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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第4章 清廉の騎士団

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第4章 清廉の騎士団⑪


超大型魔族討伐から、三ヶ月が経過していた。


季節はひとつ進み、

清廉の騎士団の日常は、確実に変わっている。


任務の成功率。

被害の少なさ。

判断の速さ。


それらが積み重なった結果――

清廉の騎士団は、

王都公認パーティー序列・第二位に名を連ねていた。


かつての

「堅実だが慎重すぎる騎士団」という評価は、

今では

「安定して難任務をこなす実力派」へと塗り替えられている。


そして――

この結果は、

ある人物の思惑を動かすには、十分すぎた。



王都・冒険者ギルド本部。

最上階、重厚な扉の奥。


窓は閉ざされ、

昼だというのに室内は薄暗い。


向かい合って座るのは、

清廉の騎士団団長・シエラと、

このギルドを束ねる男――ギルド長。


「……久しぶりですね、シエラ殿」


油断のない声。

探るような視線。


「ええ。ですが――

世間話をしに来たわけではありません」


シエラは即座に切り返した。


沈黙。

指先で机を叩く音が、やけに大きく響く。


「単刀直入に言います」


シエラは、ギルド長を真っ直ぐ見据えた。


「あなたには――

多くの貸しがありますね」


空気が、凍る。


「……ほう?」


「過去の不正依頼の揉み消し」

「王都貴族絡みの依頼処理」

「初心者――アガトを陥れようとした件も」

「忘れてはいませんよね?」


淡々と、

だが逃げ道を一つずつ塞ぐように。


ギルド長は、口元を歪めた。


「脅し、ですかな?」


「確認です」


シエラは微笑まない。


「だから――

例のダンジョン討伐依頼を」

「清廉の騎士団宛に、直接出しなさい」


その名を聞いた瞬間、

ギルド長の表情が、明確に変わった。


「……正気ですか」


低く、かすれた声。


「《蠕蛇の迷宮ぜんだのめいきゅう》」

「国家単位で立ち入りが禁止された場所だ」


多くの冒険者が犠牲になり、

幾つものパーティーが帰らなかった。


「討伐など、本来――」


「許されていない」


シエラは、静かに言葉を継ぐ。


「だからこそ」

「ギルドのすべての力を使いなさい」


「仮に依頼を出せても、

 失敗する可能性が――――」


「討伐可能な体制を整え、

 依頼として成立させる」


「……それでも無理なら?」


「その時は、

清廉の騎士団は崩壊するでしょう」


「あなたは、ルミナス王都に欠かせない騎士団ですぞ!」

「それだけは――」


シエラが、遮るように言った。


「ですが、拒否するなら――」


一拍。


「あなたの“貸し”を、

王城に返しても構いません」


完全な、脅迫。


ギルド長は、

考え込むように視線を伏せ、

やがて長く息を吐いた。


「……三ヶ月だ」


「準備期間を三ヶ月」

「その後、依頼を正式に出す」


「――いいえ」


シエラは即答した。


「一ヶ月です」


「そんな、無茶な!」


「言いましたよね?」


静かな声。


「ギルドの“すべて”の力を使いなさいと」


「それと――

先に依頼書を用意してください」

「非公式のものでも構いません」


シエラは立ち上がる。


「では――よろしく」


扉が閉まる。


薄暗い部屋に残されたギルド長は、

小さく、しかし確かな苛立ちを込めて舌打ちした。



それから数日後。


清廉の騎士団本部に、

一通の封書が届いた。


差出人――王都冒険者ギルド。


内容は、ただ一行。


――

《国家特別許可付き討伐依頼》

《対象:蠕蛇の迷宮ぜんだのめいきゅう

――


そして、その日の朝。


全団員に、訓練所への招集がかかった。


ざわめきは、ない。


超大型魔族討伐以来の全体招集。

覚悟だけが、静かに揃っていた。



訓練所。


整列した騎士たちの前に立つのは、

団長・シエラ。


副団長のマルクスは、

いつものように一歩後ろに控えている。


「皆さん、集まってくれてありがとうございます」


穏やかな声。


「本日、ギルドより――

正式な討伐依頼が届きました」


一瞬、空気が張り詰める。


「対象は――

《蠕蛇の迷宮ぜんだのめいきゅう》」


どよめきは、起きない。

ただ、全員が理解していた。


これは――

普通の依頼ではない。


「階層は、全十階層」

「六階層以降、Aランク相当の魔物が出現します」


マルクスが低く補足する。


「最深部――十層目」

「そこにいるのが、ダンジョンボスや」


「名は――

《原初喰らいの蛇王(アウルム=ナグア)》」


再生する肉体。

撒き散らされる猛毒。

長期戦が許されない、最悪の相手。


説明を終え、

シエラは一度、全員を見渡した。


「……正直に言います」


「このダンジョンは、危険です」

「無理に挑む必要はありません」


柔らかな声。


「ですが」


視線が、強くなる。


「今の清廉の騎士団なら――

攻略できると、私は考えています」


そして。


「できることなら」

「皆さんに、ついてきてほしい」


命令ではない。

ただの、願い。


沈黙。


だが、それは長く続かなかった。


「やりましょう!」


「団長が言うなら、行きます!」


「今の俺たちなら――!」


迷いは、なかった。


シエラは、わずかに目を細める。


「……ありがとうございます」


アガトは、黙って立っていた。


三ヶ月前とは違う。


剣を握る感覚も、

戦場を見る目も。


そして――

これから始まるものが、

ただの討伐ではないことを、

彼はまだ知らない。

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