第3章 王都④
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≪Aランク討伐依頼≫
対象:紅角の地走竜
発生地:王都北方・旧鉱山跡地
備考:
・複数のBランクパーティーが撤退
・高熱を伴う火属性ブレスを確認
・少人数行動は非推奨
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ギルドの受付から受け取った
依頼内容は簡潔だった。
数ヶ月前から、旧鉱山跡地に魔物が棲みつき、
近隣の街道が封鎖状態になっている。
派遣されたBランクパーティが三組、
いずれも撤退。
(……なるほど)
アガトは、静かに依頼書を見つめた。
これを達成できなければ、
功績は認められない。
逆に言えば――
これを成し遂げれば、
否定の余地はなくなるはずだ。
アガトは翌日、旧鉱山跡地へと向かった。
旧鉱山は、かつて人の手が入っていた分、逆に厄介だった。
掘り進められた坑道は不自然に折れ曲がり、
天井の支えはところどころ腐り落ちている。
足を踏み出すたび、砂利が音を立て、
その反響がどこからともなく返ってくる。
視界は悪く、粉塵が舞い続けていた。
魔力感知も、岩に残る人工的な痕跡に乱される。
そこに、紅角の地走竜は潜んでいた。
低い唸り声。
岩肌と同化するような鱗。
赤く染まった角が、暗闇の奥で一瞬だけ光る。
――分かる。
この魔物は、正面からぶつかってこない。
地形を利用してくる。
地面を蹴って横に跳び、
距離を取れば、壁や天井を狙って叩き壊してくる。
轟音とともに、岩盤が崩れ落ちる。
「……っ!」
火属性ブレスが坑道を焼き、
逃げ道だったはずの通路が、一瞬で塞がれた。
熱風が巻き込み、
肩をかすめた炎が皮膚を焦がす。
痛みよりも先に、焦りが走った。
(山なら……)
もっと力任せに、地形ごと吹き飛ばせた。
魔物だけを狙う必要もなかった。
だがここは違う。
坑道を崩せば、
生き埋めになる可能性もある。
――制御しろ。
アガトは、剣を強く握った。
魔力を、剣へ。
一気に流し込めば、刃は耐えきれない。
だから、絞る。
細く、鋭く、刃先だけに。
剣身が、淡く光を帯びる。
紅角の地走竜が、岩陰から跳び出した。
アガトは、一歩踏み込む。
崩れかけた支柱を蹴り、
わずかに体勢をずらした瞬間、
「――今だ」
剣を振り抜くのではない。
突き。
魔力を一点に集束させた刃が、
魔物の胸元――鱗の継ぎ目を正確に貫いた。
「ギィ――ァァァッ!」
断末魔が坑道に反響する。
土煙が、静かに沈む。
「……終わった」
剣を抜き、深く息を吐く。
腕が、わずかに震えている。
楽な戦いではなかった。
一歩間違えれば、坑道ごと崩れていた。
それでも。
制御し、踏み込み、貫いた。
確かに――
アガトは、紅角の地走竜を討ち取った。




