#56
調査隊の出発を翌日に控えた朝。
ギルド内はいつも以上に活気づいていた。
補給物資の整理に、報告書の回収。荷馬車の最終確認から倉庫の点検まで、慌ただしさは冒険者たちにも伝わっていた。
そんな喧騒から少し離れた依頼掲示板の前で、カイルは腕を組み、一枚の依頼書をじっと見つめていた。
朝の日差しが、窓越しに古びた掲示板に斜めの影を落としている。
「いたいた。真面目に立ってると、石像かと思うわ」
背後からマリーが軽口を飛ばしてきた。
いつも通りの調子だが、声にはどこか気安さが混じっていた。
カイルは振り返らず、掲示板から一枚の紙を剥がして見せる。
「近隣の村で、魔物の目撃情報が出てる。小規模だがな…ついてくるか?」
「へいへい、そんな割に合わない依頼良く受けるね」
「ほぅ…俺が前回、なんて言ったか覚えてるか?」
「うっ……細かいこと覚えてるんだから。ハイハイ喜んで手伝いますよ」
マリーは腰の剣をぽん、と軽く叩き、笑う。
その仕草に、カイルは小さくため息をつきながらも口角をわずかに上げた。
「出るなら早めに動く。荷の準備、済ませとけ」
一方その頃、ギルド裏手の荷馬車置き場では、エリカとフィオナが調査隊の装備確認を終えようとしていた。
調査隊の道具袋には魔力測定具や携帯用の水晶板、乾燥食糧が収められ、揺れ止めの紐がしっかり巻かれている。
「カイルはついてこないの?まだ傷が癒えてないとか?」
フィオナが弓を背負いながら問う。
エリカは荷の留め具を直しながら、苦笑いしながら答えた。
「カイルさんは……色々あってね」
「そ、まぁいいけど。どーせ素性がばれると面倒だからでしょうけど」
「ちょっ…しーっ!」
「ふん」
フィオナが鼻を鳴らして視線を逸らすが、その顔に怒気はなかった。
出発直前、ギルドの厩舎では短い別れの時間が流れていた。
簡単なやり取りだけが、彼らの絆の証だった。
マリーがエリカの肩をぽんと叩く。
「変なのに近づかない。何かおかしいと感じたら即撤退。それが生き残るコツよ」
「ありがとう。……マリーも気を抜かないでね」
カイルはフィオナに視線を向け、淡々と告げる。
「深入りするな。必要なら引け。それだけだ」
フィオナはその言葉に眉を上げた。
「了解……気をつける。でも、もう少し優しくお願いされたい」
「はぁ…フィオナの事は信用してるさ。だから危ないと思ったら二人だけでもすぐに引き返してくれよ?」
満足そうに笑うフィオナとエリカは馬車の後部に乗り込み、荷を収める。
職員の合図と共に、ギルドの門が軋む音を立てて開いた。
朝日を浴びて、荷馬車がゆっくりと外の世界へと滑り出す。
門の前で立ち止まって見送るカイルとマリーの姿は、朝の光のなか、どこか静かに揺れていた。
言葉よりも強く、信頼がそこにあった。




