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1-10 美味しく食べる事は平和に繋がります

 


 それから私が生やしたスイカは無事に見事な大玉を成して収穫されました。実をつける間隔は小づる毎に二十節目で一個とうまく栄養が行き渡るように処理するのも忘れず。

「ふんっ!」

 こうして持ってきたスイカは力む声と共に、振り下ろされたナイフによって真っ二つに切り開かれると、真っ赤な果肉を露わにしました。

 中身がスカスカにならないのは水分と栄養素を程よく取り込めた証ですね。種の揃い方も綺麗な弓張り状です。

「ささっ! エレンちゃん。先陣を切ってどうぞ召し上がれ!」

「綺麗……こんな果物、見た事ありません!」

 ガーグナーとエレンちゃんの話からこの大陸にはスイカもしくは似通った果物はないとの事です。

 私はまだ異世界という事柄を出して話してはいないので、二人が私をこの世界にある遠方の地から来た旅人と勘違いしたままでいるので“大陸”の分類をしているんでしょう。

 むしろこの勘違いは助かります。私がもし異世界という突発的な話をすれば二人が私を見る目が変わる事は明白でしょうね。

 何せ信頼度が絶望的に少ないんですから。親しんでいるエレンちゃんもガーグナーから彼女が理解できる話で伝えているからこそ現状が保てているといって良いくらいです。

「んん~! 甘くて美味しいです!!」

「そんなにうまい物なのか?」

「すごいですよ村長!? 瑞々しくてシャリシャリとした食感もたまらなく美味しいんです!」

「どれ、俺も一口……」

 ガーグナーが食器を一本手に取り、真っ赤な円形へと突き刺し、果肉を豪快に掘り起こします。

 欲張りすぎです。せめて食器に収まる量を掬い上げなさいよまったく……。

 私の心の中での文句に露知らず、ガーグナーはスイカを口に運んでゆっくりと咀嚼を始めました。

「っ……これは!?」

 目を大きく見開くや、一つ、二つと果肉に食器を何度も突き刺して頬張り始めました。

 どうやら気に入ったようですね。

「ほ~ら、美味しいでしょ~?」

 私は勝ち誇ったような笑みをガーグナーにわざと見えるように向けつつ、聞いてみました。

 こういうのを俗に言うドヤ顔っていうんですかね? 私ってウザくないですよね?

(いや、こいつには嫌がらせる方がむしろ良いかも……)

 こう考えると躊躇は一気に消え去りました。こうなったら徹底的にやっておきましょう。

 今までガーグナーからは「こいつなど取るに足らない存在だ」と言わんばかりな態度を取られてきましたからね。

「……そうだな、作った人間の割りには素晴らしい物だと言えるな」

(だから一言余計だって言ってんでしょうがあぁぁぁぁーーーーー!!)

 咆哮が私の口先三寸前で暴れまわりましたが、笑顔のまま眉間に皺を思いっきり寄せる事で何とか押し止めました。

「あ、そう……じゃあ味見はアンタこれで終わりね。エレンちゃん、あの子達呼んできて私達で食べましょう」

「おい、待て……」

(あー聞こえない聞こえない。私の耳にはどこかにいる腐れ村長さんの声なんて聞き取れませんよ~?)

 私とガーグナーのやり取りに戸惑っているエレンちゃんの手を引き、テーブルに乗っていたスイカをぶんどってこの場から立ち去ります。


 未だうるさい声が響く建物から出て向かった先。

 窓の外でさっきからちらちらと窺っていたあの子達に会うため。

「ふふ、何してんのかな~?」

「あ……」

「な、何でもないです……」

 そこにいたのは私がベッドで気絶している間で顔に悪戯をした子供達――ムドとラル。

 こそこそと覗いている行動を悪いと感じているのか、私に悪戯をしてしまった後ろめたさがあるからなのか、二人は私とまともに目を合わせられなくしていました。

「ほら! せっかくなんだから君達も食べてみなさいよ」

 これまで二人の視線は感じてはいましたが、悪意は無さそうなので放っていましたし、悪戯の件は吾朗がやった舐め回しに免じて許してあげていますし、つまり何も怒ってはいない訳です。

「あ、ありがとう……」

 二人にスイカの切れ端を差し出して「食べてみては?」と催促しました。

 柔らかい態度で対応した私に対し、二人は未だに固い態度でぎこちない様子でした。

 もしかして私、恐れられているんですか?

 ……心外です。女が怖がられるっていうのは図太い神経をお持ちの方でなければ結構心に来るんですよ? 私でさえ落ち込むくらいですからね。

 ですから若干落ち込んでいますが、知られないように平常を装っておきました。

「これうめぇっ!?」

「ホントだ! うまいよ!?」

 スイカに齧り付くと二人はたちまち舌をうならせたようです。

 一口目はゆっくりでしたが、二口目からは一気に齧り付いていき、たちまち切れ端は赤い果肉を消してまっさらな白い皮だけを残してしまいました。

「慌てない慌てない、まだまだスイカはたっぷりあるんだからゆっくり食べてね」

「うんっ!」

 農家の人間として、自分で作った物を美味しく食べてくれる事は何よりの至福。これが一進して育て上げる専門――スイカという栽培物ならなおさら。

「エレンちゃんもぼぅっとしてないで、もっと食べていいわよ」

「はい!」

 嬉しそうですね。ひょっとしてスイカを気に入ってくれたんですか?

 ではどんどん食べてください。スイカは最低でもあと三個は出来ていますからね。

 ただ、食べ過ぎておしっこが出やすくなるのは個人の責任でお願いします。

「姉ちゃん、俺にもちょうだい!」

「あー僕も僕も!」

「はいはい、ちゃんと並んで待ってなさいね」

 楽しい時間とはこういう物の事を言うんですよ。

 ――仲良く食事をする。

 やっぱりこれが一番ですね。

(でも何か、さっきから変な感じがするのよね……)

 特に後ろが――他の三人は気づいてないようなので、私だけ振り返って見てみると、

「…………」


 ガーグナーは仲間に入りたそうにこちらを見ている。


「…………」

 私は視線を逸らして見なかった事にしました。

 何ですかあれは!? 大の大人がドアから顔を覗かせて羨ましそうに見つめている光景なんて一種のホラーにしかなりませんよ!!

(意地張りすぎたかなぁ……)

 ……少し可哀想な気もしてきました。情けをかけるつもりはないと考えていましたが、あれを見てしまったらちょっと、ね?

 もう一度振り返って見てみると、

「…………」

「くぅ~ん」


 ガーグナーと吾朗は仲間に入りたそうにこちらを見ている!


(――って増えてるやんけ!?)

 突っ込みが追いつきません。いつの間にやらガーグナーの足元に同じくこちらを羨ましそうに見つめている吾朗がいるんですからね。

 駄目です。あんなの放置おいたらのどかなペルルの村に悪影響を及ぼしかねません。

 黒い負の渦が少しずつ大きくなっています! アンタ達は瘴気発生装置ですか!?

「……よかったらアンタ達も一緒に食べる?」

 一時休戦です。戦略的撤退――負けにしておきましょう。

 あー怖かった。フィクションのホラー番組より迫力がありましたよ……。



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