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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第5章 蠕蛇の迷宮編

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第5章 蠕蛇の迷宮編②

第5章 蠕蛇の迷宮編②


蠕蛇の迷宮は、進むほどに形を変えていった。


一階層を越え、二階層、三階層へと降りるにつれ、通路は狭くなり、天井は低くなる。

壁に刻まれた溝も深くなり、蛇が何度も擦り抜けた痕跡のように、幾重にも重なっていた。


「……視界が悪くなってきましたね」


前方を進む騎士たちが小さく話す。


「だが、動きは読みやすい。奇襲さえなければ問題ない」


その言葉どおり、二階層以降に現れる蠕蛇系魔物は数こそ増えたものの、動きは単調だった。

前衛が押さえ、後衛が確実に仕留める。

連携は滑らかで、無駄がない。


次々に魔物は現れ続ける。


「次、右から来ます」


アガトの声に合わせ、マルクスが一歩前へ出る。


「了解や!」


剣閃が走り、魔物が断たれる。

すぐさま回復魔法が飛び、傷は残らない。


――強い。


アガトは、清廉の騎士団の動きを改めて実感していた。

個々の力量も高いが、それ以上に、互いを信頼しきっている。


三階層を突破した時点で、隊列は一度も乱れていなかった。



四階層では、地形が大きく変わった。


床はぬかるみ、足を取られやすい。

天井からは粘液が垂れ、魔物の気配も濃くなる。


「足元に注意して。転倒は致命的よ」


シエラの指示が、即座に全体へ行き渡る。


「はい」


「了解です」


短い返答が次々と返る。


五階層に進む。


ここでも戦闘は起きたが、致命的な場面はなかった。

魔物の動きは予測の範囲内。

被害が出ても、即座に回復が追いつく。


「……ここまで、想定どおりですね」


団員の一人がそう言うと、シエラは低く返事する。


「ええ。今のところは」


それ以上、言葉は続かなかった。

だが、その沈黙が不安を呼ぶことはない。


六階層へと至る階段が見えたとき、隊内にわずかな安堵が広がった。


「もう五階層突破か。早いな」


マルクスが笑い、鎧の継ぎ目を鳴らす。


誰もが、この攻略が“順調”であることを疑っていなかった。


蠕蛇の迷宮は確かに不気味だ。

だが――恐れるほどではない。


少なくとも、この時点では。


五階層へ足を踏み入れても、

迷宮は、何も語らなかった。


それはまるで、

まだ本気を見せる必要はないと、

そう判断しているかのようだった。

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