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ハーレムエンドは一目にしてならず5

 眼前のリリィ様はかなり困り果てた表情をしていた。

 当然のことだろう、客人を呼びに行かせただけだったはずの友人がまさかその客人に絶対服従を誓って帰ってくるなんて考えもしなかったはずだからな。

 だから、そんな困ったような顔で俺を見つめるのはやめてください。むしろ、俺が聞きたいぐらいです。

 俺が今いるのはリリィ様の執務室であった。

 聞いた話だと、リリィ様は一日の大半をこの部屋で過ごすそうだ。

 なので、俺はもっと豪華な部屋なのだと思った。

 まあ、十分すぎるほど豪華ではあるのだろうけどな。

 部屋の奥に置かれた執務机はピカピカに輝いており、物の価値がわからない俺でも素手で触れては駄目なんだろうなとは思う。

 部屋の脇にたたずむ本棚には分厚い本がビッシリ収められており、戸棚には銀製らしい食器などが飾られている。

 そして、俺がいるのは執務机の前に対面するように置かれた2つのソファーの1つで、入り口側に置かれている方だ。

 革張りのこのソファーはふかふかであり、座り心地は最高の一言に尽きるだろう。

「だから、座らないか?ミネア」

「………………」

 俺の問いに対して、ミネアは首を無言で横に振るだけ。

 彼女が居るのは俺の眼下、足元の床に四つん這いになっている。

 曰く、足蹴にしてくれということだ。

 たしかにこのソファーに座って足を延ばせたならば、心地よいだろうが、一人の少女の尊厳を犠牲にするほどのもんじゃねえだろう。

「すみません、私が何も考えずにミネアを向かわせたものですから」

 いったい、この部屋に来てから困り顔で謝るリリィ様を何度見たことか、こちらが申し訳ない気分になってくる。

「いえ、俺も断りきれなかったところもありますし」

「リリィに言われるまでもなく、私はご主人様を主と直観していた。ただ、強引な方法を取らざる負えなかったかの差でしかない……」

 ミネアは俺のフォローもなにも、横合いから壊していく。

 というか、リリィの許可がなければ強引な手段を取っていたのか。

 ものすごく、気になるところであるが、聞きたくない気持ちの方が強いから黙っておく。

「まあ、ミネアに本気を出されてしまいますと、衛兵全員で掛かっても負けてしまいますからね」

 ため息交じりに語られる言葉には真実味を帯びており、眼下で這いつくばって俺に足蹴にされることをかるく息を乱しながら待っている少女がすごいことを思い知らされる。 

 流石は王宮魔導士といったところか。

 それ以前に……

「王宮魔導士ってなんなんですか?」

 当たり前のように俺にとっては初耳な言葉だ。

 響きだけで凄そうということは分かったし、さっきのリリィ様の発言で実際にすごいということは分かったが、どのようなものなのかはわからない。

 異世界で無知であることは命の危機を招く。

 まずは自分のいた世界とどのような違いがあるかなどを細かく知ることが大切だろう。

 まあ、俺が長年のシミュレーションという名の妄想によって編み出したことなので、実際にそうなのかはわからないけどな。

 別段、親父は気にしたことはなかったらしいので、考え過ぎということもあるだろう。

「え~と、ですね。王宮魔導士というのは、国の王に仕えて、魔術などの知識をもって国の行く末を示す人物のことです。仰々しい言い方ですけど、分かりやすい仕事を上げるなら、流行病の特効薬を開発したり、魔物から村などを守る結界の整備などですね」

 なるほど、かなり重要な役職であるらしいな。

 実際、王女を呼び捨てにして親しくふるまっているところを見ると、それを咎める者がいないほどの地位にいるということの証明だ。

「基本的に1つの国に1人の王宮魔導士が存在しています。ミネアは大陸全土で最年少の王宮魔導士なんですよ」

 確かにミネアの年齢を考えれば、王宮魔導士なんて仰々しい名前は似合わないな。

 魔女っ娘とか魔法少女なんていうのがぴったしだ。

 だというのにそこまでの地位に上り詰めているというのだから、彼女は天才であり努力家であろう。

 急にミネアに対する尊敬の気持ちがわいてきたぞ。

「私が王宮魔導士になれたのは、この国の魔導士の質が低いから。大国の王宮魔導士と比べたら私なんて足元にも及ばない……」

 ミネアの口から語られる言葉には何の感情もなく、それが謙遜でもなんでもないように語られる。

「まあ、同じ足元でも私はご主人様の足元に這いつくばっている方が何倍もマシだけど……」

 そんな余分な言葉を吐きながら、ミネアは俺の脚に顔を摺り寄せる。

 くそ、先ほどまで積み上げられたミネアに対する尊敬が崩れ去ったような気がする。

 しかも、それが望みであったといわんばかりにしてやったりという顔をしているのが手におえない。

「ははは……ですが、他国の王宮魔導士たちは高齢で人生のすべてを用いて築き上げた知識でその地位に座っています。そのことを考えるならば、ミネアの存在のすごさがわかっていただけますでしょう?」

 確かに目の前に崖が迫っている老人と、地平線が広がっているミネア、今現在をスタートラインとするならば、これから積み上げられるものの差は歴然としているだろう。

 つまるところ、この少女は普通にしてれば他国からも認めらるような天才少女であるという訳だ。

「先の通り、ミネアが本気になれば我が国の兵では手も足も出ないです。その戦力と深い知識を見込んで八雲様のサポートに役立てばという人選だったのですが」

 今日一番のため息がリリィ様の口から零れ落ちる。

 こんなことを言いたくはないが、完全な人選ミスであったというべきか。

 だが、元凶をたどれば俺が女湯なんぞに現れてしまったからということも考えられるので、強くはいえない。

 つまり、この状況というのは完全なる偶然によって引き起こされたものであって、だれを攻めることもできないということさ。

 もしも、神様なんていう存在が居て、そいつが仕組んだことならば、本気でぶん殴りたいけどな。

「でも、あれです、ギクシャクした関係で旅を始めるよりは良いですよね?」

 そう俺に無理やりイエスを引き出そうとするリリィ様の表情は満面の笑み。

 どうやら、その結論で押し通すことが決定したらしい。

 中々に強引な王女様である。

「さて、実を言いますと。八雲様の旅の共を務める者たちを私たちの方で選んでおります。その誰もが我が国で用意できる最高の面々であることは、このリリィ・ファルスクラウンが保障いたしましょう。ただ……」

 そこで、いったん口ごもり、一言。

「1人は良いんですが、2人ほど性格に難がありまして」

 おい、この国にはまともな人材は存在しないのか?

 そもそも、ミネアという存在がそばにいるリリィ様をして性格に難があるなんて言われるということは、ミネアと同等かそれ以上ということだ。

 何がとは言わないが。

「そちらの方は後程、顔合わせをしたいと思っておりますし。今はこの国、ファルスクラウンが置かれた状況を説明しておきましょう」

 そう言って立ち上がったリリィ様は、自分の執務机から丸められた紙を持ってきてソファーの前に置かれた背の低いテーブルの上に広げた。

 それは地図であった。

 地図のほとんどを使って1つの大陸が描かれており、当たり前だが俺の知っている大陸ではなさそうだ。

 リリィ様が指先で地図の西にあった黒い点を丸く囲むと、地図上に黒い円が指のなぞった軌跡をたどって現れた。

 どうやら、魔法の地図であるらしい。

「ここが私たちの居る、ファルスクラウン王国首都であるルブランです。そして、この範囲が……」

 今度はルブランのすぐ横をトントンと2回ほど指で叩くと、大陸の西側、その一部範囲が赤く染まる。

 大陸の面積を考えれば、その大きさは10分の1ほどであろう。

「ファルスクラウンの領土です。ちなみに、この大陸には3つの大国が存在しており、その大国はこのように存在しています」

 地図の3か所を叩くと、青・緑・紫という色で大陸のほとんどが色分けされる。

 個々の大きさはファルスクラウンの数倍といった様子で、これだけ見せられてもファルスクラウンという国の地位がわかってしまう。

「ごらんのとおり、我が国は国力といった面で他の3国に大幅に負けております。戦争をするほどの戦力も有しておりませんので、隣国であるガシューアルト公国の保護下で国を維持しております」

 どうやら、ファルスクラウンの隣にある緑で示された国がガシューアルトという国らしい。

 ふうんとうなずきながら見渡し、1つ馴染みのある名を見つけた。

 大陸の中央に示された青色で表された国、その名であろう1つの単語。

「ルーンベレスト……」

 別段、俺がその名を口にしたことをリリィ様は不思議に思わなかったようだ。

 これではっきりと判断できる、どうやらリリィ様は俺の親父を知っているらしい。

 それ以前になぜに俺が異世界の国の名前を知っていたかということだが、それはとても単純なことであり、このルーベルリングという世界は親父がかつて魔王を討伐した世界であるからだ。

 そして、ルーンベレストというのは親父が勇者として呼ばれた国の名前だ。

 幼いころに散々、聞かされた地名だからな、覚えていて当然だ。

「ご存知でしたか。流石は先代勇者様のお子様でいらっしゃいます」

 どこか柔和でおっとりとしたイメージは成りを潜めて、リリィ様の纏うそれは完全に王女としてのそれだ。

 個人的には先ほどのまでの雰囲気の方が好みであるな。

「やっぱり、俺を読んだ理由は親父がかつてこの世界に訪れた勇者であったからですか?」

 ぶっちゃけ、それ以外に俺を名指しにしてまで呼ぶ理由はないだろう。

 どうやって知ったかはしらないが、俺が親父の息子であると知ってこの世界に招待したのだろう。

 まあ、俺は特に気にしないけどな。

 俺の野望を成し遂げられるならば、親父の威光だろうがなんだろうが利用してやるさ。

「はい、その通りでございます。ただ、詳しい話をするならば、かなり長いお話になりますがよろしいですか?」

 いくらでも良いさ、なんせ日はまだ上ったばかりだ、時間はたっぷりある。

 とりあえず、床に四つん這いになっている少女がチラチラとこちらの隙をうかがっているから、彼女が何かしらのアクションを起こす前に終わりにして欲しいがな。

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