第3章 王都①
山を下り、街道に出た馬車は、
やがて巨大な城壁を前に止まった。
王都――
人の世界の中心。
「……すごいな」
思わず、素直な声が漏れる。
高くそびえる石壁。
整然と並ぶ見張り塔。
人の手で築かれた“秩序”の象徴。
山の奥で見てきた自然の脅威とは、
まったく違う圧迫感があった。
門の前には兵士がいた。
「何用だ。」
「荷台をギルドへ運ぶためです。」
簡単な確認だけで、門は開いた。
詳細な検問は本道にいくつもあるため、
ここでは簡単な確認だけだった。
「……通れたな」
アガトは小さく息を吐いた。
王都の中は、別世界だった。
人の数。
建物の密度。
飛び交う声と視線。
「……本当に、人が生きてる場所だ」
山での静寂が嘘のようだ。
だが――
違和感を覚える。
すれ違う人々が、
一瞬アガトを見て、表情を曇らせる。
(……なんだ?)
敵意ではない。
だが、明らかに好意でもない。
理由の分からない距離。
(村と同じ視線だ…)
アガトは馬車をギルドへと進めた。
冒険者ギルドは、王都でも一際賑やかだった。
受付で事情を説明し、
拘束した三人の男を引き渡す。
「……こいつら」
奥から現れた年配の職員であるギルド長が、
男たちの顔を見て眉をひそめる。
「指名手配犯だ。
しかも、賞金付き」
周囲がざわついた。
「三人まとめて捕縛……?」
「誰がやった?」
視線が、アガトに集まる。
「……お前か?」
「はい」
「一人で?」
「……はい」
一瞬の沈黙。
空気が、微妙に変わる。
「若すぎるな」
「奴隷商人の仲間じゃないのか……?」
「本当に信用できるのか?」
ひそひそと囁きが広がる。
(……なんでだ)
功績は事実だ。
捕まえたのも、本当だ。
それなのに、
どこか疑う目を向けられる。
ギルド長が、手を上げて場を制した。
「功績は認める」
その言葉に、アガトは少し息をついた。
「だが――信用は別だ」
視線が、まっすぐ向けられる。
「冒険者としての実績が、まだ何もない」
「本当にお前が捕まえたか、証明はできない」
「正直に言おう。
今の段階では、君を完全に信じることはできん」
胸が、少しだけ締め付けられた。
だが、ギルド長の言い分も納得はできる。
「登録は認める。」
「依頼を受け、
功績を積めば信用してやる。」
それは、突き放しでもあり、
同時に――道でもあった。
「……分かりました」
アガトは、静かに頷いた。
「やります」
理由は、英雄になりたいからではない。
称えられたいからでもない。
ただ――
人の世界で起きていることを、
知らずにいるわけにはいかなかった。
「冒険者登録、承認」
ギルド証が、カウンターに置かれる。
歓迎はされていない。
あるのは、
様子見の視線だけ。
(……それでも)
アガトは、ギルド証を握りしめた。
(前に進むしかない)
嫌な視線の理由は、まだ分からない。
だが、立ち止まれば、何も変わらない。
こうして――
批判を受けることに疑問を抱いたまま、
アガトは冒険者として歩き始めた。
人の世界で、
“信用”を得るために。
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≪ギルド証について≫
冒険者ギルドは、身分や出自を問わず誰でも登録でき、
依頼はランクに関係なく自由に受注できる。
依頼には
S・A・B・C・D・Eの難易度があり、
達成すると難易度に応じた攻略ポイントが加算される。
ポイントの累計によって冒険者ランクが決まり、
上位100名以内の者には順位が与えられる。
アガトもまた、
Eランク冒険者として、その一歩を踏み出した。




