第4章 清廉の騎士団②
第4章 清廉の騎士団②
Aランク冒険者たちの帰還報告から、半日も経たないうちだった。
清廉の騎士団の屋敷に、正式な使者が訪れた。
封蝋付きの書状。
冒険者ギルド名義。
それを受け取った瞬間、
屋敷の空気が、目に見えて引き締まった。
「……来ましたか」
シエラは、短くそう呟いた。
本件に関し、緊急会議が開かれた。
会議室に集められたのは、清廉の騎士団の上位層のみ。
副団長、分隊長、戦術参謀。
数時間後。
全団員が、訓練所に集められた。
発言権はない。
ただ、聞くだけ。
副団長のマルクスが前に立つ。
細めた目のまま、ひらりと手を振った。
「ほな、静かにしてなー」
どこか気の抜けた声。
だが、その一言で場が整う。
「さっき帰ってきた遠征隊からの情報や」
「順番に話すで」
一拍置いて、ゆっくり続けた。
「観測対象は――単体の魔物や」
一瞬、空気が緩む。
「……ま、そう思うわな」
「俺も報告書見たとき、“楽そうやん”って思たし」
くく、と喉を鳴らす。
「群れ行動は確認されてへん」
「せやけどな、接敵して数分で前線は崩壊や」
空気が、はっきりと変わる。
マルクスは軽く咳払いをした。
「原因は、はっきりしとる」
細い目が、わずかに開く。
「こいつな」
「近づいた瞬間から、"人の感覚"を狂わせよる」
団員たちの視線が集まる。
「足場が不安定に感じる」
「距離感がズレる」
「さっきまで見えとった仲間を、急に見失う」
「派手な魔法やない」
「せやけど、確実に効いてくる」
肩をすくめる。
「陣形組もうとしても、足並みが合わん」
「合図出しても、噛み合わん」
「気ぃ付いた時には――もうバラバラや」
一拍。
「ほんで一番アカンのがな」
声が、少しだけ低くなる。
「逃げよう思た時には、進む方向が分からん」
ざわ、と空気が揺れた。
「前に進んでるつもりで、同じ場所を回っとる」
「横に避けたはずが、敵に近づいとる」
「せやからや」
指を鳴らす。
「要するに――」
「戦いが始まった時点で、もう相手の土俵や」
「“まともに戦わせてくれへん相手”っちゅうことや」
「遠征隊は帰還魔法で、なんとか逃げ切れた」
「せやけど、次も同じ手が使える保証はない」
沈黙。
「結論な」
マルクスは、わずかに真顔になる。
「こいつは放っとかれへん」
「単体やけど、複数騎士隊分の動きを丸ごと潰す能力を持っとる」
「……ほんま、性格悪い魔物やで」
一呼吸。
「ギルドの判断は一つや」
「本件は、魔物討伐依頼」
「難易度は――Sランク相当や」
細い目の奥が、鋭くなる。
「冗談ちゃうで」
「気合とか根性で、どうにかなる相手やない」
「生きて帰るつもりのある奴だけ――」
「この先の話、ちゃんと聞いとき」
話し手が、シエラに変わる。
「詳細な生態情報は、まだ不足しています」
静かだが、芯の通った声。
「敵は、超大型の魔族」
「制圧能力に加え、純粋な膂力も確認されています」
団員たちの表情が引き締まる。
「討伐依頼は、正式に清廉の騎士団への指名」
「期限はありませんが……放置できる状況ではありません」
全員の視線が、自然と彼女へ向く。
「出発は――三日後とします」
シエラは、まっすぐ前を見る。
「私が、誰一人欠けさせません」
そして、はっきりと言い切った。
「皆、私についてきなさい」
『『 はっ! 』』
シエラの言葉に呼応するように、
騎士団の空気が、一つに束ねられた。




