第5章 蠕蛇の迷宮編②
第5章 蠕蛇の迷宮編②
蠕蛇の迷宮は、進むほどに形を変えていった。
一階層を越え、二階層、三階層へと降りるにつれ、通路は狭くなり、天井は低くなる。
壁に刻まれた溝も深くなり、蛇が何度も擦り抜けた痕跡のように、幾重にも重なっていた。
「……視界が悪くなってきましたね」
前方を進む騎士たちが小さく話す。
「だが、動きは読みやすい。奇襲さえなければ問題ない」
その言葉どおり、二階層以降に現れる蠕蛇系魔物は数こそ増えたものの、動きは単調だった。
前衛が押さえ、後衛が確実に仕留める。
連携は滑らかで、無駄がない。
次々に魔物は現れ続ける。
「次、右から来ます」
アガトの声に合わせ、マルクスが一歩前へ出る。
「了解や!」
剣閃が走り、魔物が断たれる。
すぐさま回復魔法が飛び、傷は残らない。
――強い。
アガトは、清廉の騎士団の動きを改めて実感していた。
個々の力量も高いが、それ以上に、互いを信頼しきっている。
三階層を突破した時点で、隊列は一度も乱れていなかった。
◆
四階層では、地形が大きく変わった。
床はぬかるみ、足を取られやすい。
天井からは粘液が垂れ、魔物の気配も濃くなる。
「足元に注意して。転倒は致命的よ」
シエラの指示が、即座に全体へ行き渡る。
「はい」
「了解です」
短い返答が次々と返る。
五階層に進む。
ここでも戦闘は起きたが、致命的な場面はなかった。
魔物の動きは予測の範囲内。
被害が出ても、即座に回復が追いつく。
「……ここまで、想定どおりですね」
団員の一人がそう言うと、シエラは低く返事する。
「ええ。今のところは」
それ以上、言葉は続かなかった。
だが、その沈黙が不安を呼ぶことはない。
六階層へと至る階段が見えたとき、隊内にわずかな安堵が広がった。
「もう五階層突破か。早いな」
マルクスが笑い、鎧の継ぎ目を鳴らす。
誰もが、この攻略が“順調”であることを疑っていなかった。
蠕蛇の迷宮は確かに不気味だ。
だが――恐れるほどではない。
少なくとも、この時点では。
五階層へ足を踏み入れても、
迷宮は、何も語らなかった。
それはまるで、
まだ本気を見せる必要はないと、
そう判断しているかのようだった。




