第3章 王都⑤
紅角の地走竜は、完全に沈黙していた。
アガトは剣を収め、紅角の地走竜に近づく。
硬質な鱗。焼け焦げた角。
それらを確かめ、討伐証明として必要な素材を丁寧に採取していった。
(……これで、証明にはなるはずだ)
そう信じていた。
◇
王都へ戻る頃には、空はすっかり夕暮れに染まっていた。
初めて見る王都の喧騒も、
石造りの高い建物も、
行き交う人々の多さも――
今は、どこか遠く感じられる。
ギルドの扉を押し開くと、
中の視線が一斉にこちらへ向いた。
――また、だ。
理由は分からない。
だが、慣れ始めている自分がいることが、少し怖かった。
「……討伐報告です」
アガトは受付カウンターに素材を並べた。
紅角の地走竜の角。
鱗。
そして、血の痕が残る討伐部位。
受付嬢は一瞬、それらを見て目を細めた。
「……少し、お待ちください」
素材を持って奥へ下がる。
周囲から、ひそひそと声が漏れる。
「嘘だろ……ソロで、あれを?」
「どうせ、横取りじゃないか?」
「偽装だろ」
アガトは黙って立っていた。
しばらくして、受付嬢が戻ってくる。
その表情は、硬かった。
「確認しました」
そして、はっきりと告げる。
「――ですが、この討伐は認められません」
「……え?」
「Aランク相当の魔物を、Eランク冒険者が単独討伐。
証言者なし。
信頼性に欠けます」
素材に、もう一度視線が落とされる。
「偽装、もしくは不正取得と判断します」
言葉が、胸に突き刺さった。
「そんな……俺は……」
言いかけて、止まる。
説明しても、
信じてもらえない。
それは、もう何度も経験してきたことだった。
「……他に証明は?」
「ありません……」
受付嬢は、小さく息を吐いた。
「では――」
その時。
「――その討伐、偽装ではありませんよ。」
澄んだ声が、ギルド内に通る。
人垣の向こうから、白を基調とした装束の女性が歩み出てきた。
清潔で、無駄のない佇まい。
その存在だけで、場の空気が僅かに整う。
受付が言葉を失い、周囲がざわめく。
女性はアガトを一度だけ見て、静かに告げた。
「――私が保証します」
それが、
清廉の騎士団・Sランク冒険者:序列3位、聖女シエラ
との、最初の出会いだった。




