ハーレムエンドは一目にしてならず2
事の発端は、俺の家に届いた一通の手紙。
内容は……
『太刀夜八雲さま
このたび、私たちの世界ルーベルリングは魔王の手によって未曾有の危機に瀕しております。
貴方様が勇者としての素質があるお方だと判断して、お願いいたします。
どうか、私たちの世界を救ってはいただけないでしょうか?
もし、私たちの世界へ来ていただけるならば、この手紙を燃やしくださいませ。
そうすれば世界を繋ぐ門が開くでしょう。
もし、私たちの世界へ来ていただけないならば、この手紙を破り捨ててしまってください。
ただ、私は信じて待っております。
ルーベルリングの空を見上げ、いつまでも。
ファルスクラウン王国第一王女 リリィ・ファルスクラウン』
ちなみに、内容はすべて日本語で書かれていた。
正直に言わせてもらえば、何だかんだ言ったが悪戯なのではないだろうかと思った。
学校でも俺の異世界厨具合は有名でもあったので、学友の誰かしらが仕掛けたのだろうと。
なんたって、内容が日本語な時点で怪しすぎるというものだ。
だが、ここで本物であった場合に、それを破り捨ててしまった場合は泣くに泣けない。
幸いなことに、ためしに手紙を燃やして仕掛け人である学友に笑われる前に本物であるかどうかを確認してくれる人物が俺にはいた。
もちろん、親父である。
そして、見せたところ、魔力の痕跡があるので本物か素人な学友が仕掛けてきた以上にやばい紛い物だという。
元勇者である親父を狙った、何者かによる罠の可能性もなきにしもあらずといったところだが、親父とお袋は若い頃は無茶を買ってでもしろと、手紙を燃やすことにまったく反対しなかった。
なんというか、無責任な両親である。
俺を信頼していると言えば、聞こえが良いが、そんなものじゃあないような気さえする。
とりあえず、両親の許可が取れた俺は届いたその日の内に手紙を燃やすことにした。
なんたって、異世界の美少女(予想)王女様が俺を待っているというのだから、一秒だって刹那だってゆっくりなんてしてられない。
俺のポリシー的に現代機器を持ち込むつもりがなかったので、基本的には完全に手ぶらであったので準備に時間なんてかからなかった。
そして、俺は台所で手紙を燃やした。
理由として、何かしらあった時に親父やおふくろといった経験者に助けてもらえるから。
結果だけを言い表すならば、手紙を燃やした瞬間に緑色の炎が燃え上がり、円形を整えて内部にどこか違う世界の風景を描き出した。
間違いない、本物だ。
感動を覚えた俺に1つ問題が発生した。
台所のコンロなんぞで手紙を燃やしたものだから、仮にゲートと呼ぶしろものが出来た位置がコンロの上であった。
なんともまあ、潜ろうとするには面倒な位置だ。
どうせならば、庭先で燃やせばよかったな。
出鼻を挫かれた俺はいったん、踏み台になりそうな物を探してきて、再びゲートの前に立った。
これから俺の冒険が始まるのだから、この程度のことで挫けてなどいられはしないだろう。
決意を新たに、俺はリビングでくつろいでいる両親に行ってきますと一言だけ声をかける。
そして、返ってくるのはいってらっしゃいという普通の返事。
うちの親は放任主義すぎるのではないだろうか?
いくらなんでも、自分が過去に経験したことだからといって、異世界への冒険へ旅立とうという息子に気を付けてとも言わないとは。
これでは学校へ行くために家を出るのと変わりがない。
まあ、そんなことをいくら言ったところで仕方あるまいし、止めはしないのだから良いとするしかあるまい。
結局、俺の冒険の始まりはため息で始まることになってしまった。
それでも、ここから先には冒険と桃色の生活が待っているのだから、気にはしない。
なんとか、己の心を前向きに保って、ゲートをくぐる。
特に潜った際に違和感は感じなかった。
それこそ、何の変哲もない床を這ったような感触であり、感慨もなにもありはしない。
それでも、俺が潜り抜けた場所はさっきまでいた家の台所なんかではなかった。
ただし、スモークのような白い煙に包まれていて一寸先も見えやしない。
這いつくばった手で感じる床の感触はツルツルしていて、見てみると風呂場のタイルのようなもの。
立ち上がり、再び周囲を見渡す。
そして気づくのは周囲を満たす白い靄は湿気を帯びていて、どちらかというと湯気とか蒸気とかそういったものであること。
もっと、正しい表現を模索して出てくるのは湯煙か。
……ものすごい嫌な予感がして、汗が噴き出してくる。
まあ、単純に周囲の熱のこもった湯気の所為というのもあるのだろうが、大半が冷や汗である。
俺の予感が正しいならば、この場所は非常に危険な場所だ。
下手な状態だと、アルカトラズとか魔王城の方が安全に感じるかもしれない。
そして、これから巻き起こるであろう展開はある意味王道とも呼べるやもしれない。
しかし、俺が望んだものではないのは明白であり、俺は少なくとも異世界の女性の味方となって黄色い声援を浴びたいので、彼女たちを敵になど回したくない。
そうとなればと振り返れば、潜って来たゲートは消え去っていた。
さらに、ゲートがあった辺りには1人の少女が立っていた。
うむ、なかなかの美少女だな、少なくともあっちの世界じゃそうそうお目にかかれないようなレベル。
問題なのは、俺の予感通りに彼女が一糸まとわぬ姿で目の前に立っていることだ。
少女の顔に浮かんでいたのは俺という異物が居ることに対する驚愕、それが段々と自体を理解していき恥ずかしさや怒りといった感情に変わっていく。
一寸先が見えないほどだった湯気も晴れてきて、俺は自分に突き刺さる幾多もの鋭い敵意のこもった視線を感じる。
だが、俺はここで平謝りをするような愚を行わない。
あえて、役得と言わんばかりに周囲を眺めて満足したように頷いておく。
こんな展開も悪くない、これからどんな目に遭ったとしてもだ。
それを合図と言わんばかりに周りを取り囲んだ歳のバラバラな女性たちから悲鳴が上がる。
当たり前であるが、俺が望んだような黄色い声音などではないけどな。
結果、俺は変態だのなんだのと罵倒されながら、風呂桶やらなんやらを投げつけられ、魔術によって放たれたと思われるわりと本気な火の玉やら氷塊やらを放たれ、最終的には外に放りだされて全身に甲冑を纏った騎士様に明らかに思念が混じってるだろと言いたくなるほど乱暴に連行されて地下牢に放り込まれた。