表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第4章 清廉の騎士団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/43

第4章 清廉の騎士団③


それからの三日間。


アガトにとっては、

異物として過ごす三日間だった。


「おい、新入り」

「水汲み、まだか?」


「剣の手入れ終わったら、次は馬小屋だ」

「休憩? 後だ」


雑用。

雑用。

雑用。


訓練には、参加させてもらえない。


夜になっても、仕事は終わらない。

布団に入る頃には、指先が震えていた。


(……山の方が、楽だったな)


魔物は、敵だった。

だが、人ほど――

曖昧で、理不尽ではなかった。


「下っ端は黙って動け」

「命令を疑うな」


それが、ここでのルールだった。


それでも。


朝になると、アガトは立ち上がった。


剣を整え、

装備を点検し、

黙って仕事をこなす。


誰も感謝しない。

誰も労わらない。


当然だ、と言わんばかりに。


(……慣れてる)


そう思う自分に、

ほんの少し、嫌悪した。



馬小屋は、昼でも薄暗かった。

干し草の匂いと、獣の体温がこもっている。


アガトは黙々と、糞を掻き集めていた。

熊手を動かし、藁を入れ替え、水桶を洗う。


誰も来ない。

呼ばれることもない。


――だから、ここに回された。


(……僕だって)


ふと、動きが止まる。

握った熊手の柄が、きしりと鳴った。


("俺"だって、戦える)


壁に並ぶ木板が目に入る。

剣を振る感覚が、指先に蘇る。


アガトは、拳を握りしめた。


――ドン。


壁を叩く鈍い音。

馬が一頭、驚いて鼻を鳴らす。


歯を食いしばり、もう一度。


――ドン。


「……っ」


声は出さない。

出せば、何かが壊れてしまいそうだった。


(このままでいいのか)


拳が震える。

痛みより、熱が残る。


アガトは額を壁に預け、深く息を吐いた。


「……まだだ」


誰に言うでもなく、呟く。


今は、耐える。

剣を振る時を、待つ。


馬小屋の静けさの中で、

その決意だけが、確かに残っていた。



出発前日の夜。


訓練所に、全団員が集められた。

空気は、張り詰めている。


「――最終作戦を共有する」


シエラの声が、静かに響いた。


壁に掲げられた地図。

その中央に、赤い印が一つ。


「討伐対象は、超大型魔族」

「正面からの殲滅は、現実的ではありません」


ざわめきが起きかけるが、

彼女の一言で、すぐに静まる。


「そこで、作戦は三段構えです」


指先が、地図をなぞる。


「前衛部隊が、魔物の注意を引きつけます」

「完全な討伐は狙いません。生存と時間稼ぎを最優先」


前に出る騎士たちの表情が、引き締まる。


「中衛は、私一人」


一瞬、どよめきが走る。


「治癒・結界・魔力供給を、私が一手に担います」

「戦線を維持できるかどうかは、ここにかかっています」


誰も異を唱えない。

それが、団長という存在だった。


「そして後衛」


シエラの指が、地図の外縁を指す。


「複数人での連携詠唱による、超大型魔法を準備します」

「そして、対象を葬る。」


静かな言葉だったが、

重みがあった。


その作戦に、誰も反論しなかった。


「以上です」


シエラは、ゆっくりと全員を見渡す。


「全員で、生きて帰りましょう」



その後、編成が告げられた。


「討伐部隊は、騎士団全員で出る」


少しざわめいた。


「前衛部隊、中央突破担当――」


名が呼ばれていく。


そして。


「……アガト」


一瞬、空気が止まった。


「前衛部隊に編入する」


ざわり、と視線が動く。


「正気か?」

「あいつも行くのか?」


小声の非難。


だが、シエラは静かに続けた。


「彼の役割は、前線維持です」

「無理な突出はさせません」


その声は、穏やかだった。


だが――

拒否を許さない響きがあった。


「命令です」


それで、すべてが決まった。


部屋に戻る途中。


すれ違った団員が、低く言った。


「……前に出たら、邪魔だからな」


別の声。


「対象は手強い、

 “盾”は多い方がいいからな」


雑音が聞こえてくる。


だが、アガトは歩みを止めなかった。


(……前衛か)


山で生きてきた感覚が、静かに目を覚ます。


怖くはない。


ただ――

ここで倒れれば、

それは“正当な結果”として処理される。


そういう場所だ。



その夜。


装備を整えていると、扉がノックされた。


「入っても、よろしいですか?」


シエラだった。


「明日から、大変になりますね」


柔らかな声。


「……はい」


「無理は、なさらないでください」

「あなたは、まだ――」


言葉を、選んでいる。


「――大切な戦力です」


その一言が、胸に落ちた。


(……大切)


それは、

五年ぶりに向けられた言葉だった。


「……俺、頑張ります」


思わず、そう口にしていた。


シエラは、微笑んだ。


「ええ」

「一緒に、生きて帰りましょう」


その笑顔を見て。


アガトは、思った。


(……この人のためなら)


理由は、分からない。


だが――

剣を振るう意味が、

確かに、ここにある気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ