第1章 禁忌の森⑥
禁忌の森から戻って、三日が過ぎていた。
村は、静かだった。
いや、正確には――音が避けていた。
アガトが道を歩くと、
話し声が途切れる。
笑い声が消える。
視線だけが、残る。
それは怒りでも、恐怖でもない。
(……こんな、はずじゃ)
胸の奥が、重く沈む。
そのとき――
井戸のそばに、見慣れた姿を見つけた。
「……リィナ」
呼びかけると、彼女の肩が、わずかに跳ねた。
振り返ったリィナは、
以前と同じ服、同じ顔。
けれど――目だけが、違っていた。
「……何?」
声は、冷えていた。
「お父さんの病状はどう?」
「うん、よくなってきたよ。」
「そっか、よかった!」
数日ぶりだ。
ほんの数日前までは、
隣にいるのが当たり前だったのに。遠い。
リィナは、アガトをまっすぐ見た。
そして、すぐに――視線を逸らした。
「……近づかないで」
「え……?」
言葉が、胸に落ちる。
「その……あなたのそばにいると気持ち悪いの。」
はっきりと、言われた。
(……また、だ)
アガトの中で、理解が追いつく前に、
心だけが傷ついていく。
「僕、何かしたかな?」
必死に、声を絞り出す。
「森に入ったことなら……謝る。
でも、僕は――」
「違う!」
リィナの声が、少し強くなった。
「そういうことじゃない……!」
拳を握りしめ、
それでも彼女は、目を合わせない。
「……」
アガトは、何も言えなかった。
(……リィナまで他の村の人たちと同じだ)
「……前みたいに、話せないのか?」
少し強く言った。
小さな、願いだった。
一緒に笑って、
一緒に歩いて、
それだけでよかった。
リィナは、深く息を吸ってから、
はっきりと言った。
「無理」
一言で、終わった。
「……これ以上、関わりたくない」
刃物のような言葉だった。
「お願い。
もう、話しかけないで」
そう言って、リィナは背を向ける。
去っていく背中を、
アガトは追えなかった。
追えば、もっと嫌われる。
それが、わかってしまったから。
井戸の水が、静かに揺れている。
映った自分の顔は、
見慣れているのに、どこか他人のようだった。
(……一緒にいたかっただけなのに)
それだけだった。
正しさも、勇気も、
この村では――必要なかった。
アガトは、誰にも見られないように、
ゆっくりと家へ戻った。
背中に残るのは、
怒号でも、罵倒でもない。
ただ、拒絶の沈黙だけだった。




