動物童話について
子どものころよく読んだ童話作家さんに、椋鳩十さんがいます。動物童話の第一人者ですね。
動物に詳しくないと書けない世界なので、当方など、書き手としてはお手上げですが、読者としては、すこぶるつきでおもしろい。
で、ときどき、この面白さはいったいなんなんだ?と、頭を整理したくなることがあります。
まあ、ヘタな考えナントカなんですが……
動物童話といえば、とりあえず、二つの「極」があるような気がします。
一方は、自由の呼び声的な野生讃歌であり、もう一方は「名犬ラッシー」のような家畜もとい人間の友としての動物讃歌でしょうか。
その二極を、動物側からみれば、自由と隷属でもあり、厳酷と安逸でもある、ともいえるでしょうか。
もちろん、二つだけに二極分化するわけではなく、そのあいだには、濃淡様々なバリエーションがありうるでしょう。
たとえば、動物物語のひとつの典型に、幼い野生動物をひろって育てて仲良くなるが、成長するにつれて共存不能になって「森におかえり」となる……前半で人間の友を存分に楽しみ、後半で野生を考えさせるというのが、あるような気がします。
この場合、その動物は、森なりどこかからなり「やってきて・帰っていく」わけですが、それというのは、「行って・帰ってくる」という英雄神話のパターンの裏返しであるともいえそうです。
その動物が、主人公を肉体的に救ってくれる(野犬化した元飼い犬が、夜の森で、元飼い主を守ってくれるという話が、実際、椋鳩十さんにあったりします)ケースはもちろん、主に精神的・心理的に救ってくれるケースもあるでしょう。
後者の場合、物語は、ある種セラピー的な構造にも接近することになるかもしれません。
そういえば、これも30年くらいまえでしょうか。畑正憲さんの『REX恐竜物語』と、景山民夫さんの『遠い海から来たCOO』がわりと近い時期に、一方は実写映画化、一方はアニメ映画化されたことがあったかと思います。
どちらも原作未読で映画だけTVでみたという怠惰なアレなのでもうしわけないですが……ただ、おかげで、「絵面」がよくわかりまして。
あの二作品、どちらも父子家庭の子どもが、恐竜の卵をかえしてインプリンティングで「親」になって育てるという展開でして。最後は、すったもんだのあげくに、あるべき場所に「お帰り」となる……上で述べた動物物語の典型でもあるわけです。
おもしろいのは、その最後の別れのシーンの絵面。
先述のようにどちらも父子家庭なのですが……
どちらの映画も、そのラストシーケンスでは、父親の横に、妙齢の女性が寄り添っているのですね。
別に、ふたりがくっつくと明示されていたわけではなかったとも思いますが……
あくまで「絵面」のうえでは、父と子しかしなかった家庭に、成人女性が入りこんで、核家族的な三者関係が再構築されているようにもみえるわけで……これなどは、まさに、家族セラピーか何かですか?といいたくなる、心理的救済(をもたらす動物というヒーロー)の構造だったようにも思うわけです。
もちろん、それはあくまでひとつの典型。
動物物語には、さらにいろいろ濃淡のあるバリエーションもあるでしょう。
椋鳩十さんなどは、そのバリエーションをひとりでいくつも書きまくったような、そんな印象もあります。
初期の作品には、完全に野生動物(熊)がペット化している人間の友讃歌のような短編もありますし(「山の太郎熊」)。
さすがにそれはどうよと思ったか、それを長編化したかのような「山の大将」では、人間の友で善意のカタマリのクマが、誤解を受けて人間社会から追放され……しかし、クマ自身はあいかわらず人間が大好きで何度も帰ってこようとしてしまうというような、すなおなセラピー物になりきれない含みのある作品などもありますし。
ケガをした野生動物(渡り鳥)を一時的に保護して、飼いならした……かと思いきやふたたび渡りの季節がめぐってくると~などという展開の短編もありますし。
野生動物を、野生動物として、距離を置いて、観察する、ネイチャーウォッチング的な作品もありますし(「古巣」「片足の母すずめ」etc)。
かと思えば、野生動物を狩る猟師が、命がけの勝負のなかで、その野生動物に敬意や愛着を抱くという、ビタースイートな陰影に富んだ作品もありますし(「カガミジシ」「大造じいさんとガン」)
個人的に大好きな「大空に生きる」などは、人間側だけでなく、動物(鷲)のがわも、野生の自由と、家禽の安らぎのあいだで、心理的に引き裂かれるという、なかなか含蓄の深い展開が読めたりするわけで……やはり、なかなかどうして、童話というのは、バカになりません。
よくも、まあ、ひとりでこれだけ(ですらもなく、さらに、いろいろな動物童話のパターンを)お書きになったな、と、感心するしかなく、その背景には、いったいどんなモチベーションや思考があったのだろうと、考えてしまったりもするわけです。




