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ハーレムエンドは一目にしてならず1

 俺の名前は太刀夜八雲、18歳。

 群馬県のとある高校に通う普通の高校生。

 成績だって、中の上ぐらいで運動神経だって良い方ではあるがスポーツ万能って訳じゃあない。

 恋愛なんざ、もってのほかで告白は幾度となくしたことはあってもすべて断られ、されたことなんて女子に告白されるなんて都市伝説じゃね?という話を本気にするレベル。

 とまあ、こんな独白をしたりしていると、まるで小説の主人公かなにかのようだ。もしくはドラマCD冒頭であろうか?

 だが、今の俺にはふさわしいといったものであろう。

 なんたって、小説の主人公に負けず劣らない非現実に巻き込まれることになるのだから。

 といっても、別に空から女の子が振ってきたり、謎の女性が現れて「貴方は組織に追われているの」なんて突拍子もないようなことを言われる訳でもない。

 そういった最近のラノベ系の話じゃなく、俺が体験することになるのはもっと王道な話だ。

 異世界への渡航、勇者と崇められ聖剣を求める旅、友情を深めた仲間と共に魔王との最終決戦、そして伝説へ……

 これこそ王道ファンタジー、王道過ぎて逆にこの手の設定のゲームや小説とか見かけなくね?と思いすらするほどのザ・ファンタジー。

 男ならば、1度は異世界で勇者様と呼ばれたいと思うだろう。

 そして、俺にはその気がかなり強かった。

 理由は俺の親父にある。

 何を隠そう俺の親父はかつて異世界に渡り、魔王を倒したことがある人物なのだ。

 こんな話をすれば、どうせ法螺話だろうと相手にしたくれないだろう。

 酒に酔っぱらったおっさんが純真無垢な子供を楽しませるために作り出した武勇伝に過ぎないと。

 ならば、俺の家の物置にあった不思議な光を放ち、物置の床を陥没させるほどに重い西洋剣をどう説明する。 

 前提として、真剣であるロングソードが日本の一般家庭にあること自体がおかしいし、親父はその剣を片手でやすやすと扱って見せた。

 いわく、自分が魔王を討滅する際に用いた聖剣だそうだ。

 まあ、それでもおっさんが手の込んだことやってるよ、といって信じないやつもいないだろうし、証拠を見せつけられない以上は俺が語る言葉だって法螺の可能性はある。

 まあ、そんなことはどうだって良いんだ。

 俺が親父の話を信じているというだけなのだから、他の誰かにとやかく言われる筋合いはないというもの。

 俺の親父がとんだ法螺吹きである可能性の話はおいておいて、重要なのはその話で俺がどこに食いついたか、だ。

 それは数多の強敵との手に汗握る戦いでもなく、最初は反発していた仲間達との深まる友情とか、苦戦を強いられた魔王との戦いなどではない。

 そんなものは本筋を引き立てるエッセンスでしかありはしないのだ。

 実際に親父もその辺の話よりも、あることを強調した語ったものだ。

 曰く、異世界にいって勇者となればモテるらしい。

 それは現実世界で語られる都市伝説の一つであるモテ期なんかとは比べようがないほどにモテるらしい。

 勇者として召喚されただけ、召喚された国の女性たちからは黄色い声援が送られ続け、魔王を倒そうものならば世界中の女性が結婚を申し込んでくるらしい。

 なんでも、俺のお袋も実は異世界の住人で、親父が連れ帰って来たらしい。

 年端もいかない頃の俺にそんな話を意気揚揚と語ってみせる親父も大概であるが、そんな話に年端もいかないくせに夢とロマンを感じた俺も大概だ。

 そんな夢とロマンは当たり前のように歳を重ねるごとに強くなり、今では異世界でのハーレムエンドを妄想しない日はないほどだ。

 とりあえず、魔王を倒しにいくパーティーは男1人にほかは全員女性だ。

 男を1人いれるのはさすがに魔王相手に前線戦闘職が俺一人じゃあキツイと考えてのこと。

 死んでしまって悲劇の英雄では意味がないからな。

 まあ、パーティーの1人ぐらいは頑張ってくれるであろうその男に譲っても構わん。ただし、一番の綺麗どころは俺が頂いていく。

 はあ、なんと夢の広がることであろうか。

 異世界に召喚された俺はまず召喚した国の姫様の可憐なるほほえみを持って迎え入れられるのだ。

 そして、まずは晩餐会、第一王女から第五王女ぐらいまでが俺にその時点でメロメロに違いない。

 異世界が一夫多妻制であれば良いのだが、もし違うのならば勇者権限で改正しなければ。

 いやあ、まったく、複数の相手に好意を持たれるなんて困ってしまうなあ、などと俺は心底困った顔でつぶやくに違いない。

 そう、そう思っていたのだが、現実はまったく違うことになってしまっていた。

 まず、根底から、俺がいま居る場所からおかしい。

 そこは城の地下に造られた牢獄、罪人を閉じ込めておく場所。

 冷たい石畳と鉄格子、光源は鉄格子のつけられた小さな窓から入ってくる月明かりだけ。

 ちなみに期待していた豪華絢爛な食事などはなく、目の前にあるのは粗末なパンと冷たいスープだけ。

 全身に慢性的現れている痛みを感じながら、俺は呟く。

「どうして、こうなった……」

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