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#48

 夕暮れの色が街を染めていた。訓練を終えたカイルは、変わらず足を向ける。


 街の中心、ギルド併設の酒場。喧噪が始まる前の静かな時間帯――冒険者だけが集う独特な空気。

 中に入ると、ちょうど席を探していた三人組と鉢合わせた。


「あっ……カイルさん!」


 先に声を上げたのはエリカだった。

 その表情には、疲労と達成感、そしてどこか誇らしげな色が混じっていた。


「……帰ったか。無事で何よりだ」


 カイルは軽く目線を合わせてから、いつもの隅の席へ向かう。

 背後で、にぎやかな声が上がった。


「うおー! 生きて帰ってきたぞーッ! 」


 マリーの弾けるような叫びに、フィオナが静かに肩をすくめた。


「もう少し落ち着いて。あんたの声、天井まで跳ね返ってるわよ」


「だってさー、初めて組んだ依頼でアレだよ!? テンション上がるでしょ、普通!」


 三人は自然とカイルの席に集まり、給仕にそれぞれの飲み物を頼む。

 マリーは言わずもがな酒、フィオナはいつものハーブティー、エリカはリンゴのジュース。


「本当に……二人ともすごかったんです。正直、途中で無理かと思いましたけど……でも、ちゃんと三人で、やり遂げたんです」


 エリカが静かに語ると、フィオナもうなずいた。


「多少の怪我はあったけど、全員生きてる。上出来でしょ」


「そうか」


 カイルは一言だけ返す。その声音は淡々としていたが、握るグラスは、わずかに緩んだ。

 マリーが唐突に立ち上がる。


「よし! じゃあここで一つ、約束を果たしますか!」


 腰のポーチから大きな革袋を取り出すと、勢いよくカイルの前に差し出した。


「これでチャラだ! あたしの借金、完済ーッ!」


 カイルはドラゴン討伐の報酬が入った大きな革袋を開け、金貨の数を確かめた。

 重さと手触りは確かに“本物”。数にも不足はない。


「ほう……律儀だな。どうせ踏み倒すかと思ってた」

「なんでよ! あたしだって、やるときゃやるんだからね!」


 満面の笑みで言うマリーだったが、その腰にはまだカイルから借りた剣が吊るされたままだった。

 カイルはそれに気づき、目線を落とす。


「……で、それは?」


「へ?」


 マリーは一瞬間抜けな声を漏らし、剣に視線を落とした。


「そ、それは……返すつもり、ではあったんだけど、ね? けど、なんていうか、今さら手放すのもなあっていうか……気に入ったというか…だからぁ…この剣、譲ってくれない?」


 腰の剣に手を添えながら、もごもごと目を逸らす。

 カイルは席を立つと、マリーの耳元へとそっと顔を寄せた。


「そうか、気に入ったか。だがな、その剣の価値は金貨換算でざっと……」


「え……嘘」


「本当だ、お前が買い取れるわけがない。その剣が惜しかったらエリカを手伝ってやれ。その間だけは貸し出しておいてやるよ」


 マリーはしばらくぽかんとした後、わめき出した。


「うっ…そこをなんとか…私、働きたくないよー!」


「なんとかならないな。剣を手放したくないならちゃんと働けばいつか譲るさ、いつかな」


 そのやり取りを横で聞いていたフィオナが、何とも言えない表情でハーブティーをすする。


「ほんとにだらしなさの権化ね」


「でもフィオナ、なんだか楽しそうですよ?」


 エリカが笑うと、フィオナが軽く頬を染めて横を向いた。


「うるさい」


 グラスの中で、氷が静かに音を立てる。

 カイルは手元の酒を一口だけ飲んだ。

 苦みの先に、微かに残る甘さがあった。

 初めての共闘。命を懸けて、それを乗り越えた三人。

 彼女たちは、少しずつ「一党」らしくなっていた。



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