#60
調査隊が街へ戻ったのは、日が沈みかける頃だった。
夕暮れの空に、わずかに赤を滲ませた雲が流れ、ギルドの外壁を静かに染めていた。
報告を受けたアズレインはすでに執務室に戻り、応接机の前で一行を迎えた。
その眼差しは、滅多に見せることのない緊張を帯びていた。
「――状況は?」
報告の口火を切ったのはティルフィアだった。
白い指が机に並べられた地図を押さえながら、淡々と状況を語る。
「遺構周辺に、高濃度の魔力反応を確認。召喚痕と思われる構造が複数あり、内一つは死霊陣の基盤と一致。……進行中の儀式である可能性が高いです。まぁ、陣は破壊しましたがね」
アズレインの表情がわずかに引き締まる。
机上の記録紙に筆を走らせながら、短く問う。
「それでグリマタルが再び現れる可能性は?」
「極めて高い。時期は断定できませんが、陣の構成と魔力密度から見て、未完成ながらも準備段階にあると見ています。かつてのように人間を滅ぼそうと動き出すための」
その言葉に、フィオナが静かに続ける。
「魔物の姿は直接は確認できませんでしたが……周囲の沈黙が異常でした。森の生き物がすべて息を潜めていた。まるで、何かの合図を待っているみたいに」
ティルフィアが頷き、補足する。
「魔力の流れにも不自然な乱れがありました。あれは自然に残った痕ではない。“演出”とでも呼ぶべき、明確な意志の介在を感じます」
アズレインは筆を止め、しばし沈思。
「……なるほどな」
静かに紙を裏返し、報告書に目を通しながら低く言う。
「状況をまとめて本部に送る。おそらく再調査部隊の派遣が検討されるだろうが……最悪の事態も考えておかなければな」
一瞬の沈黙の後、エリカが口を開く。
「最悪の事態、とは」
その声は震えていた。
アズレインは少し目を細める。
静かに彼女を見つめ、やがて短く息を吐いた。
「聖堂付近の街や村、当然…この街にも何らかの被害が出る可能性だ」
リュシアは一連のやり取りを静かに見届けていた。
そして口を開く。
「再び奴が現れるとなると、我々の役割も問われることになる。動くにせよ慎重にいきましょう」
その声音には勇者としての冷静さと、現実を見据える鋭さがあった。
ティルフィアも、それに続いて頷く。
「すぐに動くのは避けるべきね。今は情報の整理と共有が先。必要があれば、私から王国に助力を乞いましょう」
アズレインは椅子にもたれながら目を閉じ、重く言った。
「街の防衛体制を見直す。冒険者ギルドでも冒険者に情報共有を行い、万が一に備えるとしよう」
言葉が落ちたあと、部屋はしばし静まりかえった。
それぞれが自分の立場と責務を、あらためて胸に刻む。
その夜、ギルドの窓辺に吊るされたランタンの灯火は、風に揺れながら長く夜を照らしていた。
新たな脅威の気配が、もうすぐそこまで来ていた。




