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ハーレムエンドは一目にしてならず7

 ……ええと、うん、聞き間違いだよな。

 まさか、清純で民のことを第一に考える優しいリリィ様が居の一番で他国の勇者を潰してこいだなんて言うはずがない。

 しかも、再起不能になるまでなんて。

 俺の聞き間違いに違いあるまいて。

「あら、それが私に対する八雲様の印象でしょうか?だったら、まったくの間違いですね。私は間違いなく暴君ですよ。この国の人間ならば当たり前の常識です」

 悪びれた様子もなく語る王女に、その言に何も反論しないでしきりに頷いている王宮魔導士。

 つまり、これは真実であるというのだろうか。

 そんな言葉を聞いた後に眺める彼女の微笑はどことなく不敵なものに見えて。

 まあ、俺も随分と場の空気に流されやすいものだと、多少自己嫌悪してしまう。

「ああ、あれですよ。私が国の民の幸福を願っているというのは本当です。だって、当たり前じゃないですか」

 なるほど、民を思うあまり、とってきた政策が苛烈なものであっただけで、彼女の本当のところはやはり心優しい……

「この国にいるのだから、民は幸福じゃなければならないんです。そう、幸福であることが義務なんです。だから、一昔前にこの国に居ながら幸福でないとのたまった300人ほどを国外追放させてもらいました。それが原因で暴君なんて言われるようになりましたが、まあ、そうやって私をスケープゴートに用いて、私を罵倒することで民が幸福になるというならば、気にしませんが。本当のところ、この国で不幸であるなんて言う人間は早々に処断したかったのですが、まさか国の大臣全員に止めらるとは思っていませんでした」

 えっと、俺はいつアルファ・コンプレックスに紛れ込んだというのだろうか。

 とりあえず、目の前の王女様のことはUV様と呼びたいところだな。

 しかし、笑いごとじゃない。

 実際のところ、目の前の王女様の目は本気の本気、現実でハイライトが抜けた瞳を見ることになるなんて思っていなかった。

 ミネアもヤバい人種と感じたが、彼女は本気でヤバい。

 たとえるならば、ミネアは精神的にヤバくて、彼女は生命的にヤバい。

「話を戻しましょう。他国の勇者は邪魔にしかなりませんから、魔王との共闘して迅速に当たってください。魔王がルーンベレストやガシューアルトに侵攻をかけて大打撃を与えたところを、後ろから刺すというのは当たり前すぎますかね。いっそ、魔王の進行に合わせて、こちらも動いて漁夫の利を得てしまうというのも中々に乙なものです」

 そうやってほほえみ姿だけを見れば完全な聖女か女神さまといったところなのに、まあ瞳からハイライトがぬけているんだが。

 このままだと絶対に生きては帰れないミッションにレーザーライフル片手に放り込まれそうだ、足元の少女に助けを求める。

 目が合った彼女はいつものことだと言わんばかりに首を横に振るだけだ。

「とりあえず、魔王はすぐには倒さないようにしてくださいよ。両国にダメージとは高望みしすぎかもしれませんが、一方は蹂躙してくれることを期待しなくては」

 わくわくしてきたと言わんばかりの無邪気な笑顔が逆に怖い。

 ここに至って、確信した、させられた。

 俺にはどうやら女難相があるらしい。

 魔王討伐最大の敵は魔王でも他の勇者でもなく、俺の周囲の女性たちだとでも言うのか。

「今まで、わが物顔で踏ん反り返っていた大国が滅び行く様は想像するだけで笑みがこぼれてしまいますね。きっと、地面に頭を垂れて私に助けを求めてくる姿は滑稽ですよね?やはり、貴方の国は最高だ、なんて心にも思っていないことをのたまいながら」

 UV様、俺に問いかけられても何も返答できません。

 ああ、本当に駄目だこれは。

 この人が性格に難があるといった人物達と旅をしなければならないという。

 あれ、涙だ出てきた。エンディングでもないというのに。

 パーティーキャラの暴走で進行不可能になるとか、どんなクソゲーだよ。

 どうやったって、バッドエンドにしかたどり着けなそうだ。

「ええ、他国の勇者という強敵を相手する。不安になられるのも仕方ないことでしょう。ですが、八雲様ならばうまくやってくれるでしょう?」

 すみません、それは疑問形で聞く言葉じゃなかったはずです。

 どうしたものか、うまくやれなかったら、俺のクローンが登場してきてしまいそうな勢いだ。

 ファンタジー世界に来ていたはずが、いつのまにか性質の悪いSFになってきた。

 いや、そういった要素はまったく出てきていないはずなのだが、そんな気がしてしまう不思議。 

「それに、先ほども言いましたが、私が考えうる限り最高のパーティーを用意させていただきました。そこにいる、我が国が誇る王宮魔導士ミネア・ライトレールを筆頭にこの国だけではなく周辺各国にも名の知られた戦士・大陸全体の権力を握るとされる聖王教会の僧侶・あまりの残忍さに100年に渡り投獄されていた盗賊と八雲様のお父様のパーティーの構成を基に最高のメンバーであることは疑いようがありません」

 なるほど、評判を聞く限り、かなり強力なメンツであることは疑いようがなさそうだな。

 性格はともかく、スペックは。

 だいたい、と更にリリィ様は言葉を続ける。

「この私の選定が間違っているはずがありません。そうでしょ?」

 はい、その通りでございます、UV様。

 なんて言葉は心の奥底に沈めておこう。

 言ってしまえば、本当にこれはファンタジーではなくなってしまう。

 具体的に言わせてもらえば、言った瞬間にリリィ様の手にしたレーザーガンによって灰に変わり果てそうだ。

 まあ、こんな俺の思考自体がファンタジー世界観を壊しているというのも事実だろう。

 ここまででわかると思うが、案外俺はSFも好きな部類だ。

 正直、疲れ切った俺は久方ぶりにテーブルに置かれた紅茶に手を伸ばし、のどを潤す。

 そして、そんなタイミングを見計らったかのように、部屋の扉が叩かれる。

「リリィ様、御三方がお揃いになりました。それぞれ応接間にてお待ちです」

 扉の向こうから聞こえてきた声は衛兵のそれだろう。

 そして、御三方というのは、先の話に出てきた仲間のことであろうか。

 何故に、俺は1日の間に衝撃的な出会いを繰り返さなければならないのだ、持たないよ体も心も。

 ミネアとリリィ様で俺の胸はいっぱいいっぱい、インターバルをください。

 だけど、そんな意見を目の前の御方に進言する勇気は持ち合わせていないので、あきらめるしかない。

「皆さんの集まりがよろしくて助かりましたね」

 はてさて、助かったのはリリィ様なのか、俺なのか、それとも足元で俺に無視され続けているミネアなのか。

 とりあえず、このまま暴君様と会い向かいに会話を続けずに済む点については助かったな。

 彼女をして性格に難があるという評価をされる相手と対面しなくてはならないというのは更なる苦行だ。

 人間は慣れるものだというが、こんな人物達に囲まれる状況を慣れることなんてあるのだろうか?

 なんというか、そういった状況は本気で勘弁してほしい。

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