第4章 清廉の騎士団①
朝の王都は、静かだった。
石畳に差し込む朝日が白く反射し、
王城の高い壁が影を落としている。
アガトは、その門の前に立っていた。
(……王城、か)
村を追われ、
山で生きていた頃には、想像もしなかった場所だ。
鎧に身を包んだ衛兵たちが視線を向けてくる。
その目に、好意はない。
だが、露骨な敵意もない。
――慣れてきた。
そう思える自分が、少しだけ怖かった。
「お待ちしておりました。アガトさん」
そこにシエラがいた。
「歓迎します。
ようこそ、"清廉の騎士団"へ」
朝の光を受けた白い装束。
柔らかく整えられた銀髪。
その姿は、城の景色に溶け込むようで――
やはり、目を引く。
「今から、清廉の騎士団の屋敷へ向かいます」
「正式な挨拶と、これからの生活についてお話ししましょう」
「……はい」
それだけで、胸の奥が少し軽くなる。
シエラは微笑み、歩き出した。
「緊張しなくて大丈夫ですよ」
「皆、少し……不器用なだけですから」
その言葉が、
どこまで本当なのかは分からない。
だが、否定する理由もなかった。
清廉の騎士団の屋敷は、王城に隣接する区画にあった。
堅牢な石造り。
無駄のない造形。
装飾よりも、実用性を重んじた建物。
門をくぐった瞬間――
空気が変わった。
視線。
露骨ではない。
だが、確実にこちらを測る目。
「……あれが?」
「噂の、例の……」
小さな声。
聞こえないふりをしても、耳に残る。
(……いつもの目だ)
山を下りてから、
何度も向けられてきた視線。
好奇。
警戒。
そして――嫌悪。
シエラだけが、違う。
そして、全団員が訓練所に集められた。
「皆さん」
「こちらが、アガトさんです」
団員たちの視線が、いっせいに集まる。
誰も笑わない。
誰も歓迎しない。
「……よろしくお願いします」
頭を下げると、
返ってきたのは、まばらな頷きだけだった。
「では、まず基本から説明しますね」
屋敷の一室。
整然と並んだ机と椅子。
シエラは、穏やかな声で語り始めた。
「清廉の騎士団は、王都直属の騎士団です」
「規律と信頼を、何より重視します」
任務中の行動規範。
勝手な独断は禁止。
報告・連絡・相談の徹底。
「屋敷での生活も、騎士団の一部です」
「夜間の外出は原則禁止」
「武器の整備は、各自の責任で」
淡々とした説明。
だが、その一つ一つが――
“ここは居場所ではない”と、静かに告げているようだった。
屋敷内の説明を受けている際に、
すれ違う団員にぼそりと呟く。
「……運で生き残れただけだろ」
別の声が、重なる。
「シエラ様の顔がなきゃ、今ここに立ってねぇよ」
聞こえないふりをした。
慣れている。
そう言い聞かせる。
だが。
(……それでも)
シエラが、こちらを一度だけ見た。
視線が合い、
わずかに、頷く。
それだけで――
胸の奥が、静かになる。
(……大丈夫だ)
理由はない。
だが、そう思えた。
そして、すべての説明が終わった頃。
屋敷の奥から、足早な気配が近づいてきた。
「団長!」
一人の騎士が、扉を開ける。
「Aランク冒険者たちの遠征隊が、戻りました」
「それはよかったです。無事でしたか?」
シエラが尋ねる。
騎士は、一瞬、言葉に詰まった。
「……負傷者はいるものの、全員、生還はしています」
「ですが」
空気が、張り詰める。
「目的地にて、想定外の魔物が出現」
「対応不能と判断し、撤退したとのことです」
ざわめき。
「Aランクが、撤退……?」
「そんな魔物が……?」
アガトは、黙って聞いていた。
“対応できなかった”。
その言葉が、胸に引っかかる。
(……どんな魔物だ)
山の奥で、
命を賭けてきた感覚が、わずかに疼いた。
シエラは、静かに目を閉じ、息を整える。
「……分かりました」
「詳しい報告を、後ほど」
そして――
彼女は、アガトの方を見た。
その視線には、
まだ言葉にならない“期待”が宿っていた。




