もう一つのお話
街角の公園で、ひとり子供が泣いていた。
「忘レラレナイ、忘レラレナイ」と泣いていた。
通りがかった誰かがその子供にたずねた。
「なにが忘れられないの?」
子供は目が真っ赤になるまで擦りながら、「大切なものがコワレテしまったの」と泣いた。
「カナシイ、カナシイ」と、壊れたしまった大切なモノが忘れられなくて、子供は泣いていた。
次の日も子供は、公園でひとり泣いていた。
今日も誰かが「何が忘れられない?」と子供にたずねた。
子供は「コワレテしまってカナシイから」
と、壊れてしまったモノが忘れられなくて、子供は今日も泣いた。
次の次の日も子供は公園で泣いていた。
「何が忘れられない?」
「悲シクテ、哀シイから」
カナシイことが忘れられなくて、今日も子供は泣いていた。
次の次の次の日、子供は公園で涙を一粒流してつぶやいた。
もう誰も「何が忘れられない?」とたずねる者は一人もいない。
今日、子供は、「忘レラレナイことが、忘レラレナイ」と泣いた。
そうして子供は泣きやんで、公園を立ち去って行った。
次の日から、子供は公園にはあらわれなくなった。
忘れた子ども
(忘れたことも、忘れてしまった。)