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第9話(闇オークション)


 アイルシアが移動させられ連れて来られた場所。

 そこには、幾つもの鉄製の檻があり、数名の少年少女が別々に閉じ込められていた。


 歩いて来た地下通路との境目に設置された、金庫室に有るような重い二重扉が、

 「ギ〜」

と不気味な音を立てて閉められる。

 アイルシアを拉致した四人組は、キューブ男爵の命令で扉の手前で元来た道を戻って行き、既に姿は無かった。



 『ここが拉致した者達をオークションにかけるまで一時預かりしておく場所なのね......何処かの侯爵家の地下というところかしら?』

 アイルシアも檻に入れられ、周囲を見渡しながら、そんなことを考えていた。

 『侯爵家ならば、その邸宅の敷地内は治外法権で保護されているから......帝國政府や七公爵家と雖も、おいそれとは手出し出来ない特権で護られた場所だものね』



 五公や七公爵家は、海洋大帝國建国当初の功臣が封じられた家であるのに対し、現存する15侯爵家は、それ以後の千数百年に及ぶ長い治世の間に、抜群な功績を立てた者や、権勢を振るった者達がその実力で勝ち取った結果、得た爵位の末裔である者が大半だ。

 そうした経緯から、一時期は侯爵が数十家に及んだ時代も有った。

 小王国の主とは言っても、所詮辺境の君主でしかない五公や始祖の特権で代々爵位を継いでいる公爵家に比べて、侯爵家連合の勢力が大きく拡大し過ぎて、帝室すら脅かす存在となったことから、徐々に勢威を弱らせる目的で、最終的には15家を上限とする様、時間を掛けて改められたのだ。


 その代わり、侯爵家の邸宅内は公爵家にも無い特別な権利が付与されていた。

 それが、帝國政府や帝室も原則手出し不能な、邸宅敷地内における治外法権である。

 例外は、叛乱若しくはそれに準ずる行為のみという強力な特権。

 侯爵家連合が数の削減を受け入れるという苦渋の決断との引き換えに、過去の皇帝達から獲得した特別な権利。

 それを得てから既に300年以上の時が経っていたが、この特権は未だ有効なままで、現代においては大貴族による地下犯罪の温床となっていたのだ。



 キューブ男爵は、アイルシアを檻に入れると、その場に拘束している合計5名の少女少女をリストを見ながら確認する。

 アイルシアから見ても、他の4人全員が美少女、美少年。

 容姿を基準に品定めしてから拉致し、いずれ何処ぞやの大貴族か大富豪に売り飛ばす商品なのであろう。

 確認を終えると、

 「明日のオークションに出品する大事な商品だ。 直前になったら全員をキチンと身支度させるのだぞ」

と部下達に指示。

 やがて、もう一箇所の重厚な扉から、男爵以下全員が地下室を出て行ったのであった。



 「ガチャン」

と大きな施錠音がした後、地下室は静かになる。

 鉄製の檻は、それぞれが離れていて、拉致られた者同士がお互い話をしにくい構造となっている。

 簡易ベッドと簡易トイレが置かれた、牢獄の様な造り。

 アイルシアは、

 「あ〜あ」

とひとことだけ呟くと、簡易ベッドに横たわり、考え事をする。

 『本来のアイルシアが、なるべく目立たない様、年頃の美少女なのに、髪すらとかさず通学して生きて来たのには、こういうトラブルに巻き込まれたくないという考えが有ったからなのね』

 海帝は、ようやくそのことに気付かされる。

 『幼少期に大貴族からの酷い虐待を受け、貴族社会の底辺に居たからこそ耳に入ってくる、色々な醜聞。 小さい頃から耳年増に育った、何の力も持ち合わせない少女だからこその保身術。 僕はそこまで考えが回らなかったな〜』


 月新海帝が、ロベール・ルテスが、いかに恵まれた環境に有ったのか、拉致されてまさに売り飛ばされそうになってしまった段階になって、改めてそう実感していた。


 『でも僕の前世でアイルシアが、こんな受動的な生き方で幸せを掴むことが出来たのは、幸運が重なっただけ。 実際、転生してみたら、その幸運は風前の灯火となっているわ』 

 エウレア・シェラスが筆頭公爵家の当主にならない限り、アイルシアの境遇は底辺に沈んだまま。

 今の海帝流アイルシアが置かれた状況は、その幸運が訪れない方向へと明らかに進んでいる。


 『俺(海帝)は、俺なりに、ロベールの経験を糧として、新たなアイルシアの人生を歩むと決めたことに後悔は無い。 幸運は待つのでは無く、掴み取らなきゃ』

 鉄板製の天井を見上げながら、虚空を掴む仕草をするアイルシア。

 幸いにも、前日に魔力『守護の力』を手に入れたことで、このピンチを抜け出す道筋は見えているのだから......


 『積極的に動いたことで、レオニダス様の元から守護の力が私のところにやって来たに違いないわ。 母アーシアの一人娘への想いと願いを魔力自身が受け継いでいるからこそ、今その力がこの手にあるのよ』

 そして海帝アイルシアは、鉄製檻に付けられた頑丈そうな鍵へ向けて、力を込めてみる。

 すると......

 「バキッ」

と小さな音が静かな空間に響くと、押し込まれていた筈の鍵の軸が浮き上がっていた。

 開錠されたのだ。

 「アハハハ、上手く出来ちゃった」

 小声で呟きながら、今度は施錠しようとしたものの......

 「中が壊れちゃったみたいね」

 鍵をアイルシアが壊したのではないかと疑われはしないか、ちょっと焦った表情に。

 守護の力は、開錠と施錠を繰り返すというそんな器用なことを出来る代物ではなく、名前が示す通り、力技が得意な魔力だと改めて認識したのであった。



 

 一方、ロベールは帝都警察の本部を訪れ、状況説明を受けていた。

 「なるほど。 完全に狙われて拉致られたということですね?」

 ロベールの質問に頷く帝都警察本部の捜査員。

 目撃者の話や施設の監視カメラの記録から、事実は明らかであった。

 「では帝都警察として、アイルシアの捜索に本腰入れて頂けるのですよね?」

 ロベールの質問に、捜査員達は苦渋の表情に変わってしまう。

 「何か問題でも?」

 「我等は、帝國臣民の犯罪を取り締まる治安機関です」

 その言い方でロベールには十分であった。

 「拉致した犯人達のバックに貴族が居ると?」

 その質問に無言で答える捜査員達。

 『そうか、大貴族が絡む人身売買組織か。 噂では聞いていたが、厄介な連中に目を付けられてしまったな〜』

 思わず溜息を吐くロベール。

 「今後の捜査は、宮中警護隊の協力を仰ぐこととなります。 もちろん、ナイトー伯爵家から別の要請があれば、捜査状況は大きく変わりますが」

 帝都警察の捜査員は、それだけを告げると、ロベールとの会話を打ち切ったのであった。


 『ナイトー伯爵家、か......』


 伯爵家の中では最も富裕であると言われている大富豪大貴族。

 アイルシアは、一応その一門に連なるものの、現当主と血縁関係は無く、しかも人間関係は最悪である。

 未来で死んだロベールがアイルシアに転生した後、伯爵家ではこれと言った動きがないようだが、これは現当主ミイカ・ナイトーの双子の娘達が、アンプルール学院中等部への進級を来年に控え、受験勉強に専念しているからだと聞く。

 帝國随一の名門私学である学院の進級試験は、初等部在学者で有っても非常に厳しく、中等部に外部から受験して合格出来るだけの学力が無いと進級出来ないと言われている。

 夏季休暇期間を目前に控えミイカは、娘であるマイカ、レイカの双子の為に帝都郊外の閑静なリゾート地にある別邸に2人を住まわせ、専用の家庭教師を招いて、受験に専念出来る環境を整えていた。

 そのため、逆に帝都中枢部にある本邸は、長期にわたり伯爵家の主要な者達が不在となっていて、アイルシアの侍女としての仕事はほぼ無い状態が続いていたのだ。



 『貴族が絡んだ犯罪だと、帝都警察は動こうとしないだろう。 頼るのなら宮中警護隊だが......』

 ロベールは貴族といっても爵位は最も低い子爵でしか無く、しかも地方貴族なので、宮中警護隊への影響力はゼロだ。

 アイルシアが貴族の御令嬢ならば動いてくれるかもしれないが、そうではない以上、厳しいであろう。

 「レオニダス様に相談するしかないか......アイルシアは未来が変わってしまうと言って嫌がるだろうが、他に手段は無い」

 ロベールは決意を固めると、その足でノース公の別邸へと向かうのだった。




 「どうしたロベール。 こんな夜更けに」

 別邸でロベールを自ら出迎えたレオニダス。

 長年の親友かつ忠実な臣下であるロベールの急な訪問に、ただならぬ事態が発生したのだと、直ぐに理解していた。


 「なるほど。 例の美少女が貴族の人身売買組織に拉致られたのだな」

 さわりの話で、事案の全体を把握したレオニダス。

 「宮中警護隊の全面協力を得るには、サクヤ姉さんからの要請が必要だな。 俺では力不足だ」

 レオニダスは現在、ライラル伯爵家の当主であるが、ライラル伯爵家自体がノース公国内における伯爵号でしかなく、ロベール同様の地方貴族扱い。

 中央ではほぼ無名の存在だからだ。

 早速、実姉に公国内専用の直通回線で連絡を入れるレオニダス。

 公子であるのに、こうした気さくさがレオニダスの魅力の一つだ。


 するとモニター越しにサクヤから、

 「私からも連絡を入れておくけど、レオニダス、それとロベール。 貴方達からも個人的に連絡を入れるべきよ」

 その会話に、

 「?」

 首を傾げる2人。

 「今の、宮中警護隊の副隊長って誰だか知ってるかしら?」

 「いえ」

 「存じ上げませんが」


 その返答を聞き、少し間を置いてから、

 「ヒントは、私の恋人」

 サクヤが悪戯顔を見せる。

 「アルダートだったのか〜」

 レオニダスとロベールが同時に声をあげる。

 「そういうこと。 要請は分かったわ。 売り飛ばされたら、救出は難しくなるからね」

 サクヤはそう答えると、モニター越しに2人に手を振り、通信が途切れる。

 2人は早速、大学の同窓生であるアルダート・ホンジョー次期公爵と連絡を取るのだった。




 「おい、全員出せ」

 キューブ男爵が地下室に現れたのは、丸一日経ってからであった。

 『あれは......アートべー伯爵だな』

 男爵の後ろにもう一人、如何にも貴族ですという上質生地の正装で現れた中年男。

 それは、前世でロベールがシェラス公爵家の私兵を率いて、反エウレア貴族連合と対峙した際、連合内の伯爵連中の中心人物がアートべー伯爵だったからこそ、見間違えることが絶対にない人物であった。


 男爵の配下がアイルシアの檻の施錠を外そうとした時、違和感を感じ、顔面蒼白に変わる。

 鍵が掛かっておらず、施錠を忘れたと思ったからだ。

 男爵や伯爵にバレないよう、サーッとした手つきで開錠したフリをし、

 「出ろ」

と偉そうにアイルシアへ指示。

 その心情に気付き、内心笑いながらも、何食わぬ顔で檻を出る。

 他の4人も、同時に檻を出たので、男爵も伯爵も、部下の男の怪しい手付きには気付いていなかった。



 もちろん4人の少女少年は、皆怯えた表情をしている。

 これから何が起こるか、想像出来ていたからだ。

 アイルシアは平然としていたが、みんなの様子に気付き、慌てて少し怯えてみせる。

 『この少年は、愛好家に競り落とされて、即男娼婦にさせられるのだろうな〜』

 『少女達は、愛人か妾といったところか〜。 容色が衰えれば、用済みで墓場行きってところね......』

 海帝アイルシアは、そんな感想を持ちながら、男爵の指示に従ってオークション会場へ。



 300メートル程歩いただろうか。

 設置された二重の重厚な扉が開くと、その先からは人々の歓声が聞こえて来た。

 『闇オークションの会場ね』

 中に入ると、控室の様なところに入れられた5人。

 「直ぐ着替えろ」

 男爵は冷たく言い放つ。

 そこには、綺麗なドレス4着と立派なタキシードが1着置かれていた。

 男爵と伯爵以外にも、機関銃を肩から襷掛けした警護員が4名。

 その他にも、数人の人物が居る。

 アイルシアを含めた5人は、黙ったまま着替える。

 すると、直ぐに出番のようだ。

 アイルシアは、⑤という札を手渡される。

 5人の中では、最後の品物という扱い。

 主催者側では、最も高値が付くと言う予測なのだろう。


 

 最初に少女3人が一人ずつ雛壇へと引っ張り出される。

 控室にも参加者達の盛り上がり声が聞こえてくる。

 そして、4番目は少年。

 「なんと、落札額は8000万でした。 盛大な拍手を」

 司会者の声の後、大きな拍手。

 遂にアイルシアの番。

 「さて、今夜のオークションでは、最も可憐な花の登場です。 どうぞ〜」

 司会者の紹介が始まると、雛壇へ押し出されたアイルシア。

 会場からどよめきが響く。

 その会場に居る参加者を睨みつけるアイルシア。

 『クズが世の中沢山居るな〜』

 内心そう思いながら、侮蔑の視線を向けていると、ある人物に気付き、視線が止まる。

 『あれは......アルダート?』

 もちろん、顔の一部を覆っているので、絶対では無いが、目付きで直ぐに気付いたのだ。


 死ぬ前のロベールの大学時代。

 その時のライバルであり、女帝即位後は帝國宰相として、エウレアを共に支えた最重要人物の一人。

 ロベールとも親交の厚かった同級生である。

 『なぜ......』

 オークションが始まると、

 「一億、一億二千......一億三千」

 どんどん値が上がってゆく。

 その声を聞きながら、海帝は必死に記憶を呼び起こす。

 『24歳のアルダートって、何をしていたっけ......』

 『朱雀公の見習い? いや、その前だ......』

 その時、アルダートが札を上げる。

 「二億です、他に居ませんか、二億、二億」

 『そうだ。 宮中警護隊の幹部だった筈......』

 海帝が思い出した時、アイルシアはアルダートに二億で落札されたのだ。



 舞台裏に引き戻されると、直ぐに落札者との面会室へ。

 数分待つと、アルダートが現れる。

 「......」

 無言でじーっとアルダートの表情を見詰めてみる。

 しかし、常に飄々としていて掴み所の無い人柄は、海帝が知るアルダートそのままだ。

 この時も、主催者側の関係者と落札後の手続きを和やかな雰囲気で話している。

 『相変わらずだな〜。 緊張って言葉はアルダートには無いのだろうか』

 既にアイルシアは、アルダートが何らかの目的で、闇オークションに潜入していると予測していたのだ。


 関係者からの説明が終わるとガラス越しではあるが、アルダートはアイルシアの方に近付いて来た。

 「貴方がこれからの私の御主人様なのですね?」

 あえて嫌味を言ってみる。

 すると、口パクで、

 『大丈夫?』

と言って来たが、あえて知らんぷりをする。

 まだ関係者が居るので、それ以上のことをするのは難しい。

 『そろそろ潮時ね』

 アイルシアは、拉致されていた他の4人の少女少年が連れ去られる前に、守護の力を思いっきり使ってみて、アートべー伯爵等が関わる、この闇オークションを滅茶苦茶にしてやろうと考えていたからだ。


 「アルダート様。 あとはお願いしますね」

 ガラス越しに大声で告げると、アイルシアは魔力を一気に開放。

 激しい振動が、アイルシアの居る控室にもアルダートが居る面会室にも伝わり始める。

 2人を隔てる強化ガラスが、見えない圧力に負けて、

 「ピシッ」

と音を立てた瞬間......

 ガラスが粉々に砕けたのだ。

 更に、地表上の建物の重さを含めた、地下室全体を支える柱にもヒビが入り始め、

 「ゴ〜」

と不気味な地鳴りがオークション会場全体にも響き始める。


 「何だ、この振動は?」

 「もしかして地震?」

 「なんだか、ヤバい雰囲気だな〜」

 闇オークション会場に居た数十人のセレブや、100人以上の裏組織の関係者達が一斉に不安気な表情に変わった時であった。

 アイルシアが全力開放した『守護の力』によって生じた、球形状の異空間の薄い膜が一気に広がり、地下室全体に強力な破壊力が発生。

 地表にもヒビが入り、構造物全部が支えを失った地下に向けて崩れ始める。


 「きゃ~」

 「逃げろ〜」

 方々から叫び声が聞こえる。

 その中を守護の力で護られたアイルシアがアルダートを連れて悠然と歩いて行く。

 やがて、階段を見つけると、2人はアイルシアの近くの別室に居た少年少女をも救い出して引き連れ、地表へと脱出したのであった。



 「屋敷全体の包囲を続けるんだ。 中に突入する必要は無い」

 地下から出たアルダートは、宮中警護隊と応援の帝都警察の部隊に向けて指示を出す。

 捜査に従事していた全員が、配置に着いたまま崩れ行く大邸宅の状況を呆然と見詰めている。


 帝都中枢部に所在する、歴代当主の放蕩が原因で没落したブランブルグ侯爵家の別邸。

 その地下室がいつの間にか改造され、オークション会場となっていた。

 流石に治外法権があるとは言っても、自身の邸宅の地下に、違法な人身売買や闇オークションをする会場が有れば、罪を免れることは出来ない。

 それ故に闇の組織は、近年破産した旧侯爵家の空き家となっている別邸を利用して、この様な設備を作っていたのだ。



 「突入〜」

 崩壊が止まってから、捜査員達が一斉にボロボロになった敷地内に入ったものの、捜索や身柄拘束というよりは、大量に出た負傷者の救護活動となってしまっていた。


 『ちょっと、やり過ぎちゃったかな......』

 初めて使った守護の力。

 アイルシアの適性は、海帝が知るレオニダスの適性よりも数ランク上であったようだ。

 オークションに掛けられた少女少年の4人と共に宮中警護隊にアイルシアも保護されている。

 そこに、アルダートから知らせを受け、夜中にも関わらずロベールが現場に駆け付けて来た。

 「アイルシア〜」

 無事な姿を見て抱き着いて来たが、即阻止。

 「痛てて」

 電流みたいな感触が走り、両手の痺れで声が出てしまう。


 「ロベール様。 私はこちらにおられるアルダート・ホンジョー様に競り落とされました。 ですから、既にホンジョー公爵家の所有物となったのですよ」

 アイルシアの冷静かつ予想だにしなかった言葉に唖然とするロベール。

 「いや、それって闇オークションだろ? 無効に決まっているじゃないか」

 「いえいえ。 もし、落札代金を支払ってしまったのならば、無碍には出来ません。 代金分は働かないと」

 そのやり取りをアルダートは聞いていたのだろう。

 「ロベール。 そういうことだから、この子はホンジョー公爵家で引き取らせて貰うよ」

 近付いて来るなり、その様に話し掛けてきたのだ。

 「マジかよー。 僕だって凄く心配して、色々と動いていたのに......」

 滅茶苦茶不満を口にする。

 暫くそんなやり取りが続いたが......


 「冗談だ、ロベール。 こんな状況になってしまったのに、落札代金支払っている訳ないよな」

 アルダートがようやく真相を話すと、満面の笑みを見せたロベール。

 「しかし、まあ、酷い廃墟状態だな。 いったい何が有ったんだ?」

 その質問にアイルシアは答えられない。

 すると、アルダートがロベールに見えない様に、

 『しーっ』

とアイルシアに向けてジェスチャーをすると、

 「建物の老朽化だろうな。 ブランブルグ侯爵家が破産して十年以上経つだろ? ろくに手入れが入っていない大きくて重厚な古い大豪邸の地下に、人知れず地下オークション会場を造れば、いつかはこうなるさ」

 アルダートの説明に、納得いかないロベールだったが、アイルシアが無事だったことで、それ以上追及するような野暮なことはしないのであった。


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