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嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第4章 清廉の騎士団

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第4章 清廉の騎士団⑧


戦いが終わった谷には、

どこか――不自然な静けさが残っていた。


氷の破片と、砕けた大地。

超大型魔族の残骸は、完全に消滅してはいない。


「……処理は、ここでは無理やな」


マルクスが、辺りを見渡して言った。


「近隣の街に連絡や」

「専門の解体班を呼ばなあかん」


この規模の魔物を、現地でどうこうできる状態ではない。


討伐は完了した。

だが、仕事はまだ終わっていなかった。


「皆さん、こちらへ」


シエラの声に、団員が集まる。


彼女は淡々と、治癒を続けていく。


「《聖域治癒・白環サンクトゥム・レメディ》」


白い光が、次々と騎士たちを包む。


裂けた肉。

砕けた骨。

内臓へ走った衝撃。


それらが、あるべき形へと戻されていく。


「……助かります」


「……命拾いしました」


感謝の言葉が、静かに零れる。


そして。

アガトの順番になる。


白光が、アガトを包む。


深い内傷が、時間をかけて修復されていく。


――その直後。


「……っ」


シエラの身体が、わずかに揺れた。


「団長?」


団員が、声をかける。


彼女は、すぐに姿勢を正す。


「……大丈夫です」

「少し、立ち眩みがしただけ」


そう言って、柔らかく微笑んだ。


だが――

その一瞬を、見逃さなかった者がいた。


マルクスだ。


細い目が、わずかに鋭くなる。


(……今のは)


だが、何も言わない。


治癒が終わり、

全員が動ける状態になると、


騎士団は、すぐに帰還準備へ移った。




馬を呼び戻し、

装備を整え、

簡易的な陣形を組む。


アガトも、例外ではない。


「おい、新入り」

「包帯、回収しとけ」


「馬の世話、先や」


「休憩? 後にしろ」


――いつも通りだった。


英雄扱いなど、されない。

感謝も、称賛も、ほとんどない。


戦場で何があったかなど、

もう“終わった話”だ。


アガトは、黙って動いた。


身体は、まだ重い。


だが――

それでも、不思議と心は静かだった。


(……生きてる)


それだけで、十分だった。


帰還初日の夜。


簡易拠点での野営。


焚き火の周りでは、

疲れ切った騎士たちが眠りについていた。


アガトが、

装備の手入れを終えたところで、


「ちょい、ええか」


声をかけられた。


振り返ると、マルクスが立っていた。


「……副団長」


「楽にせえ」

「今は仕事ちゃう」


焚き火の光が、

彼の顔に影を落とす。


「最後まで、諦めへんかったやろ」

「あれがなかったら、全滅や」


アガトは、言葉を失った。


「団長が目ぇ付けるだけあるわ」

「正直、俺も助けられた」


少し、間を置いて。


「……救われたで。ありがとな」


軽い口調だったが、

そこに嘘はなかった。


「……い、いえ……」


それしか、言えなかった。


マルクスは、満足そうに頷く。


「ほな、休め」

「明日も、こき使われるやろしな」


その背中を見送りながら、

アガトは胸の奥が、わずかに温かくなるのを感じていた。




同じ夜。

団長テント。


灯りは、最小限に落とされている。


「……どう思いますか」


沈黙を切り裂くように、シエラが口を開いた。


「やっぱり、普通やないですね」


マルクスは腕を組み、低く息を吐く。


「感覚疎外の中で、あれや」

「しかも、結界を壊す一撃……」


一拍、間。


「……あいつ、スキル契約者の可能性ありますよ」


シエラは、かすかに微笑み、否定はしなかった。


その瞳には、

確信とも、期待とも取れる光が宿っている。


「ええ」

「だからこそ――」


言葉は、そこで止められた。


ゆっくりと、シエラの視線がマルクスを捉える。


「報告、ありがとうございます」

「今日は、もう下がってください」


「……了解ですわ」


それ以上は踏み込まず、マルクスは踵を返した。

テントの幕がめくられ、夜の冷気が一瞬だけ流れ込む。


――ぱさり。


「最後に一言だけ、ええですか」


足を止め、振り返らずに言う。


「俺は、あいつのこと……信用してますよ」


「ええ」


シエラは、短く、しかし柔らかく応じた。


再び、静寂。


シエラは揺れる灯を見つめたまま、

誰に聞かせるでもなく、唇を動かす。


「……次の計画に進みましょう」


その声は独白に近く、

それでもどこか、計算された響きを帯びていた。


焚き火が、静かに爆ぜる。


アガトの知らないところで、

物語は、確実に次の段階へと進み始めていた。

読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

初めてブックマークがついていて、嬉しくてひっくり返りそうになりました……!

まだまだ未熟な作品ですが、一話一話大切に書いていきます。応援よろしくお願いします!

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