皆様や村長から村についての情勢はある程度に把握させていただきました。土地の疲弊化、徴兵による男性人口の減少化、労働力と収入の不均一――他にもたくさんありますが、今はこの三つを挙げさせていただきます」

 村人達の気が滅入る様子がひしひしと伝わってきました。

 彼等にとっても本当はどうにかしたいのに、直視する事を恐れてしまうくらいなんでしょうね。

 加えて本来ならこの現状を打破するべき一番の役割を果たす御国様(おくにさま)は知らんぷり。これは泣きたくなりますよね。

「そうだ、もう村には働き手はほとんどいない。土地も悪くて作物もうまく育たねぇ!」

「私達、自分達の生活で精いっぱいで……」

「絶望的じゃよ……いったい何をどうすればいいんかわし等も分からんのじゃ……」

「村長にはいつも助けてもらってばっかりで申し訳ないくらいです」


「――悔しいですよね?」


 そう一言。私が突発も無く言ったこの一言がこの場を呑み込みました。

「頑張っても報われない。やりたい事もできない。こんな生活をいつまでも続けたいと思えますか? 私は嫌……流されるがままに生きているみたいで到底耐えられないわ」

「けどよぉ……」

「……言ったってどうする事もできないのよ」


「だから言い訳を吐く。はっきり言ってこの現状を変えたいと貴方達は本気で思っているの?」


 あ、まずいです。OL時代で携えていた意気込みが私の知らない所で込み上げてきます。

 既に敬語を取り外した話し方が定着してきていますね。戻さなければ……。

「何だって!? ちょいとアンタ、言葉が過ぎるんじゃないかい?」

「お嬢ちゃん、言っていい事と悪い事の区別を付けなきゃいかんぞ?」

 村人達の怒りが段々と(つの)って今にも私へと襲いかかろうと準備をしていました。

 チラリと横目で見ると、エレンちゃんが不安な顔をして、ガーグナーが腕を組んで微動だにせず眺めていました。

 向上心を(あお)るために適した感情は何だと考えますか? 答えは“怒り”です。

 けどこれは諸刃の剣です。着火具合を間違えると大惨事を引き起こしかねません。

「生意気な事言うんじゃないよ! アンタなんか実を取ればただの余所者に過ぎないだろ! 私達の事を何も知らない癖に――っ!」


「その通りです! 私は貴方達の事などほとんど知りません! ですが、その逆、貴方達も私の事など知らない筈です!」


 怖気づいた方が負けなんです。攻め続けなければ勢いはすぐに弱まります。

 それこそ交渉の醍醐味。ギリギリの瞬間を往来する刺激。

 本当は楽しんじゃいけない状況なんですが、昔みたいな興奮が胸にキていますね。

「だから、これから私が話す事をどう受け取るかは貴方達次第です! 束縛をするつもりはありません。選択する権利は全て貴方達に委ねます」

 そして私は一世一代となる村復興の手段を綿密に語り始めました。

 専門用語は必要とせず、子供でも分かりやすく解釈できる言葉を選んでそれで且つ丁寧に。

 プレゼンで(つちか)った私の能力をこんな形で再び発揮するなんて予想外でした。

 村復興の手段の要となる私の能力を目の前で実演し、理解を更に深めさせてから話を更に一段階上げた後は最後の仕上げ――(けつ)を取ります。

「また、質問の場も設けさせていただきます。質問がある方はご遠慮なさらずにどうぞ」

 私は来るべき質問に大きく構えましたが、村人達は説明が終わってから呆然とした表情をして突っ立っていました。

(これは、ひょっとしてやりすぎたかも……)

 心の中で気まずそうにしていると群衆の中でただ一人、空高く手を伸ばす者。

 宿屋の主人――クルトさんがそこにいました。

「サヤさん、一つだけ聞いていいかな?」

「――はい」

「何でサヤさんはここに来るまで見ず知らずだったこの村のためにそこまでやろうと思ったんだ? 先ほどの説明通りならサヤさんは行く末の目処が立つまでこの村で暮らせる事だけが利得という小さな見返りしかない。もし話の通りに村を復興できれば莫大な利潤が入ってくる筈なのに」

 そうです。私がこの案をぺルルの村に差し出す見返りとして求めたのは条件期限付きの居住権利。少し生活のために支援してもらう物資等の事も少々ありますが、そこは余計な部分になるので(はぶ)きましょう。

 私はこの異世界に二本の足で“しっかりと”立っています。

 ですがいつかは元の世界に帰らなくてはいけない身。私の事を思ってくれる家族や友人の意を無得にする訳にはいきません。一刻も早く彼等の元へ戻らなくてはならないんですよ。

 だから私がこの異世界でやれるのは“生きるため”の事。

 とは言っても、ただ息をして――物を口に含んで――休息を取る。

 そんなつまらない繰り返しは私にとって生きているとは実感できません。


「――至極、簡単な事ですよ」

「へぇ、それは何だい?」


 だからこそ、私は……。


「だって、こんなに良い村なのにもったいないとは思いませんか?」


 自分に出来て、自分にしかやれない事を目指さなければ駄目なんですよ。



一先ず、第一章はこれで完了です。

次は幕間を書くか、そのまま第二章へ突入するかですね。

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