表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われる勇者 ~報われない英雄譚~  作者: 善屋
第3章 王都ルミナス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/43

第3章 王都⑥


「……"清廉の騎士団(せいれんのきしだん)"の、シエラだ」


ギルドホールの一角で、誰かがそう呟いた。

その声は独り言のように小さかったが、不思議と周囲へ伝播していく。


清廉の騎士団。

王都直属の精鋭騎士団であり、Aランク以上の危険任務を主に請け負う存在。

その団長にして聖女と称される女――シエラ。


正義のために剣を取り、

何よりも秩序を優先すると噂される、理想の象徴。



「直近一ヶ月、

 紅角の地走竜の討伐報告はなかったのではありませんか?」


受付嬢が頷く。


いつの間にか、シエラはアガトの隣に立っていた。

白を基調とした装束に、柔らかな微笑。

その存在だけで、場の緊張が不思議と和らぐ。


「素材の流通記録も、ありませんよね。」


空気が、徐々に重くなる。


「……どうかなさいましたか?聖女殿。」


奥の扉が静かに開き、一人の男が姿を現した。

年嵩で、威厳を纏った男――ギルド長だった。


「ギルド長……!」


受付嬢の声が、わずかに安堵を帯びる。


「聖女殿。

 この素材が本物であることは、認めましょう」


ギルド長は視線を素材へ落とし、慎重に言葉を選ぶ。


「ですが、それをこの冒険者が討伐したと断定するには、

 いささか……根拠が足りない」


「根拠、ですか」


シエラは首を傾げ、少し呆れた顔をした。


「では、お伺いします。

 現状、紅角の地走竜を討伐可能な戦力はいましたか?」


「聖女殿。お言葉ですが、この王都には優秀な冒険者が大勢おりますぞ。」



「あのーいいっすか?」


別の騎士団員が、書類をめくりながら続けた。


「今、王都近郊に滞在しているAランク冒険者はゼロ。

 全員、遠征中だったよな。ギルド長」


そのため、清廉の騎士団が王都に滞在していた。


沈黙。


紅角の地走竜を、討伐できる戦力。

その条件を満たす存在は、限られている。


「私たち、"清廉の騎士団(せいれん)"のみ、ですね。」


穏やかな声が、その言葉を継いだ。


「それでも、なお“偽装”とお考えですか?」


シエラの声は、終始柔らかい。

だが逃げ道は、確実に塞がれていく。


「……だとしても」


ギルド長は、言葉を選びながら続ける。


「彼は、まだEランク冒険者です。

 今までAランク魔族を倒す新米の前例がない――」


「次は、前例ですか」


シエラは、微笑んだ。


だがその笑みは、どこか冷たい。


「……可能性は、常に考慮せねばならない」


ギルド長は低く言い切った。


「ギルドの信用を守るためにも、慎重である必要があるのです」


「ええ。

 信用は、とても大切です」


シエラは一歩、前に出た。


「だからこそ――

 正しい功績が、正しく認められないことの方が、

 より深い不信を生むのではありませんか?」


その言葉に、ギルド長の表情が僅かに強張る。


「冒険者ギルドは、公正であることが信頼の根幹。

 それが揺らげば、どうなります?」


静かな声。

だが、刃のようだった。


「国民は疑念を抱き、

 冒険者は離れます。

 制度は――崩壊するでしょう」


「それは……」


「私は、それを望みません」


シエラは静かに、しかしはっきりと告げた。


やがてギルド長は、深く息を吐いた。


「……聖女殿の言葉、重く受け止めましょう」


「ですので」


シエラは、アガトの顔を見てふっと表情を緩める。


「一つ、提案を」


視線が集まる。


「彼を、私たち"清廉の騎士団"に迎えます」


ギルド内がざわめいた。


「彼の実力は、私たちが保証する。

 同行し、功績を重ねれば――

 疑念は自然と消えるでしょう」


それは、救済案に聞こえた。


同時に――

完全な取引でもあった。


「……ギルドとしては?」


シエラは、ギルド長にしか聞こえない声で囁く。


「この件、表には出しません。

 代わりに――

 今後も私たちの顔を立ててくださいね」


沈黙の後。


「……了承します」


ギルドは、貸しを作った。


それが、どれほど重いものかを理解した上で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ