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第23話 二回目の土曜日

翌週の土曜の午後、店の扉が開く。

からん――と鳴る鈴の音に、遥は手を止めて顔を上げた。


「こんにちは。二回目です」

光哉は先週と同じように落ち着いた笑みを浮かべ、まるで約束を守ったことを誇示するかのように立っていた。


「……本当に、毎週いらっしゃるつもりなんですね」

遥はあきれたように言いながらも、ほんの少しだけ口元が緩んでいた。


「もちろん。言ったことは守りますから」

光哉はカウンターに近づき、棚に並ぶ古書を一冊手に取った。

「今日はこれについて語りませんか。この作家の随筆集。あなたが好きそうだ。」


「どうして私の好みを決めつけるんですか」

遥は眉を寄せたが、その声に刺々しさはなかった。


「決めつけではありません。これまでのあなたとの会話とあなたを観察しての結果です」

光哉はさらりと言い放ち、ページをぱらぱらとめくる。

「あなたが手に取る作品は、物語が派手に展開するものよりも、人物の心理描写が緻密に描かれた、人間の心の機微を丁寧に描くものが多い。この作家の文章は、そういう部分が際立っているから。」

遥は返す言葉を失い、視線を落とした。

確かに彼の言葉は当たっている。だが、あっさりと見抜かれたことが悔しくて、口をついて出たのは皮肉だった。


「観察だなんて……研究対象にされているみたい。」


光哉はわずかに笑った。

「それは違う。研究対象ではなく、ただひとり、本当に理解したいと思う相手だからですよ。だから一緒にいる時には、目を逸らさず、誠実に向き合いたいと思っています。」


胸の奥が、またざわめいた。

遥は咄嗟に顔を背け、帳簿に視線を落とした。

否定すればするほど、自分の心が揺れていることに気が付いてしまうから。

「……お好きなようにどうぞ」


かろうじてそう言い捨てて、帳簿をつけ始める。


その横顔を見つめながら、光哉は優しく微笑んだ。

「お忙しそうですね。今日のところは、これで帰ります。また、来週も来ますね。」


「勝手にすればいいじゃないですか」


冷たく突き放すように言いながらも、心のどこかで「また来週も来るのだろう」と予感している。

そして、それを期待している自分に気づいて、遥はさらに複雑な思いを抱いた。


――こうして二度目の土曜日は、静かに過ぎていった。


第24話に続く

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