表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

第20話 あなたに愛されることが私の幸せではない

図書館の階段を降りていく学生たちの笑い声が、遠く霞んでいく。


光哉はゆっくりと口を開いた。低く、しかしはっきりとした声で。


「……私は、あの頃もずっと、あなたを愛していた。あなたほど、私を理解してくれた人はいないし、あたなほど、私が心を許し、愛した人はいない。前にも言ったけれども、あなたは私にとって本当に唯一無二の存在だったんだ。」


遥は顔を上げる。その瞳に映る彼は、どこか懐かしく、そして苦しげだった。


「あなたを失う前に――なぜそれを改めて伝えなかったのか。

あなたを幸せなままで逝かせてやれなかったことを……ずっと、ずっと後悔していた。

あなたを失ってから、私は抜け殻のように生きていたんだ。」


光哉は視線を落とし、拳をわずかに握りしめた。


「だから、信じていた。必ず生まれ変わって、もう一度あなたに会えると。

その時には……ただあなたを愛し、あなたを幸せにすると、何度も誓った。

……でも、最初に生まれ変わったとき、あなたには巡り会えなかった。やはり、あなたは私を許してくれていなかったからだったんだね。だから、今世こそ、ただあなたを愛し、あなたを幸せにしたいんだ。」


夕暮れの光が二人を包み、沈黙が再び落ちる。

遥は唇を噛みしめた。胸の奥で、何かがほどけそうになる。けれど――怖い。


――また、同じように愛して裏切られたら。

――また、あの痛みに呑まれてしまったら。


視線を逸らすと、夕陽が地面に長く伸びた二人の影を結んでいた。


遥は、再び彼を見つめて冷ややかな声音で返した。

「……あなたの勝手な思いをぶつけられても困ります。私の幸せは、あなたに愛されることだとどうして思い込むの?あなたに出会う前の方が、こんなに心をかき乱されることもなく心穏やかに過ごせていたわ。」


光哉は言葉を探すように唇を開きかけたが、声にならない。


遥は視線を逸らし、淡々と言った。

「今日のところは、もう帰ります」

感情の昂ぶりで敬語を使うことを忘れていたことに気が付いた。


背後から呼び止める声がしたが、もう振り返らなかった。


21話に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ