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#14

 朝食を終え、焚き火の火も小さくなったころ。

 エリカは、ためらいがちにカイルを見上げた。


「……あの……少し、お話してもいいでしょうか」


 カイルは頷き、焚き火のそばに腰を下ろしたまま、無言で続きを促す。

 エリカは膝の上でぎゅっと手を握りしめ、ぽつりぽつりと語り始めた。


「私……元々、この世界の人間じゃないんです」


 カイルは眉ひとつ動かさず、静かに耳を傾けた。


「もとの世界では……ごく普通の、学生でした。でも、ある日突然旅先で、光に呑まれて……目が覚めたら、あの街の近くの森に倒れていて……」


 声は震えていたが、必死で言葉を繋ぐ。

 カイルはわずかに目を細めた。


――異界転移。噂ですら聞いたことのない事象だった。転移の魔法なら聞いたことはあるが別の世界からの転移など聞いたこともない。


 だが、こんな辺境に?


 考えを巡らせながらも、口を挟まず、エリカの言葉を待った。


「最初は、ただ助けを求めたくて……でも、見たこともない魔物や人たちばかりで……不思議と読み書きは出来たので、何とか素性をごまかして四年ほど神殿でお世話になり…冒険者にはなりましたが元の世界へ帰る手がかりの糸口さえ見つからず…」


 そこまで言って、エリカは震える肩を抱えた。

 カイルはそっと視線を落とす。


 彼女が味わった恐怖は、想像に難くなかった。

 しばし沈黙が落ちた後、エリカは顔を上げた。

 潤んだ目が、カイルを真っ直ぐに射抜く。


「……でも、あなたは……今まで出会ったどんな人とも違います。あなたのような方が手を貸してくださるのであれば、もしかしたらと。希望が湧いてきました」


 カイルは眉をひそめる。


「他の人と違う、とは?」

「はい。魔法ではなく私にだけある特殊能力のようなもので。言っても信じてもらえないと思って他の人に話すのは初めてなんですが」


 エリカは言葉を探しながら、震える声で続けた。


「貴方はこの世界で勇者と呼ばれる存在ですよね。私も初めてお会いしましたが」


 カイルはわずかに息を吐いた。

 異界から来た影響か、あるいは本人の素質か。

 少なくとも、尋常な感覚ではない。


「少なくとも看破の奇跡ではない、か。あれは話の真偽を確かめる奇跡だしな」


 問うと、エリカはきょとんと目を瞬かせた。


「私には見えるんです。その人の持つ役割や能力が。貴方のように際立った人物を今まで見たことがない」


 カイルは軽く舌打ちした。

 手を貸すとは言ったがどうやら面倒なことになった、と思った。

 "見える者"とでもしておこう。自身の素性を知る者はアズレインを含め数人しかいない。その事実だけでも胡散臭い占い師の類ではないだろう。

彼女は霊薬の力で隠されたカイルの本質を感じ取っている。

 彼女に下手に正体を誤魔化しても無駄だろう。


「――俺は、ただの冒険者だ。

 素性はどうでもいい。忘れろ。それとその世迷い事を他人に話したりするなよ?その時はお前を斬るしかなくなるぞ」


 低く抑えた声で、カイルは告げた。

 エリカは、少しだけ悲しそうな顔をした。

 だが、それ以上は何も尋ねなかった。


「……わかりました」


 そっと、静かに頷く。

 カイルはその様子を見て、焚き火の残り火に細かい薪をくべた。

 ぱちぱちと小さな音を立て、炎がまたひとつ息を吹き返す。


 ――この娘。

 この先、どうなるのかは分からない。

 だが、少なくとも今は――


「行く当てがないなら、しばらくついて来い」


 カイルは炎を見つめたまま、ぼそりと言った。


 エリカはきょとんと目を瞬かせ、すぐにぱっと顔を輝かせた。


「……はいっ!」


 心からの返事だった。

 朝の陽光が、二人の影を長く伸ばしていった。


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