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童話についてアレコレ  作者: 七瀬みる


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負の感情

 前にも書いたように、子どもは天使ではなく人間であり、あるいはこれから「人間」になっていくべき存在であって、だから当然、負の感情ももっているわけで……

 童話・児童文学にとっても、この負の感情というのはわりと大事な気がするわけです。


 いわゆる「感情の社会化」が、「「ことば」を使って、自分の身体の中で起こっていることを他者と共有(by大河原美以)」できるようになることをいうのだとすれば、なおさらです。

 説話行為というのは、まさに文字通りその「ことば」をつかって、読者の――子どもの――感情をゆさぶろうとする営為でもあろうからです。


 そういう意味で、最近、あらためて、すごさを再認識しつつある児童作家が、那須正幹さん。

「ズッコケ三人組」のシリーズで著名な大御所ですが……


 若いころには、『ぼくらは海へ』みたいな作品も書かれていたわけで、これがまたすさまじい。

 子どもたちが舟を作る話――などというと、明るく楽しくサワヤカなせいしゅんのいちぺえじ……みたいのを想像するかもしれませんが、まったくそんな無邪気な世界ではなく……

 登場する子どもたちがかかえる家庭環境のフクザツさや鬱屈は、なまなましくもヘヴィーでリアル。

 舟を作る楽しさは楽しさながら、その背景には、子どもたちをその楽しさへと追いやる、心のなかの「爆弾」があったりもするわけです。


 こんな重厚な世界を描き出した著者が、どういういきさつで「ズッコケ」の世界にたどりついたのか……一見すると、ふしぎに思えるかもしれません。

 でも、悲劇と喜劇って意外と互換性がありますよね。一歩まちがったら……な世界。


「ズッコケ」シリーズだって、ふつうに殺人事件が起こったり、無人島に漂流してみたり、タイムスリップしてみたり……場合によってはクラスメイトが命を狙われたりもして、ユーモアのオブラートにつつんではありますが、意外と危ない橋をわたっています。

 ユーモア小説ですからいずれたいしたことにはなりませんが、リアルだったらシャレにならない、それこそ「一歩まちがったら」な展開はいくらもあります。

 そして、殺人事件なんか典型ですが、そこには、当然、犯人の「負の感情」がうずまいているわけで……


 というか、児童向けの読み物の人気ジャンルには、いつの時代も、ホラーやミステリが含まれていたりもするわけで……そこにある「負の感情」の描出・言語化には、それ自体、「感情の社会化」とも通底する機能なんかも、もしかしたら、ありうるのかもしれません?


 しかも、那須さんの場合、負の感情の描出は、ホラーやミステリといった特定ジャンルだけにかぎった話ではなさそうです。

 令和にもなってイマサラすぎるといえばすぎますが、最近、すげえなと舌を巻いたのは、「ズッコケ」シリーズ第三作「ズッコケ(秘)大作戦」。

 恋愛ネタですが……それさえも、見方によっては、『ぼくらは海へ』と地続きの世界なのだと感じさせられました。

 まあ、当方のいうことですから錯覚かもしれませんが(笑


 転校生の美少女に三人組がホレる展開ですが……この女のマコの家庭環境がやはりどーしてかなりフクザツ。父親の借金が云々、などと、『ぼくらは海へ』だったら死者がでてもおかしくありません。

 しかも、マコは、そういう家庭環境をかくして、お金持ちのお嬢さまを演じているわけで……それどころか、あまつさえ、一年生を買収してあぶないことをさせ、自分がそれをたすけてみせて、同級生たちからの評価をかちとるという、自作自演までやってのける、かなりヤバめのキャラ造形。


 しかも、その自作自演の動機は――発覚後にいろいろ周囲が陰口悪口かんぐり等々はしますが――最後まですっきり明確には言語化されることがありません。

 どうしてマコがそんなことをやったのか、単なる承認欲求か、なにかの代償行為か、もっと実利的な計算・打算か、究極的には謎のまま。

 まあ、単なる類型的なファムファタールだかアンファンテリブル、いちいち深読みすることはない、のかもしれませんが……

 しかし、書き手のハシクレのカザシモの一人としては、このマコの一連の行動が、もしも、三人組ではなく、マコ自身の視点から語られていたとしたら……それこそ『ぼくらは海へ』の世界とかわらない、マコの中の「爆弾」が描出されることにもなりえたのでは?などと、やっぱり、ついつい、ちょっと、考えてしまったりもするのです。

 承認欲求だとしても、狡猾な打算だとしても、さらにほかの何かだとしても、いずれにせよ、そのさらに根源には、家庭環境その他からくる「共感可能な負の感情」があるのではないか。すくなくとも、それが「ある」と設定することは可能ではないか……などと、想像してみたくなったりもするのです。


 那須正幹先生。子どものかかえる負の感情の、設定・造形・描出に、意外なほど、秀でた作家さんだったのかもしれませんし、一周回ってその暗い想像力があったからこその、「ズッコケ」はじめ、ユーモア小説の数々だったのかもしれません???


 まあ、当方のいうことですから錯覚以下略ですが(笑


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