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第3話(既視感?)


 転生初日の放課後、月新海帝が転生したアイルシア・グドールは、帝都中心部にある大きなショッピングモールをぶらついていた。

 その目的は、短時間バイトが出来る所を探す為。


 「ここは、高校生可で時給1000か〜」

 「こっちは時給1100ね〜。 高校生については書いてないなあ〜」

 海帝が生きていた世界の日本ほどではないものの、この異世界の海洋大帝國でも少子高齢化が始まっており、特に若者の人手は常に不足気味。

 だからかなりの店舗で、店先にアルバイト募集の掲示がされている。

 アイルシアはお金が無いので、殆どの人が持っている携帯型通信端末スマホのようなものを所持していないばかりか、部屋に情報処理端末パソコンのようなものも無い為、アルバイトに応募するには、募集している店に直接伺って、採用して貰うのが手っ取り早いと考えたのだ。


 そうこうしていると、一人でウロウロしていたことで、人目を引く美少女ぶりが下心に満ちた連中に目を付けられてしまう。

 「そこのカワイイ子、何しているの〜」

 「ちょっと、お話しようよ〜」

 若い男の二人組がアイルシアにいきなり声を掛けて来た。

 典型的なナンパだ。

 しかし、無視するアイルシア。


 すると、

 「おい。 俺達みたいな大人なイケメンが声掛けたのに、そんな態度はイケナイなあ〜」

 「ダメだよ〜、無視は〜」

と、やや態度を硬化させて、少し脅すような雰囲気を出して共に行動しようよと迫って来る。

 でもアイルシアは、男二人の方には目をくれず、ひとまずしつこく付いて来る状況を躱そうと、歩くスピードを速める。

 そんなことをしているうちに、遂に挟み撃ちにされてしまったのだ。


 「止めて下さい」

 行き場が無くなり、声を上げて抵抗するアイルシア。

 ところが逆に男達はどんどんエスカレート。

 「ここまで手を煩わせたんだ。 ちょっと付き合えよ〜」

 腕を掴み、無理やり何処かに連れて行こうとする気配。

 『これは不味い......転生早々早速貞操の危機ね』

 一気に二人分の人生が合わさったことで、危機察知能力や直感も強くなったアイルシア。

 「誰か〜〜、助けて下さい。 連れ去られて✖✖✖されてしまいそうなんです」

 更に大声を上げたものの......

 誰もトラブルに関わりたくないのか、付近を通る人は多いが、助けようとしてくれる者は皆無なまま。


 「騒ぐんじゃねえ〜よ」

 「紳士的に話し掛けたのに、つけ上がりやがって」

 遂に、本性を出し始めた男達。

 直ぐ口を塞がれてしまい、

 「モゴモゴモゴ......」

と声を上げ続けるも、助けを呼べない状況に。

 そして二人に両腕を強引に組まれ、モール外に連れ出される勢いとなってしまうのだった。



 そのまま建物の端にあるエレベーターへと無理やり乗せられ、最上階へ。

 一階に連れて行き、何処か遠くに連れ出そうというのではなく、人気が無い屋上で直ぐに犯してしまおうという魂胆のようだ。

 「モゴモゴモゴ......止めて〜、モゴモゴモゴ」

 エレベーターの中で騒ぐも、乗り合わせた人々は、男達やアイルシアと目を合わせようとしない。

 関わりたくないからと、途中の階で止まると全員が降りてしまう......

 エレベーターの中は3人だけに。



 屋上へ到着すると、そこは半分が駐車場で、奥半分は倉庫となっていた。

 「こっちへ来い」

 両足を踏ん張って、精一杯抵抗するアイルシアを強引に引っ張り、人気が無い倉庫の方へ連れて行こうとする男達。

 そこにちょうど車を止めて降りて来た若い男女二人が、エレベーターの方に向かって歩いて来たのだ。

 『あの車......何だか見覚えが......』

 海帝アイルシアがそう思った瞬間、背の高い男が回り込んで立ち塞がってくれた。


 「お前等、何処にその女の子を連れて行く気だ?」

 男の質問に、

 「お前には関係ないだろ」

と悪態をつく二人。

 その瞬間。

 背の高い男は、アイルシアの両腕を抱えていた男二人の片腕ずつを掴み、捻り上げたのだ。

 余りの痛みに、アイルシアの両腕を抱え込んでいた力が一気に緩む。

 その隙を見て逃げ出し、背の高い男の背後に隠れたアイルシア。

 「助けて下さい。 この二人にしつこく付きまとわれて、無視していたら、屋上に連れ出されてしまったのです」

 その訴えを聞き、二人を睨みつける背の高い男。

 すると、その威圧感に叶わないと思ったのか、

 「このクソアマ、覚えていろよ〜」

と言い残し、その場から逃げるように立ち去って行ったのだった。


 「助かりました。 本当にありがとうござい......」

 そこまで言いかけて、顔を見上げると、助けてくれたのは、なんとレオニダスだったのだ。

 「レオニ......」

 思わず名前を言ってしまいそうになるが、グッと言葉を呑み込む。

 「大丈夫?」

 レオニダスは、この時点で面識の無い筈のアイルシアが、自身の名前を言いかけたことには全く気付いていないようだ。

 「はい、お陰様で......」

 「君は綺麗な子だから、普段から少し気を張った方が良いと思うよ」

 今後、不良な男達に絡まれないよう簡単なアドバイスをすると、その場から立ち去ろうとする。

 「あの〜、お名前だけでも......」

 「俺はレオニダス・ライラル。 連れを待たせているから、またね〜」

 そう答えると、待っている女性の方へと向かってしまう。

 アイルシアは頭を深く下げて、感謝の意を示してから、その歩いて行った方向に目をやると、レオニダスを待っている女性が、遠目でもロベールに転生していた時の海帝がよく知る人物であることに気付いてしまった。


 『あの女性は......まさかエウレア様?』

 エレベーターの設置されているガラス張りの建屋の中でレオニダスを待っていた女性は、トラブルを収めて戻って来たレオニダスに手を振ると、やがて二人は一緒にエレベーターに乗って去って行く。

 アイルシアは、エウレアに顔をハッキリと見られないよう気を付けながらも、その挙動をじーっと見つめていたのだ。


 『不味いかもね、この状況は。 ロベールの時の記憶では、確か私とレオニダス様との初対面は北軍の帝都駐屯地だった筈。 だから、まだこの時点で出逢っていないのは確実。 そして、エウレア様と出逢った事実も、アイルシアの記憶には一切無い......』

 転生後のルール何ていうものは、よく知らない海帝であったが、本来の出来事と余りにも違った状況が続けば、未来が大きく変わってしまうことだけは、理解していた。

 『とにかく、エウレア様に見つけ出して貰って、ナイトー伯爵家との身分契約の縛りから脱しないと、私、アイルシアの人生は暗い状況のまま......未来が大きく変わることだけは絶対に避けなければ』

 エウレアとの出会いは、絶対に発生させねばならないイベントであると肝に銘じておかねばと、改めて自身の行動について、注意を払わないとと考えるアイルシア。


 『レオニダス・ライラルって名乗ったわね。 すると現在は、亡くなった実のお父様のライラル伯爵家を継いでいるってことになるけど......私がルテス子爵だった時の記憶では、大学卒業後に一旦継いだものの、北公国の財政難から一年位で伯爵号と領地を全て返還し、養父のティアナ姓に戻った筈。 私と9歳差のレオニダス様だから......24歳の時には、間違いなくティアナに戻っていた』

 ロベール・ルテスだった時の記憶を巡りながら、アイルシアに転生する前と、現在の出来事の相違点を整理する海帝。


 『そうだ、思い出したわ。 今の私が軟派野郎二人に襲われそうになった出来事って、確か私がルテス子爵だった時、北公国軍の帝都駐屯地に近いこのショッピングモールで実際に有ったことよ。 でも、あの男二人をとっちめたのはレオニダス様じゃなくて、私自身(ルテス子爵)だったし、場所も一階の駐車場だった記憶が......もちろん、男二人に拉致されそうになった女子高生はアイルシアでは無い。 しかもエウレア様はレオニダス様と婚約解消した後の出来事だったから、同行していなかった.....』


 そして、ある結論に達し、顔面蒼白になってしまう。

 『転生初日なのに、ルテス子爵だった時に経験した出来事と、もうこんなに状況が変わってしまっているってことは......この世界での私の未来って、相当ヤバい方向ってことだわ......』

 



 大きなトラブルに巻き込まれたので、ひとまず伯爵邸へ帰り、アルバイトを探す件は出直すことに。

 短時間とはいえ、働くのであれば、伯爵の許可を取らなければ、後々問題となるに違いない。

 そう考えたアイルシアは、この日は大人しく帰宅したのであった。



 そして直ぐに執事のアシナを通して、伯爵に短時間アルバイトしたい旨を届け出たアイルシア。

 文句を言われると考えていたが、この頃には既にアイルシアに全く興味の無かった当主のミイカは、何も言わず黙認したのだった。


 「アイルシア。 ご当主様は、何も仰られなかったから、短時間アルバイトをしても構わないだろう。 ただし、何か問題が起きれば、暗黙の許可は当然取り消されるので、そのつもりでな」

 海帝の記憶では、ナイトー伯爵家に仕える執事の中では、最もマトモな人物だという印象が有る、ヒロヒコ・アシナ。

 それは海帝がルテス子爵だった時、執事アシナの人生が伯爵家当主ミイカ・ナイトーが抱える重大な秘密を守って自殺という結末だったことから、そのように記憶していたのだ。

 アイルシア自身の記憶だと、伯爵家に仕える幹部全員をただ嫌っているだけであったから、この行動は海帝の判断によるものであった。

 そして、彼を通じて申し出たことが吉と出たのだろう。


 「ありがとうございます、アシナ様」

 アイルシアは表情を変えず、淡々とした口調で感謝を伝える。

 アシナも忙しいことや、マイカお嬢様とアイルシアが顔を合わせるような場面が有った場合、必ず一悶着があるので面倒事になるからと、用件が済んだらさっさと邸宅から去るよう促されたので、そそくさと簡易宿所の自室に戻る。

 『ひとまず、最低限の収入を得る目途は見えてきたかな?』

 そんなことを考えつつ、海帝にとって3回目の高校生活を充実させるべく、次の手を考え始めるのだった。


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