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第8話(守護の力?)


 謎の男達4人に拉致されたアイルシア。

 車両に押し込められると、直ぐに特殊な薬物を嗅がされ、意識を失ってしまっていた。



 「チャンチャチャチャチャ♪、チャチャチャ♪、チャチャチャ♪」

 ロベールの携帯型通信端末の着信音が鳴る。

 『誰だろう?』

 そう思いながら、

 「もしもし」

と出てみると、

 「こちらは、帝都警察本部のターカーと申します。 ルテス様でしょうか?」

との第一声だった。

 「帝都警察?」

 思わず質問してしまう。

 「はい、帝都警察です」

 「警察とは縁が無いと思うのですが」

 「失礼致しました、少し説明をさせて下さい。 先程、☓☓☓ショッピングモールの駐車場で、高校生らしい女性が連れ去られたとの通報が同時に数件寄せられまして、その現場に遺されていた学生用のバック内に入っていた携帯型通信端末。 そこに登録されていた連絡先がルテス様のみだったので、掛けさせて頂いた次第です」

 その説明を聞き、頭が真っ白になるロベール。

 「まさか、アイルシアが......」

 しかし、軍人であるので、直ぐに事態を把握すると、

 「どちらに伺えば宜しいですか?」

 その様に答え、取るものも取り敢えず直ぐに指定された帝都警察の本部へと向かうのだった。




 『アイルシア、アイルシア......起きて、アイルシア』

 幼き日に聞いた様な声。

 しかし、鮮明には覚えていない。

 『大丈夫?』

 『大丈夫......』

 問い掛けに反射的な答えをする。

 『貴女には私が付いているわ。 だから安心して』

 『誰なの?』

 『あら、忘れちゃった?』

 『何だか、懐かしい感じがする......』

 『そうね。 11年ぶりだものね』

 『11年ぶり?』

 『私はアーシアよ。 元の名をエリシア・グドール』

 『お母さん?本当に?』

 『うん。 とにかく私が付いているから、心配しないで。 きっと今のピンチも乗り切れるから......』

 そこまで声がしたところで、意識が戻ったのだった。

 目を瞑ったまま、耳を澄ます。


 「これは......凄い上玉ですね、兄貴」

 「情報通りだな」

 「キューブ男爵、幾ら出してくれますかね〜」

 「1000万、いや2000万は固いだろう」

 「これ程の子、久しぶりに見ましたよ。 でも大丈夫ですか? 何処ぞやの貴族の令嬢とかってパターンは」

 「それは無いらしいぞ。 ヨーコ・ザークライによれば、この女子高生はせいぜい侍女クラスの平民。 若しくは下女かもしれないってよ」

 「ヨーコって、ブレゲ侯爵家の侍女ですよね? その情報、信憑性あるのですか?」

 「さあな。 侯爵家の侍女ぐらいじゃあ、大した情報力は無いだろうぜ」

 「しかし、いつものように引き渡し前、もちろん愉しむのでしょ?」

 「そりゃあ、当たり前だ。 4人で輪し捲るに決まってんだろ?」

 「うへへ」

 「いや〜、勃って来ちゃいました」

 「俺も」


 真ん中の座席で横たわるアイルシア。

 監視している前後の座席に座る男達のうち一人が、欲望の赴くままアイルシアに手を伸ばした、その時。

 「痛て〜」

と大声を上げて、伸ばした手を引っ込めたのだ。

 「どうした?」 

 「いや、この女に触ろうとしたら、電気の様なものが手を貫いたので......」

 「本当か?」

 そう言いながら、もう一人の男がアイルシアに触れようとしたものの......


 「あちい、あちちち、火傷した」

 手を振りながら、顔をしかめる。

 「このアマ、何をしたんだ」

 怒りに震えるこの男。

 アイルシアにビンタを喰らわせようとしたが......

 「ぐわ〜、あちちち、痛え〜」

 大きな悲鳴を上げて、手を押さえたのだ。

 よく見ると、酷く焼け爛れているその右手。


 アイルシアはこの時点で意識を取り戻していたが、あえてまだ意識を失っているフリを続ける。

 「よく見ろ。 女は意識が無いままだぞ」

 「いや、そんな筈は......」

 「取り敢えず、アジトに着くまで余計なことはするな」 

 四人組のリーダーらしい、運転している男が指示を出すと、残りの2人は火傷をした男の手の治療を始める。



 『もしかして、レオニダス様が喪失した守護の力は、私に移動していたの?』

 アイルシアに悪意を抱いて触れようとすると、男達が怪我をする状況を見て、そんな直感が働いていた。

 そして、先程見たばかりの、母であるエリシア・グドールが語り掛けてくるという非常に鮮明な夢を思い出していた。

 『レオニダス様から、転生前よく聞かされたなあ。 前魔力保有者エリシア・グドールの夢を魔力の影響で見ると』

 

 やがて、ある問題にも気付かされる。

 『エウレア様から、魔力の使いこなしはその人の適性で大きな差が出ると聞いたことがある。 もしエウレア様がこの力を使えば、ここに居る4人など、一瞬で消し去るに違いない』

 死ぬ前の過去の経験から、魔力の一つである守護の力が発動すればどうなるか、おおよその予測は付いていた。

 

 『でも私は? 前世で僕は魔力保有者で無いから、能力を発揮させる方法も知らないし、習熟もしていない......』

 アイルシアの適性は、この時点で不明。

 ただ治癒の力を使う時のアイルシアについて、エウレアが褒めている記憶があった。

 『取り敢えず、魔力『守護の力』には強い自己防衛能力があるから、私に危害を加えようとすると、勝手に発動するみたいね』

 男達の会話や状況から判断した海帝アイルシア

 『暫く様子見してみますか。 ピンチになったら守護の力を使って、離脱を狙うことにしよう』

 そのような決断に至っていた。



 その後も男達の会話を聞きながら、考えを張り巡らせる。

 『キューブ男爵って......。 確か、裏で人身売買をしている大貴族の元締めアートべー伯爵と親しい人物の一人だな......』

 前世で幾度か聞いたその名前。


 エウレアは帝國宰相代理時代から、貴族による人身売買を撲滅しようと積極的に動いていたが、ロベールが死ぬまででは、組織の壊滅に漕ぎ着ける段階には至っていなかった。

 これは、帝國内最大の宗教団体である神聖大海教団も密接に絡んだ、巨大な犯罪組織であったことによる。

 しかも偶然だが、高額のお布施をした者に大海教の幹部から下賜される綺羅びやかで御利益のありそうな特殊金属製のネックレスやブレスレット。

 実は、この特殊金属自体が古代人の遺物で、魔力の過干渉を抑える目的で作り出された特殊な合金であったのだ。

 それ故エウレアですら、これを装着した人物の思考を魔力で察知するには、一定の距離まで近付かないと把握出来ない。

 エウレア自身、その特殊合金の作用を知らないままなので、人身売買組織の総元締めを割り出せていないのだ。

 また、代理統治監ジャク等の巨額不正行為を魔力によるチェックで把握出来なかったのも、これが理由であった。


 『せっかく過去に転生したのだし、こういう状況に陥ったのだから、人身売買に関する何か新しい情報でも得られればってところかな』

 意外と危機感の無いアイルシア。

 これは、ロベールの人生を経験した海帝が転生したことによる賜物であろう。



 「おい、起きろ」

 2人が怪我をしたので、アイルシアの行動を警戒する4人の男達。

 大声を掛けられたことで、ようやく意識が回復したフリをする。

 「......」

 「とりあえず、降りろ」

 そう指示され、黙って従うアイルシア。

 連れてこられた場所は、小さな民家の前であった。

 「中に入れ」

 一人の男がドアの鍵を開け、扉が開く。

 建物内に入ると、目の前には2階へと上がる階段。

 その裏側に行くよう促され、渋々従うと、そこには地下に降りる階段が。

 先頭の男に続いて、階段を降りると、地下通路が有ったのだ。

 歩くこと数分。

 少し広い空間に出ると、鉄格子で作られた鍵付きの牢屋の様なものが2つ存在。

 「そこの中に入るんだ」

 指示されたまま、鉄格子の檻の中に入るアイルシア。

 3人の男の手元には、大きなナイフが見えたので、抵抗せず従う。



 大きな音がして檻の扉が閉まると、

 「ご褒美は......」

 一番下っ端らしい若い男が、リーダーらしい、少し年長の男に訴えかける。

 「さっきお前は火傷しただろうが。 理由はわからないが、この女に触れると怪我するみたいだからな」

と答え、犯すのは諦めろと暗に仄めかす。

 「でもよ〜、こんな上玉、味わう機会なんて、そうそうないですぜ」

 諦めきれない若い男。

 もう一人も、ウンウンと頷く。

 「じゃあ、もう一度手を出してみてみればイイじゃないか。 どうせ、さっきみたいなことになるだろうけどな」

 性欲を抑えきれない2人の様子に、リーダーらしい男ともう一人の中年の男は少し呆れた顔。


 「ありがとうございます、兄貴」

 嬉しそうに答えると、若い男2人がアイルシアの入っている牢屋にやって来たのだ。

 「おい、抵抗するんじゃねえぞ」

 「抵抗したら、分かっているだろうな」

 2人はアイルシアを脅す。

 それに対し、キーッと睨んだまま無言のアイルシア。

 「そのまま大人しくしてろ」

 欲望が頂点に達し、牢屋内に入るとそのまま襲いかかってきたが......

 「あちちち、あち、あち〜〜」

 「うおお〜、ぎゃあ〜〜〜」

 2人はそれぞれ別々の反応だが、激しい痛みに襲われ、蹲ったのだ。


 「ほらな。 もう止めとけ」

 リーダーらしい男は2人に忠告する。

 「今回は金だけ貰えれば十分だ。 それに、この娘がもし処女だったなら、追加報酬が発生するしな」

 中年の男もリーダーらしい男に同調。

 自業自得の激しい痛みを我慢しながら、若い男2人はリーダーに質問をする。

 「ところで、この女に掛けられている防壁みたいなもの、何なのですか?」

 「それはおそらく、この子に魔力の防護が掛けられているのだろうよ」

 「魔力?」

 「幾らアホなお前等でも、聞いたことぐらいは有るだろ?」

 「ええ、まあ。 でも、情報提供者の話では、コイツの身分は低いということですぜ」

 「身分は低くても、貴族の家で仕えていれば、防護魔法を掛けて貰えることも有るだろうよ」

 「そうそう。 俺達平民にはわからない世界だが、貴族の中には魔力使いが常に出現しているからな」

 「そうなんですか?」

 「今だと、筆頭公爵家の末娘が有名な魔力使いだぞ。 名前は忘れたが」

 「防護魔法の解き方は、大貴族しか知らないと言われているのさ。 だから俺達には、この子をどうすることも出来ない。 さっさとキューブ男爵に引き渡して金が貰えれば、それ以上欲をかくなってことだな」

 リーダーの男は仲間の若い男2人に改めて忠告すると、何処かに連絡を入れたのだった。



 その後は暫く静かな状況が続く。

 やがて地下通路の奥から、足音が聞こえて来た。


 「これはこれは、男爵様」

 4人は急に低姿勢に。

 「この子か?」

 「はい」

 男爵はぶっきらぼうな態度で、檻の中を覗き込む。

 すると表情が一変。

 「これは驚いたな」

 「ありがとうございます」

 そして、上質な上着の内ポケットから1枚の紙を取り出すと、何かを書き込む。

 「今回の報酬はこの金額だ」

 そう言いながら紙片をリーダーらしい男に手渡す。

 どうも小切手のようだ。

 「2500ですか、これは有り難い」

 そう答えると、

 「じゃあ、いつもの場所に移動させてくれ」

 そう指示する。


 「おい女。 立て」

 若い男がナイフをちらつかせながら指示をする。

 渋々従うアイルシア。

 檻の鍵が開錠され、扉が開く。

 「兄貴に続いて歩け」

 その後、キューブ男爵を筆頭に、地下通路の更に奥へと連れて行かれてしまうアイルシアであった。

 

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