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#41

 焼け焦げた岩肌に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 ここだけ、まるで別の世界だった。湿気を含んだ山の風は乾き、焦げた鉄のような匂いが立ち込めている。足元の土は赤黒く、ところどころで灰が風に巻き上がっていた。


「……ここが、“焦げ尾の岩場”か」


 フィオナが地図と照らし合わせながら呟いた。木々が焦げ、石は割れ、地面には熱がまだ残っているようだった。


「自然火災ってレベルじゃないよな、これ」


 マリーが眉をひそめて口笛を吹く。岩陰には炭化した倒木が転がり、その脇には焼け焦げた骨――おそらくは野生の獣のものだろう――が転がっていた。


「……何かに焼かれた痕ですね。竜の吐息とか……」


 エリカは近くの地面にしゃがみこみ、炭の匂いを嗅ぐ。熱はもうないが、魔力の残滓はまだほんの微かに残っている。


「気をつけて。風の向きが変わった」


 フィオナが耳を澄ませ、風下を見据える。緊張の糸が静かに張り詰めた。


 ――そして、そのとき。


 視線の先。岩場の斜面の一角に、それはいた。

 赤銅色の鱗に覆われた巨体。鋭い尾を巻きながら、岩肌に溶け込むように身を伏せたそれは、獣とも竜ともつかぬ異形だった。目を閉じて眠っているように見えるが、その存在感は圧倒的だった。


「あれが……レッサードラゴン」


 エリカが小さく名を呟く。口にするだけで喉が乾く。体が自然と震えそうになるのを、彼女は必死に押しとどめた。


「まだ、気づかれてはいないわね」


 フィオナが冷静に状況を確認する。


「で、どうする?正面から戦う?」


 マリーが剣に手をかけるが、すぐにフィオナが手を挙げて制した。


「馬鹿言わないで。先ずは先制攻撃でしょ」


 マリーが口をつぐむ。エリカは、緊張と共に耳を傾けた。


「私が魔法で牽制するから。ドラゴンは魔法を使わないけど、吐息の威力と突進は洒落にならないわ。前衛はマリー、なるべく接近戦で引きつけて。エリカは後方で補助。私が魔法で支援しつつ、隙を突く」


「了解。正面から引き受けてやるよ」


「任せてください。サポートは全力でやります」


 それぞれの言葉に、微かな決意の響きが宿る。

 エリカは胸元の祈布を握りしめ、深く息を吸い込んだ。


 そのときだった。

 レッサードラゴンの瞼が、ぴくりと動いた。

 続けて、鼻先から熱い蒸気が漏れ、岩がじゅっと音を立てて焦げた。竜の頭部がゆっくりとこちらを向き、金属のような瞳が、三人を捉える。


「気づかれた……!」


 フィオナが声を上げる。


 次の瞬間――竜が咆哮した。


 風が裂けるような重低音。地面が震え、岩肌がびりびりと音を立てる。

 吐息こそ放たなかったが、その一声だけで十分だった。生物としての格が違うと、体が本能的に理解してしまう。


「しょうがない。行くよ!」


 フィオナの声とともに、彼女の指先に魔力が集束する。

 マリーが剣を抜き、崖を駆け上がる。

 エリカはすでに祈りを結び、仲間へと支援の祈りを編み上げていた。


 焦げ尾の岩場にて――

 竜との戦いが、今まさに始まろうとしていた。


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