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1-13 大地の次に欠かせない物です


 繰り返した動作には癖と慣れが作られ、一つの行動として完成します。

 何度目になるか分からない手を大地に突き刺すような行動。

 目的を知らない人間が見れば無意味この上ない物ですが、私にとっては必要不可欠です。

「爪切っておけばよかったかな。後で洗うのが大変だし……」

 手がぽかぽかと温まり、同時に土が粘り気を失っていく現象を目の前にしながら私は呟きました。

「わー見てくださいよ村長! さっきまで(しお)れていた作物が見る間に元気になってきてます」

「本当に便利な能力だな。これで村の食糧問題には当分どうにか目途(めど)が立つ筈だ」

「そうね、当分は――だわ。村そのものが生産力を持てなければ根本的な解決にはならないから私の力をまるっきり当てにされると正直困るのよね。だから私がやれるのは土壌改善、食糧危機における緊急支給措置、他は目を配らせられる部分よ」

 だけど農業だけの問題ではないかもしれません。土地の問題はどうにかなるかもしれませんが、それだけなのです。

 村を復活させるには小さな問題から少しずつ改善していかなければ全般が機能できません。

 電子回路と同じ物です。一部でも故障があれば機械自体が動かなくなる。

「次は水源ね。エレンちゃん、この村には井戸があるわよね?」

「はい、畑に撒く水も私達が日常で使う飲み水もそこから汲んでます」

 村を回った際に見かけた井戸――よく見られる地面を垂直に掘って地下水を汲み上げる堅井戸は中心に位置してます。公共的に村人全員が使う場所とされているようです。

「この村は火山地帯だが、同時に森林の力もあって天然の湧水が多くある。飲み水などには困ったことはない」

「結構よ。だけど私が一番聞きたい事はね、井戸水の水質調査はちゃんとやっているかって事なの」

 これに関してはもはや答えが分かりきっています。悪い方向ですけどね……。

「水質調査? 何だそれは?」

「井戸水は十分綺麗だと思いますよ、サヤさん」

「はぁ……やっぱり、国が動いてないと聞いてたから予想していたんだけどね」

 とは言っても、ここが田舎だとは聞かされていますが、首都という場所が元の世界の技術力と比べてどれほどの大差があるか知りません。

 ひょっとしたら水質調査という概念すらないかもしれません。

「この村で大人数が腹痛を訴えたり重い病気になった過去はあった?」

「いや、時折で体の弱さが原因でなる病にかかった者なら幾度か現れたが、村全体という伝染病的な病は誰もかかってはいない」

「つまり、井戸水自体は問題ないって事なのね。でも、予防線は張っておかないと……」

 良かったです。お医者さんみたいな外科的治療の知識がない私では最低を想定した事態には対応できませんでした。

 でも、そうならないためにも“工夫”は必要でしょう。

「それじゃあ、さっそく用意してもらいたい物があるの」


 ガーグナーに力仕事を任せた結果としてこの場にいる私達三人の前にはこれから必要となる道具が置かれていました。

「よいしょっと、すまないがお前が望む形の容器はなかった。あるとしたら昔に使われたワイン樽ぐらいだったぞ」

「これでもいいわ。コルクを詰める穴は開けて反対側は底をくり抜いてちょうだい。果たす機能には変わりないと思うから」

「サヤさん、樽はともかく、これは何なんですか? 古びた衣服の山に小石や墨の山とか、まったく意図がわからないんですけど」

 よく集められたものですね。樽と衣服を除けば他の材料は村のまわりが森林ですからこういった資源には富んでると読んで正解でした。

 衣服の種類も手触りから調べるに麻の種類に似通ってます。これで材料は揃いました。

「これからやる事を話す前に、まず二人には井戸水の危険性について知ってもらうわ」

 さぁ、事前講義といきましょう。耳をかっぽじって良く聞くんですよ?

 今なら専門用語は比較的使わずに簡単にしてあげますから。

「まず井戸水の元。知ってる通り、雨水なんかが山みたいな土砂や岩石の層を通って綺麗になった後に粘土や岩盤などの水を通さない地層でせき止められてそれが岩の割れ目なんかに何年にも渡って蓄えられた水――地下水が正体よ」

 基本的知識から始めていきます。小さい頃は山で育った手前、自然の知恵は父から念入りに教わりましたから。

 そこから生水における注意点――寄生虫、病原菌の説明へと念入りに詳しく説明を施していった所、

「?――?!――!?」

「むぅ……目に見えない程の生き物が存在する。にわかに信じがたい話だな」

 エレンちゃんはちんぷんかんぷん、ガーグナーは何とか理解を追いつけてはいますが半信半疑の様子でした。

「しかし寄生虫という物は聞いた事がある。虫の魔物には他の生物を苗床として針ごと卵を体に植え付け、その苗床を幼虫の巣兼餌として過ごさせるとか……」

「うん、まぁ……ちょっと違うけどそういうのが人間の体に小さい規模で飲み水を通して入り込むって事がある訳よ。おまけに寄生虫は成長するからどんどんと体の中で大きくなって――」

「ひいぃぃぃぃっ! 気持ち悪いです!!」

 エレンちゃんはどうやら人間の体内から虫が食い破って出てくる光景を想像してしまったようです。

どこぞの下級映画ですかと言いたい所ですが、そういった危機感を持つのは結構重要です。

「話を続けるわ。虫の問題は大丈夫、煮沸という行為をすれば熱で全て死滅できるのよ」

「水を煮るのか。ずいぶん簡単な物だな」

「でも事前で行った事は誰もいませんよ?」

「……確かにそうだな」

「思えば、この村の水は本当に綺麗だったからこそ問題にならなかったのよね」

 ある意味、幸運だったといえます。なってからじゃ遅いんですからね。

「でも今後、空気に触れているかぎりはそうなる可能性は含むの。だからまず第一に煮沸。その次で行うのが――これよ」

 私は綺麗に並べられている道具等に指を指しました。

「煮沸で大体は取り除けるわ。でも水そのものに溶け込んだ毒物は煮沸じゃどうにもできない物もあるのよ」

「つまり、これらの道具はその毒を取り除くために使う物って訳だな?」

「あら、()えてるわね」

 では、飲み水確保でこれ以上に無いくらい役に立つ知識を教えてあげましょう。

「サヤさん、じゃあ今から作るのは……」

 先人達の知恵は偉大なんです。


「濾過装置と呼ぶわ」


 後世に渡って進化し続けてきた技術の原型を今蘇らせましょう。



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