表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: おでこ
第5章 蠕蛇の迷宮編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/50

第5章 蠕蛇の迷宮編⑫


戦場は、崩壊していた。


絶叫が響き渡り、肉が裂け、骨が砕ける音が次々と鳴り響く。《原初喰らいの蛇王》の尾が横薙ぎに振るわれ、前衛の三人がまとめて吹き飛ばされた。


「――がっ……!」


壁に叩きつけられた団員の身体が、地面に崩れ落ちる。動かない。もう、息をしていない。


「前衛……全滅……!」


誰かの叫び。後衛が絶望に染まった声で告げる。副団長が、血を流しながらも立ち上がろうとするが――蛇王の牙が、容赦なく襲いかかった。


「副……団長っ……!」


シエラの声が、裂けた。


だが、間に合わない。

治癒魔法も、防御結界も、何もかもが間に合わない。


《原初喰らいの蛇王》は無慈悲に、次々と団員を喰らい尽くしていく。抵抗することすらできず、仲間が消えていく。


「……うそ、でしょ……」


シエラは、立ち尽くしていた。


目の前で、たった今まで一緒に戦っていた者たちが、次々と死んでいく。守れなかった。助けられなかった。何もできなかった。


(また――)


胸の奥で、何かが音を立てて崩れていく。


(……また、失った)


震える手で杖を握りしめても、力が入らない。詠唱しようとしても、声が喉から出ない。


視界の端で、残った団員が三人。ボロボロになりながらも、なんとか息をしている。副団長も、辛うじて生きていた。


だが、他は――全員、死んだ。


「……団、長……」


マルクスの声が、震えていた。


シエラはゆっくりと顔を上げる。その目には、もう何も映っていなかった。冷静さ。理性。合理性。そのすべてが、崩壊寸前だった。



「……撤退します」


シエラの声が、戦場に落ちた。


低く、平坦で、感情の抜けた声音。それは、もう正気を保つギリギリの一線に立っている者の声だった。


「これ以上は、全滅を意味します」

「……生存者を、連れて帰ります」


誰も、反論できなかった。


マルクスが、歯を食いしばる。副団長が血を吐きながらも頷く。生き残った三人の団員が、震える足で立ち上がる。


「――転移魔法結界を構築します」


シエラは杖を掲げ、詠唱を始める。

転移魔法は強力だが、完全に構築するには時間が必要だ。


「――くっ……!」


シエラが歯を食いしばり、術式を練り上げる。魔力を限界まで引き絞り、転移魔法陣を展開させていく。


だが、その間にも――《原初喰らいの蛇王》が、ゆっくりと迫ってくる。


「時間が……足りない……!」


副団長が叫ぶ。


その時だった。


「……っ……」


床に伏せていたはずのアガトが、ゆっくりと立ち上がった。


剣を握る手は震え、全身から血を滴らせながらも――その瞳だけは、まだ折れていなかった。


「……お前、何を……!」


マルクスが驚愕の声を上げる。


「……時間、稼ぎます」


アガトは、蛇王の前に立つ。


もう、勝つつもりはない。ただ――数秒でも、一瞬でも、仲間が脱出する時間を作るために。


「――《斬閃・神速剣舞ヴェロキタス・ファルクス》!!」


剣が、光の軌跡を描く。


蛇王の巨体に傷は入らない。だが、確実に――注意を引きつけた。


《原初喰らいの蛇王》が、獰猛な眼差しでアガトを見据える。


「――マルクス!残った団員を連れて先に結界内へ!」


「早く! アガトさんは私が連れて帰ります」


シエラの叫び。


「了解。アガトのこと頼むで、団長!」


残った団員をマルクスが持ち上げ、転移魔法陣の中心へ駆け込む。

副団長も、傷だらけの身体を引きずりながら移動する。


「《帰還招来・転位門リターン・ゲート》……!」


シエラの声が響き、転移陣が強く輝き始める。


一人、また一人と、光に包まれて消えていく。そして最後に、マルクスが転移陣に足を踏み入れた。


「……アガト、お前……!」


マルクスが振り返る。


だが、その瞬間――蛇王の尾がアガトを打ち据えた。


「――がっ……!」


身体が吹き飛び、壁に激突する。剣が手から零れ落ちる。もう、立ち上がる力も残っていなかった。


「――《氷結解放・絶対零度アブソリュート・ゼロ》!!」


裂けるような叫びと共に、マルクスが最後の力を振り絞った。


足元から凍気が爆発的に広がり、《原初喰らいの蛇王》の巨体を凍りつかせる。不完全な氷結。だが、ほんの数秒――動きを止めるには、十分だった。


「……必ず……生きろや……」


マルクスの声は、アガトには届かないまま、光の中へ消えた。



転移陣の光は、まだ輝きを放っている。


戦場に残されたのは、《原初喰らいの蛇王》と――ボロボロに傷ついたアガトとシエラだけ。


アガトは、壁に寄りかかったまま、動けなかった。


氷結は、すでに軋み始めている。蛇王が動き出すまで、もう時間はない。


(……助かった、のか)


かすかに、そう思った。

仲間は、無事に逃げられた。それだけでも――良かったと。


氷が崩れる音が、響く。


《原初喰らいの蛇王》が、ゆっくりと動き出そうとしている。

アガトは、落ちた剣を拾おうとしたが――もう、指が動かなかった。


それでも。


「……まだ……」


なんとか、前を向く。


立つことはできない。剣も握れない。


だが――諦めるわけにはいかなかった。


(……生きたい)


それだけが、胸の奥に残っていた。


蛇王の氷結が、ゆっくりと崩れる。



――その時だった。


「……アガト」


声が、聞こえた。

アガトは、ゆっくりと顔を上げる。


そこには――

シエラが、立っていた。


「……団長……?」

救いが来たと、聖女、女神が手を差し伸べてくれたと感じた。


だが、シエラの瞳には――何か、決意に似たものが宿っていた。



シエラは、アガトだけを見ていた。

その表情は――もう、壊れかけていた。



シエラは、静かに語り始める。


清廉の騎士団は破れ、シエラの目的も打ち砕かれた。

多くの犠牲が出て絶望の中シエラが何かを語りだす。

次回もお楽しみに!

よろしければブックマークの登録/評価よろしくお願いします^^


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ