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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第5章 蠕蛇の迷宮編

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第5章 蠕蛇の迷宮編⑦

黒装の執行者エクスキューター》は、静かに構え直した。


再生を終えた装甲は、先ほどよりも分厚い。


まるで――

次は、確実に仕留めるとでも言うように。


赤黒い魔力が、足元から立ち上る。

空気が、軋んだ。


「……来るで」


マルクスが、低く呟く。


次の瞬間――


爆音と共に、床が陥没する。


黒装の執行者エクスキューター》が、跳んだ。


いや――


"突進"した。


地面を蹴るたび、床が砕け、

魔力の衝撃波が走る。


「散開や!」


マルクスの声が響く。


だが――


速い。


あまりにも速い。


衝撃波が、後衛を薙ぎ払った。


「ぐっ……!」


盾ごと、騎士が吹き飛ばされる。


壁に叩きつけられ、

鎧が砕け、

意識を失う。


陣形が、悲鳴を上げた。


――速い。

――重い。

――そして、止まらない。


「このままじゃ……!」


誰かの声が、恐怖に濡れる。


前衛が次々と倒れ、

後衛が露出する。


このままでは――


全滅する。



その時。


マルクスが、一歩前に出た。

刀を握る手に、迷いはない。


視線は、ただ一点――

黒装の執行者エクスキューター》。


「……アガト」


短く、名を呼ぶ。


振り返らない。


それだけで、アガトには――伝わった。


言葉はいらない。


(……副団長が、俺を信じてくれている)

(それが、本当なのかは分からない)


(でも――)


今は、それでいい。


今は、戦うしかない。


アガトは、剣を構え直す。


呼吸を整え、踏み出す覚悟を決めた。


マルクスが、小太刀を二本とも抜く。


一本は右手に。

もう一本は――口に咥えた。


「見せたるわ」


低く、呟く。


「――《氷結解放・絶対零度アブソリュート・ゼロ》」


小太刀から、冷気が溢れ出す。


空気が、凍りつく。


呼吸すら、白く凍る。


次の瞬間。


音が、消えた。


風が、止まった。


魔力すらも――凍りつく。


世界が、静止する。


そして――


黒装の執行者エクスキューター》の全身が、一瞬で氷結した。


関節が固まり、

装甲の内側に至るまで、

完全に静止する。


赤黒い魔力すら、

氷に閉じ込められている。


「今やで!」


マルクスの声が響く。


アガトは、迷わなかった。


全力で、踏み込む。


狙うのは、一点。


装甲の継ぎ目。

心臓部にあたる場所。


(……守るために)


(……生きるために)


剣に、全ての力を込める。


「――終わらせます!」


剣が、一直線に振り抜かれる。


刃が、装甲を貫く。


マルクスの氷と、

アガトの刃が――重なった。


次の瞬間。


凍結した装甲が、悲鳴のような音を立てて砕け散る。


氷の破片が、宙を舞う。


魔力が、爆ぜた。


黒装の執行者エクスキューター》の身体は、粉砕され、霧のように霧散した。



沈黙。


戦場に、静寂が戻る。


やがて。


「……討伐、完了です」

アガトの声が、静かに響いた。


剣を下ろし、

膝をつく。


呼吸が、荒い。


身体が、重い。


でも――


(……守れた)


仲間を、守れた。


それだけで、よかった。


「……ようやったな」


マルクスが、肩に手を置く。


その手の温もりが、

今は――嬉しかった。


たとえそれが、

何か理由があってのことだとしても。


今は、信じたかった。



すぐに、回復が始まった。


負傷した団員へ、治癒魔法が次々とかけられる。


シエラが、倒れている騎士たちを次々と治療していく。


光が走り、傷が塞がる。


その光景を見ながら、

アガトは自分の傷を確認していた。


肩と腕に、深い裂傷。


だが、致命傷ではない。


「アガトも治療が必要や」


マルクスが、シエラに声をかける。


「……ええ」


シエラが、アガトの前に立つ。


「お願いします」


「……はい」


アガトが頷いた、その瞬間、

温かな光が身体を包む。


傷が塞がり、痛みが、引いていく。


魔力が、身体に染み渡る。


だが――


「……っ」


シエラの膝が、ガクンと崩れた。


前回、超大型魔族討伐の時と同じく、

シエラは、立ち眩みを起こした。


「団長!」


マルクスが、即座に駆け寄る。


アガトも、慌てて支えようとする。


だが、シエラは手で制した。


「……大丈夫、です」


顔色が、明らかに悪い。

額に、冷や汗が浮かんでいる。


周囲の騎士たちも、心配そうに集まってくる。


「団長、休んでください」

「このままじゃ……」


「大丈夫です」


シエラは、そう繰り返す。


「ただの、疲労ですから」


だが――


(……違う)


シエラ自身が、気づいていた。

これは、ただの疲労ではない。


アガトを治癒した時だけ、

この症状が起きる。


前回も、今回も。


立ち眩み。

力が抜ける感覚。

胸の奥の、妙な違和感。


(……また、だわ)


感情がない自分には、

この感覚が何なのか、分からない。


不快、とも違う。

痛み、とも違う。


ただ――

何かが、起きている。


(やはり……アガトの代償が、影響している)


答えは、出ない。



マルクスは、シエラの様子を注視していた。


(……おかしい)


他の団員を治療した時は、何の異変もなかった。


だが――


アガトを治療した時だけ、

シエラは、はっきりと立ち眩みを起こす。


前回も。

そして、今回も。


(……偶然やない)


回数が、示している。


(能力を酷使した影響……?)


(いや、違う……

 俺も、何度も経験した、

 代償を無視した時の副作用と、同じや)


マルクスは、アガトから視線を外さなかった。


「……やっぱりや」


低く、確信を帯びた声。


「キミ――

 スキル契約者やな、アガト」



「団長……」


アガトが、申し訳なさそうに見ている。


「すみません、俺のせいで……」


「いえ」


シエラは、首を横に振る。


「あなたのせいではありません」


「ただ……

 少し、休息を取りましょう」


その言葉に、マルクスが頷く。


「せやな。ここで無理したら、ボス戦で死ぬで」


「わかってます」


シエラは、壁に背を預けた。


「少しだけ……休みます」



休息が始まる。


負傷者の手当て。

装備の点検。

魔力の回復。


誰もが、次の戦いに備える。


しばらくして、シエラが立ち上がる。


顔色は、まだ完全には戻っていない。


だが、その目には力があった。


「……皆さん」


シエラの声が、響く。


全員が、視線を向ける。


「次は――最下層です」


その言葉に、誰もが息をのむ。


ついに、来た。


原初喰らいの蛇王(アウルム=ナグア)》が、待つ場所。


「まずは、作戦を確認しましょう」


シエラが、そう告げる。


全員が、集まる。


アガトも、輪の中に加わった。


決戦が、始まる。

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