第3章 王都②
掲示板の前は、人だかりができていた。
報酬の高い依頼。
危険度の低い護衛任務。
安定した常連向けの仕事。
それらのクエストは、
アガトが目を通す前に、次々と剥がされていく。
残るのは――
誰も手を伸ばさない依頼だけだった。
「……これか」
掲示板の隅。
少し黄ばんだ紙。
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≪Bランク討伐依頼≫
対象:増加した魔物の討伐
発生地:王都北部・風食の荒野
備考:
・主な構成: C級〜D級魔族
・推定規模: 数百体の大規模な群れ
・連携可能な複数パーティーでの受注を推奨。
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(Bランク……)
初心者の自分には、明らかに場違いだ。
だが――
アガトは、その依頼書を剥がした。
「これ、受けたいです」
受付の女性が、一瞬目を丸くする。
「……ソロですか?」
「はい…」
「依頼内容は、見ました?」
「見ました…これしかなくて」
沈黙。
周囲から、失笑が漏れる。
「無謀だな…」
聞こえている。
だが、アガトは顔色を変えなかった。
「……分かりました」
受付はため息をつく。
「生還したら、報告してください」
それ以上の言葉はなかった。
王都北部――風食の荒野。
かつては交易路の一部だったが、
地盤が崩れ、魔物が住み着いてからは放棄された場所。
風に削られた岩肌。
視界を遮る砂埃。
足元は不安定で、踏み外せば斜面を滑り落ちる。
「……思ったより、開けてるな」
だが、開けている分、隠れる場所も少ない。
そして――
風に混じって、魔物の気配が漂っていた。
「……数が多い」
山で相手にしてきた魔物より、
一体一体は弱い。
だが、群れで動き、
地形を利用して囲もうとしてくる。
アガトは、剣を抜かず、
静かに魔法陣を展開した。
風。
光。
地を縛る力。
砂を巻き上げて視界を奪い、
足元を縛り、
一体ずつ、確実に仕留めていく。
(……山での生活は、無駄じゃなかった)
魔力の制御。
立ち位置。
退路の確保。
すべてが、身体に染みついている。
数時間後。
荒野に漂っていた気配は消え、
風の音だけが残っていた。
息を整え、
アガトは王都へ引き返す。
城壁が見えた頃には、
日が傾き始めていた。
ギルドへ向かい、
討伐証明である魔物の素材を提出する。
「……確認します」
職員が奥へ下がり、
しばらくして戻ってきた。




