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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第4章 清廉の騎士団

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第4章 清廉の騎士団⑨

清廉の騎士団が王都へ帰還したのは、

超大型魔族討伐から五日後のことだった。


門前には、すでに人だかりができている。


「――戻ったぞ!」


号令とともに、門が開く。


鎧に残る傷跡。

完全には拭えない戦場の気配。


それでも、騎士団は欠けることなく戻ってきた。


「清廉の騎士団だ……」

「本当に、Sランクを討伐したんだ!」


ざわめきが、波のように広がる。


英雄視。

畏怖。

安堵。


様々な感情が混じる中、

騎士団は淡々と屋敷へと入っていった。


――彼らにとって、これは「任務の帰還」でしかない。


そしてアガトにとっても、

胸を張るような凱旋ではなかった。


ただ、遅れずに歩くこと。

邪魔にならないこと。

それだけを意識していた。



数日後。


王城・謁見の間。


玉座の前に立つのは、

清廉の騎士団団長・シエラと、副団長・マルクス。


「――よくぞ成し遂げた」


王の声が、広間に響く。


「未踏破領域に出現した超大型魔族」

「被害が出る前に討ち果たした功、まことに大きい」


形式ばった言葉の後、

侍従が進み出て、褒賞を差し出す。


金貨。

王印付きの勲章。

そして、次なる作戦への正式な信任。


「清廉の騎士団に、感謝と敬意を」


一礼するシエラ。

軽く頭を下げるマルクス。



この一件で――

清廉の騎士団の名声は、また一段階引き上げられた。



その光景を、

アガトは少し離れた位置から眺めていた。


そこに自分の名は呼ばれない。

当然だと、理解している。




それから、しばらく。


騎士団は、忙しくなった。


魔族討伐。

ダンジョン調査。

護衛任務。


難度の高い依頼が、優先的に回ってくる。


そして。


「次の任務、アガトも出すで」

「前線な」


そんな言葉が、珍しくなくなっていった。


初めて聞いたとき、

胸の奥が、わずかに熱を持ったのを覚えている。


気づけば、

アガトは複数回のクエストに連続して参加していた。


特別扱いではない。

だが、外されることもない。


前線で戦い、

後衛を支え、

時に、無理の利く駒として使われる。


雑用ばかりだった頃と、

本質は変わらない。


それでも――

「戦場に立っている」という事実だけは、違った。


「なんで、こいつと一緒なんだよ」

「足引っ張るなよ」


誰かが、そう漏らす。

依然として、団員からの評価は低い。


それでも、アガトは気にしなかった。


――慣れている。


存在を否定されることも、

期待されないことも。


ただ、与えられた役割をこなすだけだ。


だが、ふとした瞬間、

あの言葉が脳裏をよぎる。


『……救われたで。ありがとな』


あれは、戦いの後。

誰にも聞かれない場所で、

マルクスが、ぽつりと零した言葉だった。


評価でも、命令でもない。

ただの感謝。


それが、胸の奥に深く残っていた。


――人を救う。


それは、

喝采を浴びることでも、

名を刻まれることでもない。


誰かが、ここで命を落とさずにすむこと。

誰かが、次の朝を迎えられること。

誰かが、「まだ生きている」と思えること。


ああ、そうだ。

自分がなりたかった英雄は――

きっと、こういう存在だった。


あの一言で、

アガトは確かに報われた。


だからこそ、思う。


もっと強くなろう。

もっと前に出よう。

もっと多くを守ろう。


剣を握る手に、

迷いはなかった。


(……英雄になる)


(誰かに必要とされるためじゃない)


(誰かを救える自分でいるために)


アガトは静かに息を整え、

次の戦場を見据えた。




そしてその様子を、


シエラは、

何も言わずに見ていた。


ある計画は、

まだ表には出ない。


だが――

準備は、すでに始まっている。


静かに。

確実に。

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