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#45

 焦げ尾の岩場を離れた頃には、空の端が紅に染まり始めていた。

 日が傾き、風がやや冷たさを帯びる中、三人の足取りは静かだった。とはいえ、その沈黙は疲労から来るものばかりではない。戦いを終えた者だけが持つ、張り詰めた意志と安堵がそこにあった。


「ふぃー……帰ったら風呂、酒、そして十時間睡眠……約束された勝利のルーティーンってやつだわ……」


 マリーの背中の火傷はエリカの癒しの奇跡で跡形もなくなっていた。マリーがいつもどおりの調子で伸びをする。フィオナはすかさず横から呟いた。


「その前にあんたの剣が折れた件の謝罪は?カイルから預かってた剣がなかったら危なかったでしょ」

「え~……あれは事故でしょ!? 天災みたいなもん!」

「天災にしてはあんたが発生源すぎる」


 言い合いながらも、どこか二人の距離が近づいているのを、エリカは感じ取っていた。

 あの戦いを経て、三人は確かに一党(パーティ)としての形になり始めている。そう思うと、自然と口元に笑みがこぼれた。


 麓に待機していたギルドの馬車に乗り込み、彼女たちはそのまま街へと戻る。長く揺られるうちにマリーは早々に寝息を立て、フィオナは一人で地図を眺めながら、今後の道程を思案していた。


「……エリカ」


 不意に、彼女が声をかけてくる。


「うん?」

「さっきの、あの奇跡。助かったわ。正直、あの瞬間、“あ、やられた”って思ったもの」


 エリカは少し考えてから、素直に頷いた。


「ほら私って直接的な攻撃手段がないし。せめて仲間は守らないと」

「……へえ。ま、ありがと。助かったわ」

「どういたしまして」


 そのやり取りに、心が少しだけ軽くなるのを感じながら、エリカは目を閉じた。






 夜になってギルドへ帰還し、報告を済ませると、すぐに簡単な面談が行われた。

 アズレインの執務室に通された三人は、長机越しに淡々と仕事をこなすギルドマスターと向き合う。


「討伐、感謝する。レッサードラゴンの件は街にも報せが行き、近隣の動きも落ち着くはずだ」


 アズレインは事務的に報酬額が書かれた紙を手渡すと紅茶を飲む。報酬について書かれた紙をマリーが逸りながら確認すると飛び上がって喜んだ。


「……もう一つ、エリカ。これは個人的な判断だが、君に伝えておきたい情報がある。君の元居た世界に戻る方法についてだが、古い知り合いにそういう事象に詳しい者がいることを思い出してな」


 エリカを見つめながら語るアズレイン。マリーとフィオナは何やら言い争いをしているが彼は気にも留めずエリカに語る。


「変わり者だが世界で有数の魔女の一人だ。最後に会ったのは数年前。この世の真理を探究する放浪者だったが今は東の勇者の一党に属しているらしい。真偽はわからないが本当なら会って話をしてみるべきだ」


 自分より詳しい者。転移の魔法や儀式、この世の不可思議を探索することに命を懸ける魔女。彼女ならエリカの力になるかもしれないとアズレインは話す。

 立ち上がって礼をした後、執務室を去った三人は帰路に就く。


「手がかりが見つかったかも」

「そっか」


 フィオナはそれだけ言って歩き出し、マリーは伸びをしながらあくびをひとつ。


「でもまあ、戻れるって言っても、今すぐじゃないんでしょ? じゃ、今はここでやれることをやるしかないね」

「うん。ありがとう、二人とも」

「感謝されるほどのことはしてないわよ」

「ああ、この報奨金でやっとカイルへの借りが返せる。晴れて自由の身だー」

「…本当に能天気ね。この酔っ払い」


 そんな調子で、三人の足取りは再び街へと向かっていった。


 夜の灯りが静かにともり始める頃。


 エリカの心の中に、微かな光――帰還という名の希望が、静かに芽吹きはじめていた。


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