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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第5章 蠕蛇の迷宮編

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第5章 蠕蛇の迷宮編⑧


「まずは、作戦を確認しましょう」


シエラの声が、張り詰めた空気を切り裂いた。


全員が歩みを止め、円を作る。

アガトも、無言でその中に加わった。


(……決戦、か)


胸の奥は、まだ整理しきれていない。


嫌われているという事実。

シエラに向けてしまう、複雑な想い。

そして、マルクスへの拭いきれない疑念。


すべてが、渦のように絡み合っている。


それでも――


(……それでも)


アガトは、静かに拳を握った。


(……俺は、守る)


嫌われていようが、

疎外されていようが、

それだけは、変えられない。


人を守ること。

それが、今の自分の――存在意義だ。


(……団長や副団長が、必要としてくれる限り)


(……俺は、ここにいる)


理由が何であれ、

今は、それでよかった。



「基本方針は――前回の超大型魔族戦と、同じです」


シエラの言葉に、何人かが小さく頷く。


あの戦い。

圧倒的な力を持つ魔族に対し、

連携と火力で挑んだ。


「ただし」


その一言で、空気が引き締まる。


「前回は、失敗しました」


誰も、否定しない。


「連携詠唱は成立しましたが、

 精度も、威力も、足りなかった」


「決定打には、ならなかった」


事実だった。


「だからこそ――

 私たちは、そこから修正を重ねてきました」


シエラの視線が、後衛へ向く。


「詠唱構文の再設計」

「魔力配分の最適化」

「着弾誤差の修正」


「すべて、前回の失敗を前提にしています」


後衛の騎士たちが、静かに頷いた。


「精度も、威力も――

 前回とは、比べものになりません」


そして、決定的な違い。


「さらに今回は――

 蛇王は、爆破無効ではありません」


その言葉に、場の空気が変わる。


「必ず、攻撃は通ります」


断言だった。


「前衛は、時間稼ぎと拘束」

「中衛――私が、回復と戦況管理」

「後衛は、連携詠唱による超大型魔法」


「一撃で――

 跡形もなく消し飛ばします」



「前衛の役割は、三分や」


マルクスが、口を開く。


「後衛が詠唱を終えるまで、

 蛇王の動きを止め続ける」


「倒そうとするな」

「生き残ることを最優先にせえ」


前衛の騎士たちが、力強く頷く。


「蛇王は、異常な再生能力を持っています」


シエラが続ける。


「何度斬っても、焼いても、

 すぐに元に戻る」


「だから――

 倒す必要はありません」


「止めるだけで、いい」


(……止める)


アガトは、胸の中で反芻する。


倒すのではなく、止める。


(……それなら、できる)


自分の役割は、はっきりしていた。



「あと~、1点だけ共有しとく」


マルクスが、肩をすくめる。


「さっき使った《氷結解放・絶対零度》は、

 もう使えへん」


「二発目は、無理や」


空間ごと凍らせる代償は、重い。


「次に無理したら、

 どうなるかは……分からん」


冗談めいた口調だが、誰も笑わない。


「せやから今回は――

 この作戦一本や」


切り札は、もうない。


あるのは――

積み重ねてきた連携と、火力だけ。


「……それで、十分です」


シエラが、静かに言った。




短い休憩が、与えられた。


最下層へ向かう前、最後の調整。


後衛の騎士たちは、その場に腰を下ろす。


詠唱は、この段階では行わない。


対象が存在しない状態での詠唱は、

精度を著しく欠く。


それは、全員が理解していた。


今やるべきことは――


「魔力を、限界まで引き上げる」


後衛たちは、呼吸を整え、

体内の魔力循環を加速させる。


魔力炉が、軋む。


額に、汗が滲む。


「ここで、溜め切る」


「突入した瞬間から、

 詠唱に入れるように」


「それでも――

 三分は、かかる」


マルクスの言葉が、現実を突きつける。


削れない時間。


「だからこそ」

シエラが、静かに告げる。


「前衛が、止める」

「私が、繋ぐ」


「そして――

 溜めたすべてを、ぶつける」


後衛の魔力は、

今この瞬間、極限まで高められていた。


あとは――

撃つだけだ。



「……質問はありますか」


シエラの問いに、誰も答えない。


やるべきことは、決まっている。


「では――」


「決戦になります」


「全員、生きて帰るために」

「それだけを、忘れないでください」


頷きが、連なる。


アガトも、静かに頷いた。


(……生きて、帰る)


(……守り抜く)


それだけで、十分だった。



準備が終わり、全員が立ち上がる。


「……行くで」


マルクスの声。


シエラが、先頭に立つ。


「迷宮の奥へ――進みます」


階段を降りる。


一歩、また一歩。


やがて、巨大な扉が姿を現す。


蛇の紋様が刻まれた、禍々しい扉。


「……あれが」

「最下層への、入口です」


シエラが、扉に手をかける。


重い音と共に、扉が開いた。


その先――


広大な空間。


そして、中央に鎮座する存在。


原初喰らいの蛇王(アウルム=ナグア)》。


圧倒的な存在感に、誰もが息をのむ。


シエラが、一歩前へ出る。


その瞳には――

静かな、復讐の炎。


「……始めましょう」


冷静な声。


これは――

ただの討伐ではない。


復讐が、今。


本当に、始まろうとしていた。

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