第1章 禁忌の森⑦
それは、ある日突然決まった。
村の集会が開かれると聞かされたのは、前日の夕方だった。
「アガト、お前は来なくていい」
父さんはそう言って、目を逸らした。
「……どうして?」
「大人の話だ」
それ以上、何も言わなかった。
集会は、村の中央にある集会所で行われた。
窓越しに見える灯りと、人影。
僕は家の中で、一人、待たされていた。
その夜、父さんと母さんが帰ってきたとき、
二人の顔は、はっきりと疲れ切っていた。
「……決まったわ」
母さんが、静かに言った。
「禁忌の森に立ち入った罰として……エルフィード家は、しばらく村の役務から外される」
「役務……?」
「畑の分配、狩りの協力、井戸の使用時間……全部」
つまり――村の輪から外されるということだった。
「でも……リィナも一緒に――」
「リィナは、被害者だそうよ」
母さんの声は、かすかに震えていた。
「連れて行かれた、可哀想な子。
……そういうことに、なったの」
胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。
「僕が、悪いの?」
そう聞くと、父さんは答えなかった。
母さんは、しばらく黙ってから――言った。
「……悪い、というより」
一拍置いて。
「関わると、よくない子だと……思われているの」
◆
その日から、少しずつ、すべてが変わっていった。
畑を借りられなくなった。
水を汲みに行くと、順番を飛ばされる。
挨拶をしても、返ってこない。
村の子どもたちは、僕を見ると走って逃げた。
「……近づくなって言われてるから」
そう、小さな声で言われたこともある。
理由は、誰も説明しない。
ただ――禁忌の森。
その言葉だけが、すべてを正当化していた。
父さんは仕事を失い、家にいる時間が増えた。
母さんは、日に日に口数が減っていった。
食卓は、重かった。
ある夜、父さんが言った。
「……アガト。しばらく、裏の小屋で過ごしてくれ」
「……どうして?」
「村の目が、厳しい」
それだけだった。
裏の小屋は、道具置き場だ。
雨漏りもするし、冬はひどく冷える。
それでも――拒否できなかった。
翌日から、僕は小屋で眠るようになった。
食事は、最低限。
会話は、ほとんどない。
僕が小屋で住むようになり、
両親の表情が、どこか安心したように見えた。
――僕が、離れているから。
理解してしまった瞬間、胸が痛んだ。
それでも――。
◆
夜になると、アガトは村の外れへ向かった。
村の周囲には小型魔族が現れる。
定期的に、ギルドへ討伐依頼も出されている。
禁忌の森は、さらに強力な魔族が出るため、立ち入りを禁じられている場所だった。
誰にも見られないように。
誰にも知られないように。
道具小屋の古びた剣を振り、魔法を使い、魔物を倒す。
村を、守る。
英雄みたいに。
でも――朝になっても、何も変わらない。
感謝はない。
理解もない。
ただ、静かな排除だけが、続いていく。
小屋の中で、僕は古びた本を見つめながら思った。
――それでも、いい。
誰かが救われているなら。
それで、いい。
そう思わないと、
心が、壊れてしまいそうだったから。
この頃からだ。
僕が、
「英雄になる」という言葉に、
すがりつくようになったのは。




